
いわゆる死後離婚(正式には姻族関係終了届)が急増していることを知っていますか?法務省の戸籍統計によると2024年は4,777件。10年前(2014年は2,802件)の2倍近くに達しています。
そもそも「死後」「離婚」とは何なのでしょうか?もちろん、離婚というのは本来、配偶者が生きている間に行うものです。配偶者の「死後」に誰と離婚するのでしょうか。それは「婚」姻にまつわる関係、つまり、配偶者の身内です。ここでは逝ったのが夫、残ったのが妻という前提で話を進めます。
姻族とは血がつながっている親と子以外の家族のことです(参考までに血がつながっている家族のことを血族といいます)具体的には夫の父、母、兄弟姉妹などですが、いわゆる義理の家族です。今まで親戚付き合い…例えば、正月の挨拶や夏休みの帰省、法事の参列、そして孫の顔見せなどをしているような場合、親戚と顔を合わせていたことでしょう。もちろん、対面以外の電話やメール、LINEなどで交わしたたわいもない日常の会話も、親戚付き合いに含まれます。
では夫が亡くなった今、これからも付き合いを続けるのでしょうか?その質問に対し、「ノー!」と答える人が急増しているという意味です。実際のところ、死別と同時に夫側の家族との縁が切れるわけではありません。役所に姻族関係終了届という書類を提出する必要があります。
筆者は行政書士、ファイナンシャルプランナーとして夫婦の悩み相談にのっていますが、今回の相談者・緒方凛さんもどうするのかを迷っていました。
凛さんの場合、義父はすでに他界。義母は認知症を発症していましたが、介護をするのはすべて凛さんでした。なぜなら、生前の夫は「お前がやっておけ!」と言うばかりで何もしなかったからです。しかも夫は女癖が悪く、派遣社員の女性に次々と手を出していました。さらに酒癖も悪く酩酊状態で帰宅したり、不倫や酒に使うお金を捻出するためにFXや仮想通貨やギャンブルに手を出して損失を拡大する始末。実母の介護を夫婦ふたりでにするどころではない状態だったのです。
そんななか、夫が脳梗塞で倒れて病院に運ばれ、そのまま他界したのです。脳の疾患はこれで2回目。1回目のとき、担当医から「血圧が高いので注意してください」と言われたにもかかわらず生活習慣を改めなかったため、起こるべくして起きた事態でした。こうして予期せぬかたちで未亡人になったのですが、夫が亡くなった今、義母の世話を続けるべきか……。「死後離婚」をすれば、すべてから解放されますが、嫁入りして25年間。義母と築いてきた年月を考えた場合、そう簡単に見捨てるわけにはいきません。どうすれば良いのでしょうか?
なお、本人が特定されないように実例から大幅に変更しています。また夫婦の年齢や職業、子どもの有無や年齢、不仲の原因や夫が逝去するタイミング、義母との関係や介護の状況、夫の兄弟姉妹の存在などは各々のケースで異なるのであくまで参考程度に考えてください。
<家族構成と登場人物、属性(すべて仮名。年齢は現在)>
夫:緒方康一(56歳)→会社員(年収800万円)
妻:緒方凛(48歳)→会社員(年収400万円) ☆今回の相談者
夫婦の子:緒方蘭(23歳)→会社員(年収350万円)
夫の父:緒方茂(74歳)→すでに逝去
夫の母:緒方節子(74歳)→介護施設に入居中
夫の弟:緒方康作(54歳)→会社員(年収不明)
※画像はイメージ写真です。
【行政書士がみた、夫婦問題と危機管理 #21 】
女癖も酒癖も最悪の「借金製造マシーン」の夫
「娘も私もずいぶん楽になりました。もう義母を介護しなくて良くなったので」そんなふうに安堵の表情を浮かべるのは凛さん(48歳)。彼女はもともと夫、そして娘さんと一緒に暮らしており、夫の義父と義母が健在でした。しかし、義父は8年前に逝去。残された義母も2年前に軽度の認知症と診断され、介護管理者つきマンションに入居中。
基本的な食事や入浴等の世話はヘルパーが代わってくれるのですが、週1回の通院への付き添いやヘルパーとの細々とした連絡等は家族の「誰か」が行わなければなりません。息子である夫は何もしようとしないので消去法で凛さんがやらざるを得ない状況が続いていました。厚生労働省の調査によると65歳以上の高齢者の10人に1人は認知症を発症しています(2020年は602人。全体の16.7%)
そこで筆者は「旦那さんにとって実のお母さんですよね。なぜ協力的ではないのですか?」と尋ねると凛さんは深いため息をつきます。凛さん夫婦は結婚25年目ですが、ずっと夫の亭主関白ぶりに悩まれてきました。
一例を挙げると女遊び。夫は地元企業の営業部長をつとめていますが、派遣会社からやってきた右も左も分からない女性に手を出すのが常套手段。最近も派遣社員の女性と恋仲になり、週末になると女性の家に入り浸るように。ほとんど家に帰ってこないので義母の状況を把握しておらず、凛さんが「ちゃんと考えて!」とたしなめても「お前がやっておけ!」の一点張り。
とはいえ女遊びにもお金がかかります。デート代やプレゼント代、そして女性へのこづかい…夫はどこから工面していたのでしょうか?FXや仮想通貨、ギャンブルで一攫千金を狙うのですが、そうは問屋が卸しません。実際に増えるのは貯金ではなく借金。それでも不倫をやめないので赤字を垂れ流し、借金で借金を返済する自転車操業に陥り、ついに凛さんへ生活費を入れなくなったのです。
それでも生活が成り立っていたのは凛さんが正社員として働き、400万円の年収を稼いでいたからですが、育児や家事と両立するのは並大抵のことではありません。
▶ 息子が息子なら、母も母…。「嫁」としては絶望しかない!
息子が息子なら、母も母…
筆者が「義理のお母さんは何もしてくれなかったんですか?」と聞くと凛さんは首を横に大きく振ります。凛さんは義母がまだ元気なとき、「お義母さんも何とか言ってください」と頼んだことがあるそう。
しかし、「あなたがそういう感じだから、息子もちゃんとしないのよ!私のところに来る前にもっと出来ることがあるんじゃないかしら」と他人事のようにあしらわれたそう。凛さんは「ああいう母親だから、ああいう息子に育ったんだわ!」と絶望するしかなかったのです。息子である夫はもちろん、義母に対する不満も募っていったそうです。
凛さんは金銭的、肉体的、そして精神的にぎりぎりのところで踏ん張っていたのですが、夫は昨年、泥酔状態で駅のホームから転落するという事故が起こします。たまたま電車が通過せず、車両に轢かれずに済んだものの、2m近い高さから受け身なしで転落して頭部を強打したため、くも膜下出血を発症。そのまま救急車で運ばれ、1ヵ月近く入院することに。
結局、右半身に多少の麻痺は残ったものの、日常生活に支障はなく、また元気に出社するようになったのです。筆者が「ようやく旦那さんも改心したのですか?」と確認すると凛さんは「いやいや」と苦笑します。夫は相変わらず女性との関係を続け、家庭を顧みない日々が再開したのです。
当時の担当医は「血圧が高いのでいつ何があってもおかしくない」と釘を刺されていたのですが、夫は知らぬ存ぜぬという感じで飲酒も喫煙もやめようとしませんでした。そして先月、脳梗塞を発症。今度は無事というわけにはいかず、1週間の昏睡状態を経て、帰らぬ人となったのです。
厚生労働省の人口動態統計(2024年)によると死因に占める脳梗塞の割合は3.5%。具体的にいうと2024年は5.7万人。前年(2023年は5.6万人)に比べ、わずかに減少しています。あっという間にこの世を去ってしまったので、夫が倒れてから亡くなるまで「万が一、夫が亡くなったらどうするのか」を深く考える余裕なんて凛さんにはありませんでした。
ここまでは、実母の介護もそっちのけで、勝手気ままに浮気や散財を繰り返していた夫が急死。どうしたらいいかと悩む凛さんについてお伝えしました。続く関連記事『48歳で未亡人になった妻は「死後離婚」を決意!これで義母の介護からも、無礼な義弟からも解放される⁉【行政書士が解説】』では、死後離婚する際に注意しておくべきことについて行政書士の露木幸彦さんに教えていただきます。




