
「今日の夜ごはん、何にする?『なんでもいい』がいちばん困るの!」
そんな会話、したことありませんか? 献立作りに疲れたという話もよく聞きます。
ところが料理家のウー・ウェンさんは献立に悩んだことはなく、「その日に作るものは自然に決まってきます」と語っています。一体、どのようにして「自然に」決まるのでしょうか?
それは、ウー・ウェンさんの考え方やライフスタイルが大きく関わっているようです。今回は著書の中から探ってみたいと思います。
※この記事は『』 ウー・ウェン 著
写真:木寺紀雄
「今夜は何を作ろうかな」と献立に悩んだことがない理由とは?
「朝ごはんはたっぷりと。お昼はよいものを。夜は少しにしましょう」。一日3食のバランスを表したこんな言葉が中国にあります。
一日の始まりである朝は、活動のエネルギーを蓄えるためにたっぷりと食べる。
お昼の「よいもの」というのはたんぱく質のこと。お昼にご飯などの炭水化物をたくさん食べると、午後は眠くなりませんか? ですから炭水化物は控えめにして、良質なたんぱく質を昼に適量とる。
夜は、あとは眠るだけなので少し食べる程度でいい。
とても理にかなっていると思いますし、私もこのバランスで食事をとることが身についています。
子供たちが小さいころも、3食のバランスは基本的にこの考え方でした。たとえば夕飯に子供たちが好きなハンバーグを作ったら、あとは野菜スープがあれば十分でしょう、と。夜は肉や魚などのたんぱく質のおかず1品と、野菜スープがあればいいと思うのです。
だから、「今夜は何を作ろうかな」と献立に悩んだことが私はないのです。昨日がお肉なら今夜は魚にしてバランスをとる。子供が少し風邪っぽいときは、しょうがのスープを作る……というふうに、健康のことを考えれば、その日に作るものは自然に決まってきます。
食事は「健康を作る」ものです。健康的な献立を作るときに便利なのがスープです。スープは時間があるときに作っておくことができるし、温かい水分ですから、からだの中を温めてくれます。野菜不足を感じたら、生野菜のサラダを食べるよりも、野菜たっぷりのスープを飲んだほうがだんぜんいいです。おすすめです。
「だし」は不要、味つけは「塩少々」のみ。週に2回は作る「野菜スープ」

玉ねぎ、にんじん、セロリ、セロリの葉、ごぼう、パプリカ……野菜はそのときにあるものでなんでもいいです。全部、細かく切ります。鍋にオリーブオイルをひいて、野菜をサッと炒め、かぶる程度の水を加えます。
だし昆布を小さく切って加え、干ししいたけも小さく切って入れます。これは「だし」の役目です。野菜からもうまみが出ますが、昆布やしいたけのうまみが加わることで、いっそうおいしくなります。乾物も小さく切れば、すぐに火が通ってだしが出やすいですし、具としても食べられるからいいのです。
野菜が煮えたら、塩少々で味つけします。これで完成。食べてみてください。「えっ、野菜だけでこんなに甘くておいしいの?」と驚きますよ。こういう料理は分量は量りません。目分量で作ってもおいしくできます。
だしをとらないと、おいしいスープはできないと思っていたら大間違いです。野菜だけでも、たっぷり入れることでうまみが出ます。レタス1種類のスープでも、レタスをたくさん(丸ごと1個分とか)入れることでおいしくできる。少しうまみが足りないな、と感じる人は顆粒のスープの素などをほんの少し加えてください。これで十分です。
「冷蔵庫に残っている野菜のために料理を作りたくない」。家庭料理は健康を作るもの、という信念
買い物には毎日行きます。「忙しくしているのに、よく時間がありますね」と人から言われるけれど、最寄り駅まで歩いて、駅ナカのスーパーでその日に必要なものをほんの少し買ってくるだけだから、20分とか30分程度の所要時間です。
なぜ毎日買い物をしたいかというと、買い物は私の息抜きなんです。仕事を終えていったん外に買い物に行くことで、頭がようやくリセットできる。仕事モードから家モードに切り替えられる。毎日ちょっとでも外出して、スーパーで旬の野菜を見るだけで気分転換になるのです。
毎日買い物に行くのには理由がもうひとつあって、冷蔵庫に残っている野菜のために料理を作りたくないからです。その日の食事は、その日の自分や家族のからだの状態に合ったものを作りたい。
まとめ買いをしていろんなものが冷蔵庫の中にあると、「かさばるキャベツを先に使わなきゃ」とか「豚肉は今日食べてしまいましょう。そうしないと悪くなる」とか、どうしても〝食材のために〞料理を作ることになります。同じ理由で、安売りだからといって食品を買うこともしません。
家庭料理は健康を作るもの。健康のためにそのときに食べたいもの、そのときにからだが必要としているものを食べるのが、家のごはんのあるべき姿です。残り野菜のために献立を決めるのでは、家庭料理の素晴らしさが半減してしまいます。
だから、私の買い物は毎日少しだけ。その日に使うものか、翌日に使う予定のものしか買いません。特に野菜は〝鮮度を買う〞ものだから、まとめ買いはしない。新鮮な野菜を買ってきて、新鮮なうちに食べきってしまうのがいちばんです。
キャベツならキャベツだけを炒める。にんじんだけを和え物にする。レタスだけをスープにする。私の料理は1種類の野菜をたっぷり食べるレシピが多いから、新鮮なうちに食べきれるし、その野菜のうまみを味わえるし、冷蔵庫の中に野菜がたまらないのです。
ある日の買い物の例を出すと、夕飯に肉団子を作るとしたら、買ってくるのは鶏のひき肉とキャベツ、翌日使いそうな豆乳や卵。一度に買うのはその程度。先を見越した買い物は2日が限度です。献立を先の先まで決めることはしません。しないというか、できない。だって自分の体調は予測ができないですから。
うちの冷蔵庫はいつも空っぽです。冷蔵庫に何も入っていないと、自分のからだに聞くことができるんです。「君、何が食べたいの?」って。すると、からだが教えてくれます。
冷蔵庫の中にいろんなものが入っていると、からだの声ではなく、頭で考えて料理を作ることになってしまう。それは本当に自分に必要なものなのか、自分の健康にいい食事なのか。〝なんにもない〞ことは実はとても重要です。
★【関連記事】では、旬の野菜「白菜」をテーマに、ウー・ウェンさんがおいしい食べ方を紹介しています。
>>>今が旬の「白菜」、実は「家族の健康を守ってくれる」すごい野菜だったとは! 料理家ウー・ウェンさんが教える「部位ごと」に丸ごと1個、味わい尽くすレシピとは?

■BOOK:『』ウー・ウェン 著
■著者:ウー・ウェン
中国・北京で生まれ育つ。ウー・ウェンクッキングサロン主宰。1990年に来日。友人、知人にふるまった中国家庭料理が評判となり、97年にクッキングサロンを開設。医食同源に根ざした料理とともに中国の暮らしや文化を伝えている。著書に『ウー・ウェンの100gで作る北京小麦粉料理』『ウー・ウェンさんちの定番献立』『大好きな炒めもの』(いずれも高橋書店)、『シンプルな一皿を究める丁寧はかんたん』(講談社)、『料理の意味とその手立て』(タブレ)など。




