21世紀に持ち越してしまった悪習「セレクション」。それどころか私たちも無意識に似たことをやっているのかもしれない | NewsCafe

21世紀に持ち越してしまった悪習「セレクション」。それどころか私たちも無意識に似たことをやっているのかもしれない

女性 OTONA_SALONE/LIFESTYLE
21世紀に持ち越してしまった悪習「セレクション」。それどころか私たちも無意識に似たことをやっているのかもしれない

前編記事「30年前、急に連絡が取れなくなった友人。当時20歳の彼女を見舞ったかもしれない過酷な経験を考えてみる」では高校時代の友人・Mちゃんの消息を知るまでを語った三浦ゆえさん。

「Mちゃん、20歳のときに亡くなっていたんだって」。

【私の更年期by三浦ゆえ】

2016年東京大学での事件をモチーフに描いた作品に見る「セレクション」の残りっぷり

Mちゃんと親しくしていた人に伝えると誰もが、「どうして」「なぜ」と口にし、その後の言葉を継げなかった。20歳のときに聞いていても同じ台詞を言ったと思うけど、この年で知らされると別の衝撃がある。若者の死は、ことのほかつらい。そして私たちの世代では、わが子がその年代にさしかかっている人も多い。

さて、“セレクション”。私はてっきり、こんな悪しき文化は20世紀で潰(つい)えたものと思っていた。だから2018年に姫野カオルコ著『彼女は頭が悪いから』(文藝春秋)を読み、そのなかでセレクションの描写に出くわしたときは、「えっ」と思わず声が出た。まさか21世紀に持ち越されていたとは。

同作品は2016年に起きた、東京大学の学部生および院生らによる集団での強制わいせつ事件をモチーフにしている。著者が綿密な取材をもとにして書き上げたことで、フィクションながらリアリティを極めていると高く評価された作品で、ということは2016年前後の大学でも“セレクション”が横行していたと見て、間違いない。この箇所だけが突飛な創作だとは思いにくい。

小説のタイトルは、加害者のひとりが裁判で、被害者について「頭が悪いからと見下していた」と陳述したことから来ているものだ。私は当時、ニュースでこの発言を知り、「ああ、女性は自分より下等であるという価値観が骨の髄まで染み付いているから、裁判という場でも取り繕うことなく、こうして本音が出てしまうんだな」と思った。

こうした考えと、“セレクション”は当然、無関係ではない。見下され、選別され、品定めされる側の女子学生と、する側の男子学生。この構図が逆転することは、まずない。

大学という場では、もともと人、特に女性の容姿が軽々しく扱われてきた。大学ごとに開催されるミスコンは、かつては純粋なまでに「容姿を評価するイベント」だった。2010年代なかばぐらいから様変わりして、大学施設内でのミス/ミスターコン開催を認めないと公式発表した大学もあれば、スピーチ力・発信力をアピールするコンテストに変更した大学もあるという。



それでも、SNSでの投票制を取り入れている大学もあって、候補者からすれば容姿が大きなアピールポイントになり、投票する側からすればやはり容姿が大きな判断基準となることは、想像に難くない。

2020年に入っても、東京大学のミスコンで最終候補者に残った女子学生が、運営団体の男性から生々しい性的な質問を複数されたという告発があった。東京大学は、学生の男女比が大きく男性に偏っていることでも知られており、男性が女性を評価するというミスコンの構図は、そりゃセクハラの温床になるだろうとしか思えない。

他人事にはならない。ことさら騒ぎ立てもしないが、かといって、私たちは忘れてもあげない

Mちゃんが“セレクション”にショックを受けて、大学に行けなくなったという噂の真偽はわからない。それを若すぎる死と短絡的に結びつけてはいけないとも思う。ご両親の話では「不慮の事故」だったということだ。



でも、こんな乱暴で、野蛮で、酷い時代を私たちは生きているんだよね、と20歳のMちゃんの肩に手を添えてあげたくなる。ルッキズムなんて言葉も、知らなかった。

いまの私たちは、ルッキズムが人の自尊心をめちゃくちゃにし、人生の選択を消極的にし、場合によっては死に追いやることも知っている。

大学で大っぴらに行われていた“セレクション”は、世の中のいたるところで、そうとはわからない形で行われている。大学を卒業した私たちを待っていたのは、そんな現実だった。それでも適応しようと必死になるか、鈍感なふりをしてやりすごすか、それはルッキズムだと抗議するか。しんどい選択肢しかないなかを、なんとかこの年まで生き延びてきたのは、「たまたまラッキーだった」というだけのことなのかもしれない。

>>>30年前、急に連絡が取れなくなった友人。当時20歳の彼女を見舞ったかもしれない過酷な経験を考えてみる


《OTONA SALONE》

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