
職場で仕事を頼むとき、相手が年上だとどうしても気を遣ってしまうものです。経験も知識も豊富な相手に対し、下手に出れば主導権を握られそうだし、強く出れば角が立つ——。そんな微妙な距離感に悩んだことのある方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、NHKキャスター歴17年、現在は長崎大学准教授として心理学・コミュニケーション論を研究する矢野香さんの著書から、相手に敬意を払いつつ役割を明確に伝え、スムーズに協力を得るための“無理なく使えるコミュニケーション術”をご紹介します。
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※本記事は書籍『偉ぶらないけど舐められないリーダーの話し方』(矢野香:著/日本実業出版社)から一部抜粋・編集したものです
経験豊富な年上の相手と、どう話す?
Q.どうすれば相手に敬意を払いながら、リーダーとして指導できるでしょうか。年上の部下や、かつての上司がチームに加わることも珍しくなくなりました。
A.「敬意」を示しつつ、明確な「役割」を依頼しましょう。
年上のメンバーと関係をこじらせず、チームとして機能させる鍵は「敬意」と「役割」をしっかり分けて考えることです。
まず、相手の経験や知識に対して「敬意」を示したあとに、今回の業務における「役割」をはっきり伝える。この順番が重要です。役割がはっきりしないと、相手はかつての上司や先輩という立場のまま、今のチームに介入してくる可能性があるためです。「今のあなたの肩書はこれですよ」と最初に言語化し、お互いに合意しておくことで、その後のコミュニケーションはスムーズになります。
年上メンバーを導くためのステップ
ステップ❶「敬意」を伝える
年齢や立場といった壁を乗り越え、円滑な協業関係を築くために、まずは相手の経験や知識に対するリスペクトを言葉にして伝えましょう。
「△△の経験が豊富な〇〇さんだからこそお願いしたいのですが」
「前任者としてこの業務に最も精通している〇〇さんにお願いします」
ステップ❷「役割」を伝えて導く
敬意を伝えた上で、「今回のチームにおけるあなたの役割」をはっきりと定義し、役割に基づいた業務を依頼しましょう。
「△△の経験が豊富な〇〇さんだからこそお願いしたいのですが、今回は『チームのアドバイザー』という役割で、この件についてご意見をいただけますか」
「前任者としてこの業務に最も精通している〇〇さんにお願いします。引き継ぎのサポート役として、□□さんへの指導をお願いできますでしょうか」
「役割を明確にする」というアプローチは、年上メンバーだけでなく、さまざまなビジネスシーンで応用が可能です。例えば、自分よりもはるかに年上の取引先の担当者や、立場が上の役職者に、指示や依頼をするケースです。相手の年齢や社会的地位の違いから、やりにくさを感じることは少なくないはずです。こうした状況を打開する場合も、相手との関係を「個人対個人」として捉えるのではなく、あくまで「役割対役割」でコミュニケーションを図るのがポイントです。
「〇〇社のみなさまを代表して、ご意見を取りまとめていただく『窓口』という役割をお願いできますでしょうか?」
「役割を明確にする」というアプローチで見事なお手本が、映画『マイ・インターン』です。アン・ハサウェイ演じる若き女性社長が、シニア・インターン制度を通じてロバート・デ・ニーロ演じるアシスタントを迎えるシーンです。彼女は彼に、業務上の役割だけでなく、「あなたは人生の先輩でもあるから、プライベートなことでもアドバイスがほしい」と、もう1つの明確な役割を与えるのです。
この最初の「役割設定」が、その後のすべてのコミュニケーションの質を決定づけると言っても過言ではありません。映画の中では、最初の役割設定を伝えていたからこそ、社長は仕事と家庭の両立、夫との関係、そして急成長するビジネスのプレッシャーにおける悩みを素直に打ち明けることができました。
そして、アシスタントもまた、人生経験に基づいた的確な助言をすることができ、社長やチームの信頼を得ることができました。もし、「人生の先輩」という役割設定に二人が合意していなければ、二人の関係は「ボスと部下」のままで、ぎこちなかったかもしれません。
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■著者略歴: 矢野 香(やの・かおり)
国立大学法人長崎大学准教授。スピーチコンサルタント。専門は、心理学・コミュニケーション論。NHKでのキャスター歴17年。おもにニュース報道番組を担当し、番組視聴率20%超えを記録。NHK在局中からスピーチ研究に取り組み、博士号取得。大学教員として研究をつづけながら「信頼を勝ち取る正統派スピー チ」を伝授。クライアントには、大手上場企業役員、経営者、政治家などエグゼクティブクラスのリーダーが名を連ねる。著書に『その話し方では軽すぎます!──エグゼクティブが鍛えている「人前で話す技法」』(すばる舎)、『最強リーダーの「話す力」誰から見てもリーダーらしく見える「話し方」の秘密』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などベストセラー多数。




