
こんにちは。「1人も見捨てない子育て手札の提案者」として年間数百件以上の子育て相談に乗っているきのぴー先生です。児童自立支援施設に併設された小中学校に勤務し、生徒指導主任を務めました。愛情や正論だけではなかなかうまくいかない子どもとの関わり。この連載では、理想論や正論だけでは届かないところにある、泥くさい現場で培ってきた子どもとの関わり方のヒントをお届けしていきます。
【きのぴー先生の子育て手札 #2】
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▶「正しさ」でなく「子どもの側」に立つ
(1)正しさの側ではなく、「子どもの側」に立つということ
子どもが荒れたとき、親は無意識のうちに「正しい側」に立ちます。暴力はいけない。そんな言い方は許されない。今やるべきことがある。どれも正しく、親として当然の感覚です。けれど、その正しさは、時に子どもより一歩前に出てしまいます。そして子どもから見ると、その瞬間、親は「自分を正す人」「自分を止める人」になります。圧倒的味方とは、正しさを捨てることではありません。正しさを、いったん横に置く勇気を持つことです。
Kくんが荒れていた頃、お母さんは必死でした。
「どうしてこんなことをするの?」「やめなさい!」
その言葉の奥にあったのは、もちろん心配と愛情です。けれどKくんの目に映っていたのは、「お母さんは僕を止める側にいる」という景色でした。圧倒的味方は、問いを変えます。この子は、今どんな世界を生きているんだろう。何が、ここまでこの子を追い詰めているんだろう。正しさを武器にせず、まず、同じ側に立つ。それが、関係を立て直すための最初の一歩となっていきます。
▶「わかってあげたい」をゴールにしない
(2)「わかろう」とする前に、「一緒に見よう」とすること
親はよく言います。「わかってあげたいんです」と。けれど実は、その「わかる」は、ゴールになりやすい側面があります。わからない状態が不安だから、理由を探す。原因を特定しようとする。答えを出そうとする。
しかし、感情が荒れている子どもは、自分でも理由がわからないことがほとんどです。
圧倒的味方がするのは、「理解」ではありません。同行です。答えを急がない。結論に持っていかない。評価しない。ただ、「今、ここで一緒に見ている」という姿勢を保つ。Kくんのお母さんが大きく変えたのは、声かけの言葉そのものよりも、急がなくなったことでした。
「今、何が起きているんだろう?」
そう立ち止まれたとき、Kくんの表情や、呼吸の荒さ、言葉が出るまでの「間」が、初めて見えてきたといいます。子どもは、「わかってもらえた」と感じたときよりも「味方でいようとしてくれている」と感じたときに、心を緩めます。
(3)行動ばかりを変えようとしない勇気をもつこと
圧倒的味方のいちばん難しいところは、すぐに行動を変えないことです。子育てには、順番があります。「在り方(Be)→ 行動(Do)→ 結果(Have)」。多くの親は、行動から変えようとします。叱り方を変える。声かけを工夫する。ルールを作る。けれど、在り方が変わらなければ、その行動は続きません。
Kくんのお母さんが最初に頑張ってもらったのは、暴力を止めることではありません。
「私は、この子の敵にならない」この覚悟を決めてもらうことでした。在り方が変わると、言葉の温度が変わります。沈黙の質が変わります。待つ時間の意味が変わっていきます。同じ声かけをしてもうまくいく人といかない人の差は、ここにあります。
子どもは、それを驚くほど敏感に感じ取っていきます。だから小手先でない変化が現れていきます。
▶学校の宿題は「親の宿題」ではない
毎日宿題で大バトルだった過去。今では自ら机に向かうように
毎日、宿題の時間が近づくと家の空気が張りつめ、 声をかければ荒れる。黙っていても荒れる。お母さんは、いつも板挟みだったそうです。そんな中、圧倒的味方を実践しはじめてから1ヶ月経ったある日、ふとお母さん自身の中で湧いてきた言葉があったそうです。
「これ、私の宿題じゃないよね。今は彼じゃなくて私が責任を持っちゃってるんだ」
この気づきは、とても怖いものです。なぜなら、手を引くことは、見捨てることのように感じるからです。やらなかったらどうしよう。学校で困るのはこの子だ。今止めなかったら、将来もっと大変になる。頭ではわかっていても、心が追いつかない。お母さんは、何度も揺れたそうです。それでも、圧倒的味方として決めたそうです。言わない。急かさない。けれど、見捨てない、と。
たとえば、
・宿題を始める前後ではなく、落ち着いてるときにどのようなサポートをするとうまくいきやすいか、話し合うようにすること
・話し合った通りに対応してもうまくいかないこともあるが、それも大事な経験であると、失敗を受け止める覚悟を表明すること
・できなかったときは責め立てず、焦らず、余裕感を大切に、穏やかに次どうするかをともに考える味方としてあろうと意識すること
もちろんすぐには変化は起こりません。宿題をやらない日もありました。投げ出す日もありました。「やっぱり声をかけたほうがいいのでは」と、何度も思ったそうです。そのたびに、自分に問い直し、「私は、今、正しさの側に戻ろうとしていないか。今、この子と同じ側に立てているか。自分自身に問いかけた」と語ってくれました。
すると、少しずつ変化が起きはじめました。Kくんが、宿題を前にして騒がずに、黙り込む時間が増えていったのです。
それは、荒れる前の沈黙ではなく、考えている沈黙でした。どれだけ荒れても味方でい続けてくれたお母さんの対応を体で味わい、はじめて宿題がやらされるものではなく、自分ごと化した瞬間でした。ここでも焦らず寄り添い続けることで、2ヶ月後には、お母さんが声をかける前に自ら宿題に取り組むようになっていったそうです。
▶「甘やかす」のではなく「目的を持った見守り」を!
圧倒的味方のポイントは「単なる優しさ」ではないということ
今回のようなお話をすると「圧倒的味方って、なんでも言うことを聞くイエスマンなの?」と、尋ねられることがよくあります。違います。子どもの言いなりになるのではなく、信頼関係を土台に「伝えるべきこと」を適切なタイミングで届けるという、目的を持った関わり方です。
「甘やかし」は迷いです。「圧倒的味方」は、信念をもった見守りのことです。
甘やかしにならないために大切なことは、
・ダメなことは真剣に穏やかに、落ち着いた声のトーンで伝えること
・今すぐ理解したり、謝ったり、できたりすることを目的にしないこと
・普段、圧倒的味方でいることで、本当に伝えなければいけないときは伝わりやすくなると知っておくこと
人は、正論で変わりません。恐怖でも変わりません。ましてや、愛情を装った管理や支配でも動きません。
「あなた(親)は、私の側にいる」「失敗しても、ここに戻ってこられる」この感覚を子どもが持つことで、自分の人生を、自分で引き受け始めます。
圧倒的味方とは、時に孤独で、怖くて、報われないように見える道です。けれど、その道の先でしか、見えない景色があります。
ぜひ、皆さんの子育て手札の一枚にそっと加えていただけたら幸いです。今日はここまで。ありがとうございました。
今回の子育て手札
「圧倒的味方」

必要なのは、「ちゃんと受け止めてもらえている」という安心感です。その安心感は、親が子どもと同じ側に立つ「在り方」から生まれます。正しさよりも、信頼を。
◆プロフィール
1人も見捨てない子育て手札の提案者
きのぴー先生

公立小中学校にて10年間勤務。うち3年間を児童自立支援施設に併設された小中学校で勤務し、生徒指導主任を務める。さまざまな背景をもつ子どもたちと向き合う中で、子どもへの関わり方を技術として体系化。現在は教職を退き、1人も見捨てない子育て手札の提案者として、無料で技術を公開し続けている。現在は講演活動や個別支援も行いながら、感覚やセンスではなく、誰にでもできる関わり方を広めるべく、教育・福祉・家庭の垣根を超えて活動を展開中。Instagram @kinoppi30 (https://www.instagram.com/kinoppi30)/YouTube「きのぴー先生」/Voicy「きのぴーの子育て手札ラジオ」でも子育て技術を発信中。
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