
モラハラ・夫婦カウンセラーの麻野祐香です。
働く女性は、モラハラやDVの夫から簡単に逃げられるのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。さまざまな事情で、支配的な配偶者との結婚生活を続けている人たちは少なくありません。オトナサローネ世代のモラハラ被害にフォーカスした本連載、今回は、夫のモラハラに苦しみながらも子どもを連れて家を出る決断をし、離婚が長引くなかでも自分と子どもの幸せを信じて進んでいるTさんのお話です。
※本記事は、相談者様への敬意と守秘義務に十分配慮したうえで、モデルケースとして編集・再構成しお届けしています。特定の人物や事例を示すものではありません。
※写真はイメージです
家族への暴言、無視を繰り返す夫
Tさんの夫は、家族に対しての暴言が日常でした。気に入らないことがあれば、徹底的にTさんを無視しました。無視や暴言だけでなく「明日は車で海に出かけよう」と気まぐれな提案をすることもありました。それを子どもたちが楽しみにしていても、当日になると「やっぱり面倒くさい」と平気で約束を破るのです。
子どもの気持ちなど考えもしない。ただ、自分の気分だけで予定を変えるのです。しかも、約束を破ったことに対して悪びれる様子もありません。Tさんが、「子どもたちは、海にいくのを本当に楽しみにしていたんだよ。約束は守るためにあるんだよ」と伝えると、夫は、「バカのくせに俺に指図するな」と、大声で怒鳴るのでした。
何も悪くないのに怒鳴られる。そんな日々が繰り返されるうちに、Tさんは夫には期待することをやめ、何も言わなくなっていったのです。当然、子どもたちも父親を信頼できなくなっていきました。「パパ、今度の約束は本当に守ってくれるのかな」父親が約束するたびに、子どもたちはTさんに確認するようになっていたのです。期待しては裏切られる。その繰り返しで、父親を信じられなくなっていたのでしょう。
そんな言葉を聞くたびに、Tさんは胸が締めつけられる思いでした。夫に「子どもたちとの約束は守ってほしい」と言いたい。でも、約束を“約束”として考えていない夫には、何を言っても伝わらない。それも、もう十分にわかっていました。
そんな日々の中で、Tさんにはもうひとつ気になっていることがありました。子どもたちの様子です。夫が玄関のドアを開ける音がすると、子どもたちの表情が一瞬で緊張に変わるのです。さっきまで楽しそうに遊んでいたのに、玄関の音がした瞬間、ビクッと身体をこわばらせる。その姿を見るたびに、Tさんは思いました。この子にとって父親は、「怖い存在」になっているのだと。
もちろん、Tさん自身も、夫が帰宅する音を聞くだけで鼓動が速くなっていました。また何か言われる。そう思うだけで、恐怖でいっぱいになるのです。夫の顔色を読み、地雷を踏まないように言葉を選ぶ。夫の機嫌を損ねないことが、Tさんの日常になっていました。自分がどうしたいのか。何を食べたいのか。どこへ行きたいのか。そんな感覚は、もうほとんどなくなっていました。
考えているのは、夫の機嫌のことばかり。そして、そんな毎日が“当たり前”になってしまっていたのです。はっきりと「これはおかしい」と気づいたのは、子どもたちの幼稚園の運動会でのことでした。モラハラ夫は、外面がとてもいいのです。他人の目がある場所では、まるで別人のように振る舞います。運動会では、子どもたちに微笑み、抱き上げ、明るく声をかけ、“家族思いの父親”を演じていました。
でも、子どもたちは、戸惑い、固まっていました。普段そんなふうに接してもらったことがないから、どう反応していいかわからなかったのです。Tさん自身も、そんな夫の姿を見ながら、笑顔が引きつっていました。
周囲から「いいお父さん」と思われたいだけの夫が、気持ち悪く感じられ、もう、こんな生活は続けられないと強く思いました。Tさんは、その時はっきりと悟ったのです。
「これは普通じゃない。このまま、ここにいてはいけない」と……。
別れると決意してからの茨の道
夫と別れると決意してからも、本当に家を出ていいのか。子どもたちを連れて行っていいのか。これから生活していけるのか。頭の中では、同じ問いが何度も繰り返されていました。それでもTさんは、「自分と子どもたちのために、今動かなければいけない」と決意しました。そして、夫が仕事に出た隙に、必要最低限の荷物だけをまとめ、子どもたちを連れて実家へ戻ったのです。
突然のことに、ご両親も驚いていました。それでも、Tさんの様子を見て察するところがあったようで、何も責めることなく迎えてくれたといいます。その後、Tさんは離婚調停を申し立てました。しかし夫は、「子どもたちを連れて逃げた。誘拐だ」と騒ぎ立て、実家にまで押しかけてきたのです。
そのとき、ご両親は毅然とした態度を崩しませんでした。「今後の話し合いは、弁護士を通してください」と、はっきりと伝え、夫はその場を引き下がるしかありませんでした。しかし調停の場でも、夫は一切、自分の非を認めませんでした。
「生活費はちゃんと入れていたし、夫としての役目は果たしてきた。妻が勝手に自分を悪者にしている」さらには「妻は子どもたちを虐待していた!」と、事実とは異なることまで並べ立て、Tさんの離婚理由を全面的に否定したのです。何度調停を重ねても、話し合いは平行線のままでした。
本編では、夫の機嫌に支配される毎日と、父親を怖がる子どもの変化、そしてTさんが「このままではいけない」と決意するまでをお伝えしました。
▶▶「妻は子どもを虐待していた」裁判で平然と嘘をつくモラハラ夫…それでも妻が前を向けた理由
では、子どもを連れて家を出たあとに始まった調停と裁判での夫のふるまいと、Tさんが自分が取り戻していった過程についてお届けします。




