
モラハラ・夫婦カウンセラーの麻野祐香です。今回は、普段から家庭内で妻を見下し、日常的に激しいモラハラを繰り返すだけでなく、妻が「自由に外出すること」を異常なまでに許さず、あの手この手で陰湿な嫌がらせを仕掛けてくる夫、そして、そんな夫の支配下に長年置かれ、精神をすり減らしてきたFさんのケースをご紹介します。
Fさんは40代、二人のお子さんを持つパート主婦。結婚して12年になります。夫は一見、外では温厚で「いい夫」として通っています。職場の同僚からも「奥さんを大切にしていそう」と言われることがあるそうです。
しかし家の中では、まったく別人でした。Fさんは、友人からの誘いのメッセージを見るたびに、ため息をつくようになっていました。「友達とご飯を食べに行くだけなのに、なぜかいつも行けない」そう笑いながら話すFさんの言葉の裏には、深い疲労と、長年の諦めがにじんでいました。
夫に「出かけたい」と言うこともできない
Fさんが友人との約束を入れると、夫はなぜかその日が近づくにつれて機嫌が悪くなります。そして出かける当日の朝になると、何でもない些細なことで突然怒鳴り始めるのです。「昨日の洗い物、ちゃんとできてなかっただろ」「子どもの連絡帳、確認したのか」責める内容はその都度違います。しかし、必ずFさんが外出する日に限って、こうした言いがかりが始まるのでした。
夫の嫌がらせは次第にエスカレートしていきました。怒鳴ったり嫌味を言うだけでなく、出かける準備をしているFさんの目の前で、子どもに「ママ、どこ行くの? 行かないでよ」と言わせるような雰囲気を作ることもありました。結局Fさんは、友人との約束をドタキャンするしかなくなってしまいます。
「ごめん、子どもの体調が悪くて行けなくなった」
そんな嘘の言い訳をするたびに、本当の理由……「夫の機嫌が悪くて行けない」と言いたい気持ちはありました。しかし、それは自分の家の恥のように感じられ、口にすることができなかったのです。
幼稚園に通う末っ子が、いよいよ卒園を迎えることになったときのことでした。謝恩会のあと、有志のママたちで集まる飲み会が企画されました。上の子のときはコロナ禍の真っただ中で、こうした行事や集まりは一切ありませんでした。そして今回の集まりは、Fさんにとって「最初で最後」の機会でもあったのです。
Fさんは、結婚してから一度も夜の飲み会に参加したことがありませんでした。「幼稚園のママ友たちとの最後の思い出として、どうしても行きたい」普段の夫の態度を思えば、とても言い出しにくいお願いでしたが、それでも勇気を振り絞り、仕事中の夫にLINEを送りました。
しかし、返ってきたのは、「主婦のくせにありえない」という一言でした。そのあとも、文句と嫌味が次々と送られてきました。心が折れたFさんは、結局、10年ぶりの、たった数時間の集まりを断るしかありませんでした。幼稚園最後の集まり。それすらも、夫は異常な執着と暴言で、徹底的に潰したのです。
夫の仮病で、外出すらできない
ある時から、Fさんの外出を阻止するため、夫の新しい手口が始まりました。Fさんが出かける直前になると、夫が「気分が悪い」「胃が痛い」と言い出すようになったのです。最初のうちはFさんも本気で心配しました。病院に連れて行こうとすると「病院はいい」と拒否します。それでも、「じゃあ出かけてもいい?」と聞くと、「まあ、行けば」と不満そうに答えるのです。
そして、いざ出かけようとすると、「本当に行くの? 俺こんな状態なのに」という言葉が飛んできます。結局Fさんは、出かけることができませんでした。特徴的だったのは、Fさんが「わかった、行かない」と言った途端、夫の体調がみるみる回復することでした。「やっぱり大したことなかったみたい」そう言って夕食を普通に食べ、テレビを見て笑っている夫を、Fさんは複雑な思いで見つめていました。
あの体調不良はいったい何だったのか。……しばらくたってから、やっとFさんは、それが夫の嫌がらせだったのだと気づいたのです。夫がよく使う、もうひとつの言葉があります。「子どもがいるのに、そんな時間あるの?」「家のことちゃんとやってから行けば?」Fさんはパートをしながら、家事も育児もほぼひとりで担っていました。夫が家事を手伝うことは、ほとんどありません。それでも夫は、Fさんが出かけようとするときだけ、「母親として」「妻として」の責任を持ち出すのです。
一方で夫自身は、好きな時に好きなだけ飲みに出かけます。深夜に帰ってきても誰も責めない。翌朝、二日酔いで寝ていても、悪びれる様子は一切ありません。家事はすべてFさんがやるもの。だから自分は寝ていてもいい。
けれどFさんにだけ、「家族のため」が求められるのです。「私が友達と会うことが、そんなにいけないことなの?」その言葉を、Fさんは何度も心の中で繰り返していました。
妻を「征服」したあとの夫
Fさんが外出を諦めた夜、夫には決まったパターンがありました。まるで何事もなかったかのように、上機嫌になるのです。そしてその夜、夫はFさんに性的な関係を強引に求めてきました。断ると、怒鳴られます。
「妻なんだから当然だろ」
「夫の求めに応じるのは義務だ」
Fさんが「嫌だ」と言っても、夫は聞きません。そこに妻への思いやりや愛情は一切ありません。あるのは、「妻は自分の欲求を満たすための道具だ」という認識と、妻が自分の思い通りになる所有物であることを確認するための、暴力的な支配欲だけでした。拒否すれば、「家から追い出すぞ」と脅されます。
外の世界とのつながりを断たれ、経済的にも自立が難しい状態のFさんには、断る勇気がありませんでした。夫婦であっても、同意のない性的行為の強要は許されません。「妻だから義務」という言葉は、完全な誤りです。結婚とは、一方が他方の身体を無条件に使う権利を得る契約ではありません。
夫は「妻を完全にコントロールできた」という征服欲に満足していました。外出を阻止し、抵抗を封じ、身体まで支配する。そこには、妻を大切にするという意識は一切ありませんでした。モラハラ夫が妻の外出を徹底的に妨害する背景には、いくつかの心理的なメカニズムがあります。
支配欲とコントロールの快感
モラハラ夫にとって、妻は「自分の管理下にあるべき存在」です。妻が自分の知らない場所で楽しむこと、自分の関与しない時間を持つこと自体が、脅威に映ります。外出を阻止することで、「俺がコントロールしている」という感覚を得ているのです。
孤立化という戦略
DVやモラハラの加害者が、ほぼ例外なく行うのが「孤立させること」です。友人や家族と会わせないことで、妻が外の視点を持つことを防ぎます。友人に話を聞いてもらえば、夫の行為がおかしいと気づくかもしれない。相談先ができてしまうかもしれない。それを、本能的に恐れているのです。
本編では、妻の外出を許さず、怒鳴りや仮病、罪悪感を使って自由を奪っていくモラハラ夫の陰湿な支配の手口についてお伝えしました。
▶▶「風俗は男の甲斐性だぞ」その一言で目が覚めて…。「もうこんな生活、終わりにしよう」私が始めた準備とは
では、夫の裏切りをきっかけに、長年の支配から抜け出す決意を固めた妻が、自由を取り戻すために踏み出した一歩についてお届けします。




