「情が通じない夫」に心をすり減らす日々。 結婚前に“違和感”を見抜けなかった、意外な理由とは | NewsCafe

「情が通じない夫」に心をすり減らす日々。 結婚前に“違和感”を見抜けなかった、意外な理由とは

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「情が通じない夫」に心をすり減らす日々。 結婚前に“違和感”を見抜けなかった、意外な理由とは

夫婦問題・モラハラカウンセラーの麻野祐香です。

モラハラに悩む男女から実際にうけた相談を元に、心理的解説を行ってゆく本シリーズ。今回は、夫との間で気持ちが通じず、「話しても伝わらない。感情をぶつけても届かない」と夫のことで悩み続けた末に、カサンドラ症候群に苦しむことになったTさんのお話です。

Tさんは、夫婦間の問題が顕在化した後になって、夫の母親から「実は小学生の頃にASDの診断を受けていた」と聞かされました。当時は「そんなことを言われたら、この子が生きづらくなる」と考えた母親が、診断を誰にも話さなかったそうです。

夫自身も覚えておらず、ずっと“自分は普通だ”と思って生きてきた。だからこそ、Tさんの「どうして伝わらないの?」という訴えに、夫は心から戸惑っていたのかもしれません。

※本人が特定できないよう設定を変えてあります

※写真はイメージです

【実録・カウンセラーから見たモラハラ】#77 前編

「話しても伝わらない」夫との違和感

「夫は結婚前から、少しコミュニケーションが取りづらいところがありました。話しかけても返事が遅かったり、沈黙が続いたりしていました」

当時のTさんは、「無口で真面目な人なんだろう」と思っていたといいます。彼は一緒にいて穏やかだし、無口なのはそういう性格なのだろうと、前向きに受け止めていたそうです。

ところが、結婚してしばらく経つと、その“無口さ”がただの性格ではないことに気づき始めました。夫とは会話のキャッチボールが全くできず、Tさんがどんなに話しかけても返ってくるのは単語だけ。ときには全く反応がなく、無視されることも。まるで自分が透明人間になったような感覚に襲われました。

「結婚してから急に夫が変わってしまった」と感じたTさんですが、実際には、夫は結婚してからこうなったわけではありません。夫は、ずっとこうだったのです。

Tさんの夫にはASD(自閉スペクトラム症)の傾向がありました。ASDは生まれつきの神経発達特性です。Tさんの夫の場合、結婚やTさんの出産などの生活環境の変化をきっかけに、それまで目立たなかった特性が少しずつ現れてきたのです。

なぜ結婚前に気づけなかったのか

なぜ結婚前に気づけなかったのでしょうか。そこには、ASDの人に特有の“家庭と外のギャップ”という特徴があります。

(1)家では“スイッチオフ”になるから

ASD傾向のある人は、外で人と関わるときにとてもエネルギーを使っています。表情や空気を読みながら、“社会的に正しい反応”を一生懸命にしているのです。だからこそ、家に帰るとその緊張が切れ、無言・無表情になることがあります。

外では穏やかでも、家では別人のように感じるのはこのためです。恋人時代のように短い時間だけ会う関係では、この特性は見えにくいのです。

(2)「役割の変化」が苦手だから

ASD傾向のある人は、環境や立場が変わることに強いストレスを感じやすい傾向があります。恋人から夫、夫から父親へと変わる中で、求められる言葉や態度も変わります。その変化にうまく対応できず、会話を避けたり、心を閉ざしてしまうことがあるのです。

結婚前は優しかったのに、結婚後に冷たく見える……それは“役割の変化への戸惑い”による場合が多いのです。

Tさんの夫も、まさにそのように変わっていきました。けれど、夫がASDだとは知らせされていなかったTさんには、理由なんて分かりません。少しずつ夫の言葉が減り、距離が広がっていくのを感じて焦っていました。

Tさんは当初、「仕事で疲れているのかな」「男の人は無口なもの」と自分を納得させていました。けれど、話しかけても反応がない日が続き、その沈黙が次第にTさんの心をすり減らしていきました。やがて、夫の無表情や無関心が「拒絶」のように感じられ、笑顔を作ることすら苦痛になっていったのです。

少しずつ、感情が消えていった

Tさんの夫は、外では評判のいい人でした。職場では几帳面で責任感があり、近所でも穏やかで礼儀正しいとよく言われていました。しかし、家の中では返事をすることもなく、表情もありません。

仕事から帰ってきても、会話という会話は成り立ちません。食事の時間も同じです。夫は黙々と食べ、「ごちそうさま」も言わずに立ち上がり、決まった時間に決まったテレビを見るのです。

「美味しい?」と聞いても返事はありません。時には、「いちいち聞かなくてもわかるだろ」と不機嫌に言われたこともありました。その瞬間、Tさんは自分の存在が否定されたような気持ちになったそうです。

ASDの方は、自分のルールやルーティンは、何があっても曲げることができない方が多くいます。Tさんの夫は、毎日ジムに行くことを欠かしませんでした。Tさんや子どもたちが熱を出しても、必ずジムに行く。どんな状況でも、自分の予定を優先するのです。

ASD傾向のある人にとって、言葉に感情をのせることは難しい場合があります。さらに、自分の中のルールを曲げられないという特徴もあります。「決めた時間は守る」「順番はこうでなければならない」その枠が少しでも崩れると強いストレスを感じるため、相手の状況や気持ちより“自分のルール”を優先してしまうのです。

「私が笑っても、無反応。泣いても、無反応。最初のうちは悲しくて泣いていました。でも、何度繰り返しても夫は変わらない。そう気づいた時に、もう何も感じない方が楽だと諦めたのです」

本編では、ASD傾向のある夫とのすれ違いに苦しみ、感情を失っていったTさんの孤独についてお伝えしました。

▶▶「夫に悪気はない」それでも苦しくてたまらない。 心がすり減った妻が、“わかってもらえない結婚”から抜け出すまで

では、心の限界を迎えたTさんがどのようにして“自分を守る力”を取り戻していったのか、麻野先生の解説とともにお届けします。


《OTONA SALONE》

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