
パンやパスタなどに含まれる「小麦」は、健康のために控えたほうがいい。そんなイメージを持っている人も多いかもしれません。近年はグルテンフリーが注目され、健康のために小麦を控える人も見られるようになりました。
ところが漢方の世界では、小麦は古くから生薬として使われてきた身近な食材の一つなのだとか。本記事では、漢方薬剤師・榎本楠紀氏の著書から、漢方の視点で見た小麦の意外な一面について紹介します。
※本記事は書籍『熱・水分・感情 滞りを「流すだけ」で病気は消えていく 頭痛、めまい、耳鳴り、便秘、生理痛、更年期障害、慢性疲労、過敏症、うつを治す「心と体の整え方」』(榎本楠紀:著/現代書林)から一部抜粋・編集したものです。
漢方は身近な食材の中にたくさんある
医も食も源は同じ、健康な体をつくる根本は食事にあると、漢方の世界では考えます。漢方の生薬の元は、山奥から採ってきたような高価で珍しい薬草と思われがちですが、意外にも日常でおなじみの食材が使われています。
たとえば、小麦です。最初に申し上げておくと、東洋医学的に、小麦は“悪者”ではありません。小麦(しょうばく)という呼び名になりますが、パンの元になる小麦と同一のもので漢方薬に使われることもあります。
それが甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)という薬です。
麦という字が入っているように、小麦がメインで処方されている漢方薬で、小麦と棗(なつめ)と甘草(かんぞう)という甘い物が入っているので、こねて焼いたら菓子パンができそうな、ほんのり甘い風味をしています。
効能としては、呼吸機能を整えて、脳に上がりすぎた熱を冷ましてくれるので、あかちゃんの夜泣きや、精神的にパニックになりやすい人、生あくびをよくする人などに使われます。
夜泣きもパニックも生あくびも、自分の中に入ってきた刺激がうまく処理できず、泣いてみたり、「どうしよう、どうしよう」とパニックを起こしたり、あくびをして脳の熱を逃がそうとしている発散行為です。
甘麦大棗湯は、悩みすぎで夜も眠れなくなってしまう人に処方することも多いです。考えすぎると呼吸が浅くなり、呼吸からの熱交換がうまくできなくなります。そこで呼吸を整えることで、うまくエネルギーを抜いて流してくれる働きがあります。
グルテンフリーがブームだが……
しかし、最近は、小麦に含まれるグルテンが健康によくないといって、食意識の高い人々がグルテンを排除した食品を食べるグルテンフリーが支持されています。
グルテンには、食品をふっくらさせたり弾力を持たせたりする性質があり、パンやケーキなどお菓子のふっくらもちもちした感じは、グルテンによって生み出されています。
そもそもグルテンフリーは、セリアック病というグルテンを摂取することで腸の細胞が破壊されてしまい、腹痛や倦怠感(けんたいかん)などさまざまな不調が出てしまう人のために実践されていた食事法です。
そこから、セリアック病ではなくても、グルテンが体質に合わない人が意外に多く、小麦の摂取を控えたところ体調が改善されたというふうに広まっていったようです。
でも漢方薬で使われる小麦は、グルテン抜きの小麦に変えたりしていませんし、私は、むしろ小麦は現代人に合っているとさえ思っています。
「冷ます」というのは、小麦のわかりやすい特徴です。その点、脳内活動向きといえるでしょう。いってみれば、情報社会、ストレス社会向け食材なのです。
文明が西洋化するにつれ、パンやパスタなど小麦の消費量が上がって、お米が減っていったといわれますが、それはライフスタイルとして小麦製品のほうが準備が楽だからとか、おしゃれに見えるからといった話だけではなく、小麦を食べているほうが心身が楽だと感じている人が多いからではないかと推測しています。
だからこそ、これだけ日本人の暮らしに定着し、パンやラーメンについ手が伸びてしまうのではないでしょうか。
知人の漢方専門医で、花粉症には甘麦大棗湯がよく効くといっている人がいます。100人来たら、100人治るほどよく効くと。
花粉症の人は小麦製品を控えようといわれたりもしますが、本当に小麦が悪いのか。
「気」の流れという観点から見ると、小麦のせいではなく、その前段階で花粉症などのアレルギーを起こしやすい原因を自分の中につくり出していて、それにたまたま小麦は反応している可能性もあるかもしれないのです。
ちなみに、米は漢方薬では粳米(こうべい)という薬で、胃腸薬によく使われています。胃腸はよく動く臓器なので、その部位によく使われるということは、体を動かす機能を高めて、肉体を整えるのに向いている食材といえます。
山登りや運動会など、「体をたくさん動かす日は、おにぎりを食べると活力が湧く」という日本人は多いでしょう。
その感覚は正しくて、肉体労働にはお米のほうがよいスタミナ源になります。
甘い物は溜まる、辛い物は発散する
小麦ともども、悪者にされがちな甘い物。本当は大好物だけど、罪悪感を覚えながら食べている人も多いのではないでしょうか。
漢方的には、甘い物は「陰」のエネルギーで「溜まる」、辛い物は「陽」のエネルギーで「発散する」と考えます。
「甘い物を食べすぎると太っちゃう」とよくいいますが、「辛い物で太っちゃう」とはいいませんよね。その通りなのです。
辛い物、強力な辛みを有する唐辛子は、香辛料でありながら、体を強力に温めたり、発散する薬効があります。
ただ、唐辛子のピリ辛な刺激は、胃への刺激が強いので、漢方ではあまり使いません。
サウナなどでガンガン汗をかいても、「気」が巡る体になるとは限らないのと同じで、強制的に温めて汗をかかせても内臓を傷めてしまいかねない。
その点、ショウガやサンショウなどさわやかな辛みは、マイルドに「気」を流してくれるのでおすすめです。
ここまでの記事では、漢方の生薬にも使われる身近な食材、小麦や米を東洋医学ではどのように捉えているのかについてご紹介しました。つづく関連記事では、「我慢しすぎない」漢方腸活ダイエットについてお届けします。
つづき>>我慢→リバウンドのループを抜けたい…止まらない食欲に、漢方で「ゆる腸活ダイエット」!おすすめはコンビニでも買えるあの飲み物【漢方薬剤師が解説】
■著者略歴: 榎本楠紀
漢方薬剤師・草漢堂グループ代表。1983年佐賀県生まれ。2007年名城大学薬学部卒業。複数の薬局勤務を経て草漢堂薬局に入局し、2016年に同薬局を継承。2017年くすのき漢方薬局、漢方明昭堂を開局。現在は草漢堂薬局ほのぼの調剤、草漢堂薬局・安城店、草漢堂はり・きゅう院、薬膳café草漢堂を含めて6店舗を運営する。東海漢方協議会理事を10年歴任し、52期・53期は理事長を務める。一般社団法人日本漢方交流会理事。




