
夫婦問題・モラハラカウンセラーの麻野祐香です。
「こんなに優しい人と結婚したのだから、きっと幸せになれる」。そう信じて結婚したはずなのに、結婚後に相手の態度が大きく変わり、苦しんでいる女性は少なくありません。
仕事を持ち、経済的に自立している女性であっても、子どものために離婚を思いとどまり、モラハラに苦しみ続けるケースもあります。長年、夫婦問題やモラハラの相談を受ける中で、そうした悩みを抱える女性たちの声を多く聞いてきました。
モラハラ夫の暴言や、突然怒り出す態度に長くさらされていると、少しずつ心が追い詰められていくことがあります。今回は、夫とやっとの思いで別居したものの、今もなお夫の言動がフラッシュバックするというSさんのお話です。
【実録・カウンセラーから見たモラハラ・リバイバル】
結婚後、2日に1度は怒鳴られる日々
Sさんは結婚後、月の半分以上、夫から怒鳴られたり、言いがかりのような言葉をぶつけられたりしていました。最初の頃は、理由を説明したり、怒鳴られた内容に異議を申し立てたり、泣きながら反論したりすることもありました。しかし結婚して3年を過ぎた頃から、Sさんは少しずつ、「この人に反論しても受け止めてもらえない。かえって責められるだけだ」と感じるようになっていきました。
反論するたびに、夫からはこう言われたそうです。「馬鹿なくせに、俺を論破できると思っているのか」夫は、いつも言葉巧みに「Sさんが悪い」という結論へ持っていきました。そうしたやりとりを繰り返すうちに、Sさんには反撃する気力も残らなくなっていったといいます。
ある日、夫は帰宅するなり、「お前のせいで遅刻したじゃないか」と大声で怒鳴ってきました。「今朝もいつも通り起こして、いつも通りの時間に出ていったのに、どうしたの?」いつもと変わらないスケジュールで送り出したはずなのに、なぜこんなことで怒鳴られなければならないのか。そう思いながらも、Sさんは夫に理由を尋ねました。
しかし、夫の返答はいつも通り、Sさんを責めるものでした。
「『いつも通りに出かけた? 朝、お前が出した牛乳を飲んだせいで駅でお腹が痛くなってトイレに行ったんだ。そのせいで電車に乗り遅れたんだよ!』と言うんです。なぜ牛乳でお腹が痛くなったことが、私のせいになるのでしょうか。それはおかしい、私は関係ない。そう思っても、そんなことを言ったら何を言われるかわかりません。私はただ、『ごめんなさい』と謝ることしかできませんでした」
夫の足音を聞くだけで、心臓が痛くなる日々
Sさんは、夫に怒鳴られること、文句を言われることがとにかく怖かったと話します。大声で罵倒を浴びせられることは、精神的に大きな負担になります。それが日常的に続けば、心は次第に萎縮していきます。怒りでいっぱいの夫に、なんとか穏やかになってほしい。夫の怖い視線から逃れたい。次に何を言われるかわからない恐怖から、この場を早く終わらせたい。
そうした思いから、Sさんは「ごめんなさい」と謝ることしかできなくなっていきました。何も考えられなくなるのは、自分の心を守るために起きる反応でもあります。
「夫が帰宅する時間になると、心臓の鼓動が激しくなるようになっていました。夫が玄関のドアを開ける音を聞くと心臓がギュッと痛み、夫の足音で呼吸が苦しくなる。そんな日が続くようになりました。自分でも、この状況はおかしいとわかっていました。でも、夫が怖すぎて、何をどうしたらいいのかさえわからなくなっていたのです」
何を言ってもわかってもらえない。反論すれば、さらに責められる。とにかく怖い。その恐怖に支配されると、次に自分がどう行動すればいいのか、判断できなくなってしまうことがあります。モラハラに苦しむ人の中には、夫の帰宅時間が近づくと動悸がする、玄関の音を聞くだけで胸が痛くなる、夫の前で無理に笑おうとして表情が引きつる、いつも夫の顔色をうかがってしまう、という人もいます。
また、責められ続けるうちに、「自分が悪いのかもしれない」「自分の努力が足りないのかもしれない」と思い込んでしまうこともあります。夫は自分を愛しているから怒っているのだと、必死に信じようとしてしまう人もいるのです。
頭痛やだるさが続き、我慢するのも限界に
Sさんの体調は、少しずつ悪化していきました。頭痛や体のだるさが抜けず、朝起き上がることもできない日が出てきたといいます。その日も、Sさんはベッドの中で体を丸めることしかできない状態でした。すると夫が、すごい勢いで部屋のドアを開け、
「朝飯はどうした! いつまで寝てるんだ!」
と怒鳴ったそうです。Sさんは、
「本当に辛くて、もう起きられないの」
と、やっとの思いで声を出しました。しかし、夫から返ってきたのは、思いやりの言葉ではありませんでした。
「怠けるのもいい加減にしろ! 俺が仕事に行くのに寝てるなんてありえない! 誰の金で飯が食えると思っているんだ!」
「その言葉を聞いたとき、『私はもう限界だ。このままでは死んでしまう』と思いました。そこでようやく、別れる覚悟がついたんです。実家に心配をかけたくなくて、夫のモラハラをずっと隠していました。でも、すべてを話して迎えに来てもらい、その日に家を出ました」
モラハラに悩む妻が、なぜ夫と別れる決心をつけられないのか。その理由は人によってさまざまです。たとえば、生活費や子どもの養育費など、経済的な不安から決断できない場合があります。専業主婦やパート勤務の場合は、離婚後の収入面に大きな不安を抱えることも少なくありません。
子どもの親権や面会交流の取り決めで争うことが苦痛だったり、子どもが父親と離れたくないと言っていたりすることもあります。また、夫に愛情は残っていなくても、情があり、ひとりにすることへ罪悪感を抱いてしまう人もいます。「いつか変わってくれるかもしれない」という期待を、どうしても捨てられない場合もあります。
さらに、モラハラの被害を第三者に訴えても信じてもらえなかったり、「我慢が足りない」「どこの家でもあること」と否定されたりすることへの不安もあります。離婚には、結婚とはまた違う大きなエネルギーが必要です。だからこそ、すべての人に理解してもらおうとしなくてもいいのです。
まずは、自分がどうしたいのか。自分は今、幸せなのか。そのことを一番に考えてみてください。
本編では、結婚後、夫から毎日のように暴言を浴びせられ、心身ともに追い詰められていったSさんのお話をお届けしました。Sさんはついに家を出る決意をしましたが……。
▶▶やっと別居したのに、夫の怒鳴り声が頭から消えない。妻を苦しめたモラハラの“後遺症”
では、夫と離れて自由になったはずのSさんが、今もなお夫の暴言や怒鳴り声に苦しみ、フラッシュバックのような恐怖に悩まされる様子をお伝えします。




