首都圏模試センターの推定では、首都圏の2025年における私立・国立の中学受験者総数は5万2,300名(前年比99.8%)と過去40年で3番目の受験者数の多さとなり、受験率は18.10%と、過去2番目の高さとなっている*。
少子化が進む中、過熱が続く中学受験。編集部では、今回のアンケートから見えてきたリアルを掘り下げていきたい。
*出典:首都圏模試センター「1998~2025年入試までの受験者数の推移(私立・国立中学校)【2025.2.17ほぼ確定版】」
中学受験直前期、7割強が「休んだ」と回答
本アンケートの回答者の中で、中学受験を「した」と回答したのは306名(全体の94%)。
年明けから続々と入試が始まる直前期。感染症予防のために学校を休ませるべきか、それとも普段どおりに通わせるべきか、悩む保護者は多いだろう。
「受験直前に学校を休みましたか?」という問いに対し、「休んだ」と答えたのは74%にのぼった。期間としてもっとも多かったのは「2週間~1か月」の34%、続いて「1週間~2週間」の17%、「1週間以内」13%、「1か月以上」という結果になった。
「休む選択」が一般化、背景にコロナ禍の経験「休まなかった」のは約4人に1人のみ。最多回答が「2週間~1か月」という長期に及んだことに、驚く読者もいるかもしれない。多くの家庭が、受験本番を前に慎重な判断を下しているようすがうかがえる。
この結果について、中学受験の過去問で有名な「声の教育社」代表取締役社長の後藤和浩氏は、意識の変化を指摘する。
「以前は直前期であっても小学校は休まない方が良いと考えていたが、コロナ禍を経て、リスク管理の考え方が変わった。本番直前の1週間から3日程度であれば、体調管理を最優先にして休むという判断も十分にあり得る」。
実際、後藤氏自身の場合、コロナ禍以前の受験だった長男は前日まで登校したが、コロナ禍での受験となった次男は大事をとって1週間休んだという。
中学受験専門塾「スタジオキャンパス」代表の矢野耕平氏も同様の変化を感じている。
「以前は『学校に行くために学校を休むのは矛盾している』と塾生保護者には伝えていたが、今は感染症への抵抗感の高まりを理解している。『感染症対策で休むのは理解できるが、朝から晩まで受験勉強の予定を詰め込まないように』というアドバイスに変わった」。
予防策を講じても感染症は防ぎきれないリスクに対し、わが子が積み上げてきた努力を何としても守りたいという親心が数字に表れているようだ。
休ませるなら要注意、「勉強漬け」は逆効果の恐れも
一方で、休ませる場合に「朝から晩まで勉強漬けにしない」よう、矢野氏は強く念を押す。
「1月の学校に行かない期間を『これ幸い』と勉強を詰め込むと、子供に精神的余裕がなくなり、本番に向けた焦りが生まれやすくなる」。
後藤氏も、「最後まで休まずに行きたいと子供自身が望んでいるなら、無理に休ませる必要はない。普段どおりの通学が気持ちの安定につながることも多い」と語る。
希学園首都圏で学園長を務める山崎信之亮氏(※崎はたつさき)も、保護者の意思だけで欠席させることには警鐘を鳴らす。
「本人のリズムが崩れ、最後には我々塾側が『小学校に行け』と指導したケースもある。たとえば運動好きの子にとって、体育の授業は貴重なガス抜きの機会。大人でも1日中机の前にいては気が滅入るように、勉強漬けに『された』子の顔には覇気がなくなってしまう」。
専門家らの意見が一致するのは、「どうしても過去問の間違い直しをしたい」といった子供自身の内発的動機がある場合は別だということ。大切なのは、親の不安解消ではなく、子供本人の気持ちだ。
「休む=合格」ではない…わが子にとっての正解を
当然ながら、「小学校を休んだほうが合格に近づく」という相関関係はない。そこは保護者も子供自身も見誤ってはいけないだろう。
学校を休むことが前提で、塾が平日の午前から教室を開放するといったこともごく一部にあるようだが、
「私学だって立派な公教育機関。塾が公教育を否定する行為に手を染めるのはどうなのだろうかという思いがある」(矢野氏)。
「学校軽視の考え方はいただけない。学校に通うのは日常にメリハリをもたらす。『学校も受験も両方楽しもう!』という子が難関を突破している」(山崎氏)。
と、専門家らは過度な受験優先の考え方には慎重な見解を示している。
中学受験のために小学校を休むかどうかに「正解」はない。
家庭によってさまざまだ。感染症対策、そして何より子供の性格や気持ちをふまえつつ、わが子がもっとも安心して本番を迎えられる選択をしてほしい。






