退職金で住宅ローン完済は危険?「家はあるけど現金がない」老後破綻のリアル。現役世代のうちにやっておいたほうがいいこと | NewsCafe

退職金で住宅ローン完済は危険?「家はあるけど現金がない」老後破綻のリアル。現役世代のうちにやっておいたほうがいいこと

女性 OTONA_SALONE/LIFESTYLE
退職金で住宅ローン完済は危険?「家はあるけど現金がない」老後破綻のリアル。現役世代のうちにやっておいたほうがいいこと

物価高や年金支給開始年齢の引き下げ、そして想定よりも少ない退職金…。「老後は退職金で住宅ローンを一括返済して、悠々自適な生活」というかつての「成功モデル」は、もはや通用しない時代になりつつあります。

ある日突然、実家がなくなっている…なんてことも起こり得えます。長年勤め上げた会社を定年退職した親。その退職金を当てにしていたローン返済。計算が狂ったとき、人はどんな選択をしてしまうのでしょうか。そして、それを目の当たりにした子供世代が学ぶべきこととは。

本記事では、数々の賃貸トラブルを解決してきた司法書士の太田垣章子氏の著書から、「手遅れになる前に知っておきたい住宅のリアル」をご紹介します。

※本記事は書籍『「最後は誰もがおひとりさま」のリスク33』(太田垣章子:著/ポプラ社 )から一部抜粋・編集したものです

家はあってもお金がない!という人が増えています

長期にわたって、ローンを支払い続けて購入する住宅。一昔前、終身雇用の時代なら不安もなかったのでしょうが、今の時代には、住宅の購入もそう簡単に決断できるものではありません。

払えなければ売却してしまえばいい、そんな考え方もあるかもしれませんが、それも不動産価格が右肩上がりになっていなければ難しい話です。さらにそのように高く売れる物件を探し出すには、それなりの知識も求められます。

不動産業界では「千三つ」と言って、お宝物件は1000件のうち3件くらいと言われるほど少ないものです。それ以外に損をしない物件があるのは、もともと物件自体が高額で、値が下がることはないと太鼓判を押されるエリアのものです。

ただ一般人が高額物件を、そう簡単に購入することはできません。そのため簡単に「売却すればいい」とはならないのです。ローン残高以上の価格で売却できなければ、足りない分を補塡しなければなりません。頭金が少なめで購入してしまうと、大半は売却予定金額よりローン残高が高いために、売るに売れない、そのような状況になってしまいます。

夫婦共働きでそれぞれがマックスの負担で住宅ローンを組んだものの、途中で離婚だの、子育てにお金がかかっただの、リストラにあっただので、家を手放さざるを得なくなった人たちを私はこれまでたくさん見てきました。

何十年もずっと同じ額の年収を得続けられる人って、少ないと思います。子どもたちの学費や物価の上昇で、結果、生活が苦しくなることもあります。コロナ禍のように、想定外のことも起こります。人は機械じゃないので、病気だってするでしょう。そんな中での長期ローンは、そもそも無理があるのかもしれません。

それでも支払いに困窮する中で、物件を手放せる人は、まだ幸せです。そういう人は、お身内からの援助を得られたり、親身になってくれる不動産会社の方とめぐり逢えたり、運強く買主を引き寄せられたりしたから手放せたのです。そういう人は本当にラッキーとしか言いようがありません。

不動産を購入した時にした計算が狂った! という事態は、特に退職金をもらう時に起こるようです。長年勤めあげて、退職する際にもらえる退職金ですが、時代とともにその額も下がってきています。

退職金でローンの残りを完済して、年金で生活する、これが以前の日本のサラリーマンの老後の道筋でした。でも近年、退職金は思っていたように支給されなくなり、年金受給もどんどん先送りになっています。もともとの道筋が、今は崩れてしまったので「家はあるけど現金がない!」という方が増えてきました。

▶実家がない?様子のおかしい両親を問い詰めると…

退職金を見込んでの家のローン。完済できるか不安です……。

英雄さん(仮名・43歳)は、親の自宅でこの問題にぶち当たりました。どうも親のお金の使い方がおかしい……そう感じたのは、父親が70歳を過ぎた頃からでした。いつまで旅行に行けるか分からないと、1泊2日の温泉旅行に毎月のように行き出したのです。

「父さんたちのお金だから何に使ってもいいけれど、お金大丈夫なの?」

英雄さんのお父さんは真面目に働いてきましたが、有名な大きな会社を勤めあげたわけではありません。退職金だって支給されたのかどうかも、怪しいものです。昔から母親は事あるごとに「お金がない」と愚痴っていたくらいです。だから急に羽振りが良くなったような気がして、心配になりました。でも親子でお金の話は、なかなかしにくいもの。

「放っておいてくれ! お前には迷惑かけん!」

そう怒鳴られてしまうと、もうそれ以上何も言えなくなってしまいました。本当におかしいと気が付いたのは、それから半年くらい経ったGWのことです。毎年この時期に届く固定資産税の納付書に、母親は「何でもかんでも税金ばっかりで」そう必ずぼやいていました。ところがその年は、何も言いません。

「母さん、今年は固定資産税のこと、ようやく受け入れたんだ」

笑いながら言うと、母親は黙っています。

「あれっ、母さん、いつも固定資産税のことぼやいていたじゃない」

そこまで言っても、母親は下を向いたままです。おかしい……。いつもお金がない、税金が高い、そう文句ばかり言っていた母親が、固定資産税のことを聞かれても黙っているだなんて、おかしすぎます。

「母さん、父さんと母さんのお金だから、僕は何も言わないよ。でもちょっとおかしいでしょう? 何がどうなっているの?」

困った顔をした母親が、絞り出すような声で言いました。

「家は売ったから。お父さんに言うなって言われていて……」

英雄さんは、母親の言葉に愕然としました。家を売った? 頭にわぁ〜っと血が上るのが分かりました。言葉の意味が理解できず、困った顔をして英雄さんを止めようとする母親の手を振り切って、リビングにいる父親のもとに向かいます。

「母さんから聞いたぞ。家、売却したって、どういうことだよ?」

「お前には関係ない!」

「関係ないことないだろう? 家族なんだぞ。売却したって何でもいいけど、相談くらいしてくれたっていいじゃないか」

「……」

「僕たち家族だろう?」

英雄さんの言葉に、父親も観念したようです。

「テレビで宣伝してたんだよ。誰にも知られずに、家を売却しても住み続けられるって」

最近いたるところで目にする「リースバック」というものです。これは不動産を売却して、名義は買主に変更の登記をして、もともとの持ち主はそのまま買主と賃貸借契約を締結して、賃料を払って住み続けるというものです。

ただ一般的に、買った者は自分で使うことができないため、売買代金は通常より安め、家賃を払ってもらえなくなるリスクもあるので、賃料は高めに設定されます。

「……いったいいくらで売却したの」

▶俯く父が語った、家を売却した理由

住む場所の検討は現役世代の間に!リタイアしてからでは遅すぎます!

父親が口にした売買代金は、素人の英雄さんでも相場よりかなり低いと感じる金額です。すぐにネットで調べると、近隣の売り物件より、ざっと3割は安いようでした。

「今は毎月賃料払っているんだろ? いくら払ってるんだ?」

英雄さんは15万円くらい払っているのかな、と予想していると、それのまだ上をいく19万円だと言います。相場からいえば、高くても12万円もしないはずです。毎月19万円払えば、1年で230万円ほどの出費です。

安価で売却したので、あと10年もしないうちに売却代金の方も大半はなくなってしまいます。72歳と69歳の夫婦なので、平均寿命どころかそれより早い段階で住む場所をなくす計算になります。

いつもは強気な父親が、英雄さんに詰め寄られて、ずっと下を向いたままです。これは責めてはいけない……、きっと相談できなくて、困っていたんだ、そう思いました。英雄さんが何も言わないので、父親はぽつりぽつり当時のことを喋り始めました。

「定年になって、退職金も思ったように出なくて、住宅ローンを完済するには足りなかった。しかも年金だって、65歳からしかもらえない。もともと貯金は1000万円もなかった。年金をもらうまでに、貯金はどんどん減っていってしまう。母さんと引っ越しも考えたんだが、家を買う金もないから賃貸しか選択肢はない。でも貸してもらえねえんだよ。それに引っ越し作業なんて、しんどくてできねえよ。」

「どうしよう……って思っていたら、リースバックというのを知って。電話したら営業マンが来てくれて、いろいろ説明を受けたんだが、よく分からんのよ。ただとにかくこのまま引っ越しせずにこの家に住んでいられるし、もうローンのことも考えずに済む。まとまったお金も入ってくるから、今まで頑張って生きてきたんだ、温泉くらい行っても罰あたるまいと思って」

相談しなかったのは、英雄さんに家の経済が全て知られてしまうことを避けたかったからです。それに、この年齢になって少しは旅行もしたい。全てを話してしまえば、そんな些細な楽しみも奪われる気がしたとも言います。

じっくり考えれば、あっという間に家計が破綻してしまうことは分かるはずです。でも70歳を超えると、長期的な目線で物事を考えられないのかな……。英雄さんはそう感じました。何か言えば、すぐに「うるさい!」と怒鳴っていたのも、いろんなことを聞かれたくないための強がりだったのかもしれません。
「もっと早くに相談してくれれば良かったのに」

喉元まで出かかりましたが、英雄さんはその言葉を飲み込みました。これが「老いる」ということなんだ、そう感じたからです。広い視野で総合的に判断する、しっかりしているようでも高齢になると目先のことで精一杯で、そんな判断能力が低下するということを目の当たりにしました。

結局、仕事を退職した後も、住宅ローンが残ってしまったことが、いちばんの理由でした。そして既に退職してしまっていたので、部屋を借りることもできなかったのです。

でも一般的に住宅ローンは35年で組むことができます。最初は途中で繰り上げ返済すればいいと思うかもしれませんが、実際に繰り上げ返済をどんどんできるのは、ごく一部の人たちではないでしょうか。マックスで借りてしまうと、毎月の返済に追われてしまい、結果として退職後もローンが残っているという状況になるのでしょう。自分のローン残高がいくらなのか、即答できる方は、そういないと思います。

家を借りるなら、ぎりぎり現役世代じゃないとダメなんだ、ということも英雄さんは知りました。リースバックもメリットもたくさんあるでしょう。ただそれらをしっかり把握・検討できるのは、現役世代のクリアな頭だからこそ。

そこも踏まえて自分の時には、50代で人生の後半戦の作戦会議が必要だ! それが分かっただけでも良しとしよう、そう考えないと居ても立っても居られませんでした。

■著者略歴:太田垣章子(おおたがき・あやこ)
司法書士、賃貸不動産経営管理士、合同会社あなたの隣り代表社員。30歳で生後6か月の長男を抱えて離婚、働きながら6年の勉強を経て2001年に司法書士試験合格。2006年に独立、2012年に事務所を東京へ移転し、2024年5月よりコンサルティングと情報発信を軸に現職へ。家主側の訴訟代理人として家賃滞納の明け渡し手続きを延べ3,000件近く担当し、現場重視で滞納者の再出発にも伴走する“賃貸トラブル解決のパイオニア”として知られる。「住まいは生きる基盤」を掲げ、“人生100年時代における家族に頼らないおひとりさまの終活”を提言。著書に『家賃滞納という貧困』、『老後に住める家がない!』、『不動産大異変』、『あなたが独りで倒れて困ること30』(すべてポプラ社)、『死に方のダンドリ』(共著、ポプラ社)などがある。

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