
意外に知られていませんが、「やせていること」も健康上のリスクになり得ます。日本の若年女性のやせの割合は、先進国の中でも最も高いことが指摘されており、近年は女性の低体重/低栄養症候群(FUS:Female Underweight/Undernutrition Syndrome)として、月経異常、骨密度低下などとの関連が注目されています。
中でも懸念されているのは、かつては雑誌やテレビで、最近ではSNSなどを通して広がる「やせているほうが美しい」という価値観です。若年女性のやせは、本人だけでなく、妊娠・出産や次世代の健康にもかかわる可能性が指摘されており、近年は社会全体で考えるべき重要な健康課題として注目されています。
この健康課題に取り組む研究者のおひとり、順天堂大学 国際教養学部 グローバルヘルスサービス領域准教授・吉澤裕世先生に、特に娘を持つ保護者はこの問題をどのように捉えればいいのか、実際とのように子どもに向き合えばよいのかを詳しく伺います。
こんなにある、やせのリスク。体質と人生のステージで、やせの害は姿を変えて現れる
最初に、「やせに起因する健康上のリスク」についてです。一般的には、「やせているほうが健康的」というイメージを持たれることがありますが、近年では、過度なやせや低栄養がさまざまな健康問題と関連することがわかってきています。日本肥満学会「女性の低体重/低栄養症候群ワーキンググループ」の資料では、以下のようなFUSに含まれる主な疾患や状態が示されています。
■低栄養・体組成の異常
BMI
■性ホルモンの異常
月経周期異常(視床下部性無月経・希発月経)
■骨代謝の異常
低骨密度(骨粗鬆症または骨減少症)
■その他の代謝異常
耐糖能異常
低T3症候群
脂質異常症
■循環・血液の異常
徐脈
低血圧
■精神・神経・全身症状
精神症状(抑うつ、不安、集中力低下、認知機能低下)
身体症状(全身倦怠感、睡眠障害、冷え性、頭痛、便秘、髪質・肌質の低下)
身体活動低下
この一覧を見ると、「やせ」が想像以上に幅広い健康問題と関係していることに驚く人も多いかもしれません。たとえば「身体症状(冷え性)」は一般的にもイメージしやすい一方、「脂質異常症」や「耐糖能異常」については、「太ってる人に多いのでは?」と意外に感じる人もいるでしょう。これらの中で、特に注意が必要なものはあるのでしょうか?
「女性では、更年期以降に生活習慣病のリスクが高まりやすいことが知られています。が、やせや低筋肉量が背景にある場合、脂質異常症や耐糖能異常などとの関連がみられることもあります。『やせているから生活習慣病になりにくい』とは、一概に言えないのです」
また、この一覧には含まれていませんが、妊娠前からの低栄養ややせは、低出生体重児との関連を指摘されています。さらに、出生時の栄養環境が、その後の健康状態に影響する可能性についても研究が進められています。
「かつては、「小さく産んで大きく育てる」という言葉もありましたが、現在では、胎児期から乳幼児期にかけての栄養状態が、将来の生活習慣病リスクに関わる可能性があることも報告されています。ただし低出生体重で生まれたことが、そのまま将来の病気を決定するわけではありません」
このように、やせによる健康への影響は年齢やライフステージによって異なるため、吉澤先生は年代に応じた「伝え方」の工夫に力を入れています。
「高校生に将来の妊娠・出産への影響を伝えても、なかなか実感しにくいところがあります。一方で、肌や髪の状態、疲れやすさ、集中力など今の生活に関わる変化として伝えると、自分ごととして受け止めてもらいやすいと感じています。また、社会人世代では、将来の健康や妊娠・出産、次世代への影響といった視点から考える方も増えてきます。その時々で本人が大切にしていることに合わせて、健康リスクを伝えていくことが重要だと感じています。また、若いころに過度なやせは、将来の骨密度低下や骨粗しょう症リスクにも関わる可能性があります。また、妊娠前からの栄養状態は次世代の健康にも関係すると考えられており、ライフコース全体で健康を捉える視点が大切だと思っています。」
乳幼児期だけでは終わらない、「成長曲線」という大切なサイン
やせすぎはもちろん注意が必要ですが、過度な体重増加にも気を配る必要があります。子供の成長を見るうえで、吉澤先生が「ぜひ活用してほしい」と話すのが成長曲線です。
「小さいころは母子手帳に熱心に記録する方が多いのですが、小学校以降は見返す機会が減っていますよね。でも、成長曲線は成長が落ち着くまで、とても重要な情報になります。特に見てほしいのは、曲線が急激に変化していないかという点です。急に増えたり減ったりする場合には、生活習慣だけでなく、内分泌系の疾患や心身の不調が背景にあることもあります」
学校によっては、身体測定の結果とともに成長曲線を配布しているところもあります。そうした機会を活用し、急激な変化がないかを確認することは、早期の気づきにつながります。
また、BMIは成人では広く用いられる指標ですが、成長期の子どもでは身長変化の影響を大きく受けるため、慎重に解釈する必要があります。女子では初潮後に身長の伸びが緩やかになる傾向がありますが、個人差も見られるため、一律には判断できません。
「女の子は身長の伸びが落ち着いた後に、体重がゆるやかに増える時期があります。これは、体の成熟に伴う自然な発達の一部です。一方で、急激な体重増加や減少がみられる場合には、生活習慣や栄養状態、心身の不調など、さまざまな背景を考える必要があります」
ただし、乳幼児期のように細かな変化に一喜一憂する必要はありません。年に1~2回程度でも成長の流れを確認し、大きな変化がないかを見ていくことが大切だといいます。
つづき>>>ご家庭で「口にしないよう」気を付けてほしい言葉とは?減らすべき言葉、増やすべき言葉




