体重や見た目に振り回されないためにできることをいま考えたい。思春期から育てたい「自分の身体を大切にする力」 | NewsCafe

体重や見た目に振り回されないためにできることをいま考えたい。思春期から育てたい「自分の身体を大切にする力」

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体重や見た目に振り回されないためにできることをいま考えたい。思春期から育てたい「自分の身体を大切にする力」

2004年アテネオリンピック女子ハンマー投に出場した室伏由佳先生。現在は順天堂大学スポーツ健康科学部に属し、スポーツ医学、アンチ・ドーピング、スポーツ心理学、女性の健康課題に関する研究・教育に取り組んでいます。

近年では内閣府SIP「女性のボディイメージと健康改善のための研究開発」にも携わり、その社会的ムーブメントを推進する「マイウェルボディ協議会」*1の副代表幹事として、女性が自分らしく健康な身体を選択できる社会づくりを推進しています。

中でも室伏先生が啓発に力を入れているのが「FUS」。耳慣れない言葉ですが、どのような内容なのでしょうか。前編記事『「やせていること」は本当に健康なのか?「FUS」と「ボディイメージ教育」から考える女性の健康』に続く後編です。

TOP写真/©海老澤芳辰 リンガフランカ

「早く結果を出したい」という心理が、健康を損なう選択につながってしまうこともある

体重や見た目を短期間で変えたい、早く結果を出したいという思いは、ときに健康リスクを軽視する行動につながることがあります。こうした心理は、痩身目的の不適切な薬剤使用だけでなく、室伏先生が専門とするアンチ・ドーピング研究とも重なる部分があります。競技成績や外見といった結果を重視しすぎることで、自分の身体を長く健康に保つ視点が置き去りにされてしまうことがあるからです。

――「早く結果を出したい」「今の自分を変えたい」という心理は、先生の専門であるアンチ・ドーピング研究とも接点があるのでしょうか。

室伏「私はスポーツ心理学やアンチ・ドーピングの領域で、なぜ人が健康リスクをわかっていても禁止物質の使用を正当化してしまうのか、なぜ結果を優先してしまうのかという心理を研究してきました。これは、見た目を変えるために極端な食事制限をしたり、不適切に薬剤を使ったりする問題とも、心理的に通じる部分があります。

もちろん、スポーツにおけるドーピングと、痩身目的の薬剤使用は同じものではありません。ただ、“早く結果を出したい”“今の自分を変えたい”という思いが強くなりすぎると、身体を長く健康に保つという視点が置き去りにされてしまうことがあります。だからこそ、見た目や成績だけで身体を評価するのではなく、自分の身体を大切に使っていく視点を育てる教育が必要だと思います

お子さんに届けてほしいのは、体型を評価する言葉ではなく、身体を大切にする言葉です

若い世代が極端な食事制限や不適切な薬剤使用などに向かわないためには、家庭や学校での言葉がけも重要です。とくに、子どもや若者の身体について話すときには、外見を評価する言葉ではなく、健康を理解する言葉として伝える必要があります。

 

――子どもや若者の身体について話すとき、家庭や学校ではどのような言葉がけが大切なのでしょうか。

室伏「親は子どもの成長を心配する存在ですから、よかれと思って体型について声をかけてしまうことがあります。けれども、“顔が丸くなった”“脚が太くなった”といった外見に焦点を当てた言葉は、たとえ一時的に行動を変えるきっかけになったとしても、長期的には身体への否定的な感情につながることがあります。

大切なのは、外見を指摘して動かすことではなく、なぜ食事や運動、睡眠が大切なのか、なぜ極端なやせや太りすぎが健康に影響するのかを、丁寧に伝えることだと思います

 

――否定的な言葉で行動を変えようとするのではなく、身体の仕組みや健康の意味を伝えることが大切なのですね。

室伏「親から子どもに伝えるときには、反発されることもあると思います。それでも、否定的な言葉ではなく、理由を添えて伝え続けることには意味があります。大学生を見ていても、若い頃に言われたことを、後になって“あのときの意味がわかった”と受け止めることがあります。

体型を責めるのではなく、自分の身体をどう大切にするかを考えられる言葉を選ぶことが大事です。それはFUSの予防にも、将来の生活習慣病予防にもつながる視点だと思います

 

――体型に関する否定的な言葉の背景には、社会全体にあるスティグマやルッキズムも関係しているのでしょうか。

室伏「体が大きい人はだらしない、細い人の方が美しい、といった偏った見方は、社会の中にまだ残っています。そうした価値観の中で育つと、自分の身体を誰かの基準で評価してしまいやすくなります。

でも、本来は、誰かと比べてどう見えるかではなく、自分にとって健康で、心地よく生活できる身体であるかが大切です。自分の身体と一生つきあっていくのは自分自身です。だからこそ、“自分の身体は自分のもの”という視点を育てていくことが必要だと思います

 

研究・教育・社会実装をつなぐマイウェルボディ協議会の取り組みとは?

若い女性のやせや低栄養は、月経、骨、筋肉量だけでなく、耐糖能異常などの代謝の健康とも関わる可能性が指摘されています。こうした課題に対して、内閣府SIP「女性のボディイメージと健康改善のための研究開発」では、医療・教育・産業・行政が連携し、女性の心身の健康を社会全体で支える仕組みづくりが進められています。室伏先生は、その社会実装を担うマイウェルボディ協議会の副代表幹事として、ボディイメージ教育や健康支援の取り組みに関わっています。

 

――マイウェルボディ協議会では、どのような社会実装を目指しているのでしょうか。

室伏「内閣府SIP『女性のボディイメージと健康改善のための研究開発』では、社会的ムーブメント、健康支援・ヘルスケア、ボディイメージ教育という三つの柱が位置づけられています。マイウェルボディ協議会は、その取り組みを社会に広げていくための組織として、教育や啓発、健康支援、社会的な価値観の転換に関わっています。

私自身は、スポーツ心理学やアンチ・ドーピング教育の領域で、アスリートがどのように身体を捉え、どのような心理的要因によって健康を損なう選択に向かうのかという課題に関わってきました。現在取り組んでいるFUSやボディイメージの問題も、外見や数値といった外側の基準によって、自分の身体を無理に変えようとしてしまう点で共通する部分があります。どうすれば一人ひとりが自分の身体を大切にし、健康的な選択ができるようになるのか。そのための教育や社会の仕組みづくりが重要だと考えています

 

――思春期から若年期にかけては、身体の変化をどう受け止めるかも大切になるのですね。

室伏「10代は、身体が大きく変化する時期です。月経が始まる、体重が増える、体型が変わる、洋服のサイズが変わる。そうした変化に戸惑うのは自然なことです。ただ、その変化を“太った”“よくないことが起きている”と受け止めてしまうと、自分の身体を否定する方向に向かってしまうことがあります。だからこそ、成長に伴って身体は変化するものだということを、あらかじめ学ぶ機会が必要だと思います

 

――身体の変化をあらかじめ知っておくことは、不適切な行動を防ぐことにもつながるのでしょうか。

室伏「身体の変化を正しく理解していれば、体重が増えることや体型が変わることを、すぐに悪いことだと捉えずに済む場合があります。大切なのは、急激に体重を減らそうとすることではなく、食事、運動、睡眠を含めて、自分の身体を健康に育てていくことです。

また、多感な時期には、同世代の仲間同士で支え合うことも大切です。自分だけが悩んでいるのではない、身体の変化には個人差があると知ることは、身体への不安を和らげるうえでも重要だと思います

SNS時代には「外側から提示される数字に左右されない」ヘルスリテラシーが必要

近年は、SNSを通じて「理想の体型」や「やせていることが美しい」というイメージに日常的に触れる機会が増えています。こうした情報は、知らないうちに身体への不満や痩身志向を強めることがあります。

 

――SNSで繰り返し目にする情報も、ボディイメージに影響するのでしょうか。

室伏「SNSでは、自分が関心を持った情報が次々に表示されます。そこで“やせている人が美しい”“この体型でなければならない”という情報に繰り返し触れると、それが自分の基準になってしまうことがあります。

でも、その情報は本当に健康につながるものなのか、本当に自分に必要なものなのか、一度立ち止まって考える力が必要です。これは、単なる知識ではなく、ヘルスリテラシーの問題だと思います

――外側から示される理想の数値ではなく、自分の身体の状態を知ることが大切なのですね。

室伏「よく、“理想的な体型や体格は?”等と聞かれることがあります。でも、本来は、誰かが決めた一つの数字に自分を合わせるものではないと思います。体質、骨格、筋肉量、生活習慣、運動量は一人ひとり違います。

何を食べると調子がよいのか、どのくらい動くと心地よいのか、どのような状態なら心も身体も健康でいられるのか。そうした自己把握がまず必要です

――体型や発育の多様性を学ぶことも、FUS予防やボディイメージ教育につながるのでしょうか。

室伏「骨格や体型には、生まれ持った違いがあります。肩幅、骨格、筋肉のつき方、脂肪のつき方も人によって違います。それなのに、“こういう体型でなければならない”という一つの基準に合わせようとすると、自分の身体を否定してしまいやすくなります。

見た目で価値を判断するのではなく、自分の健康のために何を選ぶのかを考えられる力が必要です。自分の身体をどう大切にしていくかを自分で選ぶ、自己決定の力を育てることが大切だと思います

 

――極端な行動に向かわないためには、多様な発育への理解が出発点になるのですね。

室伏「体型や数値に、すべての人に共通する正解があるわけではありません。だからこそ、私たちは『体型の多様性、発育の多様性を意識しましょう』というところから伝えています。

若い頃の食事や運動、身体への向き合い方は、10年後、20年後の健康にも関わってきます。あとになって、あのとき無理をしすぎなければよかったと思わないためにも、いまの自分の身体を正しく知り、大切にしていくことが重要です

女性が自分らしく健康な身体を選べる社会を実現するため、ボディイメージを改善していきたい

室伏先生が現在取り組んでいるのは、若い女性のやせやボディイメージの問題を、個人の努力だけに委ねるのではなく、教育や社会の仕組みとして支えていくことです。外見や体重だけで自分の価値を測るのではなく、自分の身体の特徴や状態を知り、長く健康につきあっていくための知識と環境が必要です。その社会実装を進める取り組みの一つが、内閣府SIP「女性のボディイメージと健康改善のための研究開発」に関連して設立されたマイウェルボディ協議会です。

 

――最後に、読者に伝えたいことを教えてください。

室伏「若い時期の食事や運動、身体への向き合い方は、そのときだけでなく、将来の健康にも関わってきます。だからこそ、体重や見た目だけで自分の身体を判断するのではなく、自分の身体がどのような状態にあるのか、何をすると心地よく過ごせるのか、どのような生活が自分の健康を支えるのかを知ることが大切です。

私自身も、アスリートとして自分の身体と向き合ってきた経験がありますが、もっと早く知っていればよかったと思うこともあります。けれども、どの時点からでも、自分の身体と向き合い始めるのに遅すぎることはありません。正しい情報を得て、自分の身体を大切にする選択ができるようになること。それが、将来の自分を守ることにつながると思います

前編>>>「やせていること」は本当に健康なのか?「FUS」と「ボディイメージ教育」から考える女性の健康

お話/室伏由佳先生

順天堂大学スポーツ健康科学部/順天堂大学スポーツ健康科学研究科 先任准教授、スポーツ健康科学博士。1977年静岡県生まれ。1999年中京大学体育学部体育学科卒業、ミズノ株式会社入社。2016年株式会社attainment設立。2019年順天堂大学スポーツ健康科学研究科博士後期課程修了(博士号取得)。主な研究テーマは、スポーツ医学アンチ・ドーピング、スポーツ心理学、女性の健康課題。2004年アテネオリンピック 女子ハンマー投 日本代表。陸上競技女子円盤投、ハンマー投の元日本記録保持者。世界陸上競技選手権 2005年 ヘルシンキ大会女子ハンマー投日本代表など代表歴も多数。現在はアンチ・ドーピング教育、スポーツ心理学、女性の健康課題等を専門とする。マイウェルボディ協議会 副代表幹事、株式会社attainment 代表取締役。

研究ラボHP:Sports Medicine Anti-Doping Laboratory https://y-murofushi-lab.jp

*1  マイウェルボディ協議会は2024年3月に設立され、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」の一環として活動を開始しました。設立の背景には、特に若年女性の低体重や過度な痩せ願望に起因する健康課題があり、これに対応するための社会的価値観の転換や健康改善の研究開発が行われています。誰もが自分らしく健康な身体=“ウェルボディ”を選択できる社会の実現を目指す産官学連携の協議会です。公式HP https://mywellbody.jp

*2「閉経前までの成人女性における低体重や低栄養による健康課題 ―新たな症候群の確立について」日本肥満学会 女性の低体重/低栄養症候群ワーキンググループ


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