「学校生活において、宿題をすること、また、忘れ物をしないことはとても大切です。しかし、発達障害の子どもは、この二つが難しい傾向が強いのです」と語るのは、発達支援コンサルタントの小嶋悠紀さん。
発達障害の特性は、ときに学校生活を困難にすることも。周囲の大人は、どのような支援をするとよいのでしょう?
今回は「宿題」「忘れ物」をテーマに、実際に特別支援学級で子どもたちと向き合ってきた小嶋さんがどう対応してきたのかをご紹介します。
※この記事は『発達障害・グレーゾーンの子どもを伸ばす大人、ダメにする大人 学校生活編」』から一部を抜粋・編集してお届けします。
「発達障害」三つの特性と、それぞれの「学校生活への影響」は?
発達障害は、主に次の三つの特性に分かれます。
ASD(自閉スペクトラム症)
集団行動や対人関係の苦手さ、コミュニケーションの苦手さが見られる。こだわりが強く、同じ行動を繰り返すことも多い。感覚が過敏で過剰に反応したり、逆に鈍い部分も持ち合わせたりすることも多い。
ADHD(注意欠如・多動症)
注意力、集中力の持続が難しく、衝動的に行動しやすい。小さいときには多動が目立つ。ワーキングメモリの弱さが顕著に目立つ。
LD(学習障害)
知的発達が遅れているわけではないにもかかわらず、読み書きや聞く・話す、計算・推論することなど、特定の分野が著しく苦手となる。
これらの特性は、くっきりと分かれて現れるというよりも、一人の子どものなかに混ざり合っており、それがさらに困難さをもたらす場合もあります。
例えば、宿題や忘れ物もその一例です。学校生活において、宿題をすること、また、忘れ物をしないことはとても大切です。しかし、発達障害の子どもは、この二つが難しい傾向が強いのです。
実際に、宿題や忘れ物に頭を悩ませている保護者も多いのではないでしょうか。最近では、宿題を出さない学校や先生もいますが、それはまだレアなケースです。
LDの場合、宿題はさらに大きなハードルになります。宿題や忘れ物に関しては、大人の支援とサポートがどうしても必要です。
「宿題」サポートのポイントは、「入口支援」。宿題をすることよりまずは「ある習慣」をつけることから
〈子どもがこんなとき、どうする?〉
■ケース■ 「宿題をしない」
✖ダメにする大人……「宿題やったの?」と何回もしつこく聞く
〇伸ばす!大人……帰宅後、ランドセルから宿題を出してレターボックスに入れる習慣をつける
発達障害の子どもは、大人からの支援があれば宿題に取り組みやすくなります。しかし、両親が共働きで平日は夕方まで家を空けているのであれば、どんな対策を取ればよいでしょうか。
例えば、ASDの子どもは、「家に帰ったら、アレをやるんだ、コレをやるんだ」と自分なりのスケジュールを立てながら帰ることがあり、それにこだわりを持ちます。
家に保護者がいる場合でも、こだわりのあるゲームなどに気を取られ、宿題までたどり着くのに時間がかかります。保護者が家にいなければ、こだわりや自分なりのスケジュールから抜け出すのはさらに大変です。
ADHDの子どもは、集中力が続かずに落ち着きがないため、宿題自体の存在を忘れることも多くあります。これが先延ばしにつながります。
宿題を支援するうえで大切なポイントをお教えします。「入口支援」という考え方です。宿題を実際にやるかどうかはさておき、取りかかる「入口」を作ってあげることです。基本的な入口は、学校から帰宅したら、ランドセルから宿題を出すこと。そこから支援を始めます。
勉強机や部屋などにレターボックスを用意しましょう。まずは、宿題はしなくてもいいので、そこに「宿題を入れる習慣」をつけていきます。これだけならできる子どもも多いと思います。
目につくところに宿題が置いてあると、子どもはその存在を忘れなくなります。こうした入口があると、宿題に取り組むきっかけを作ることができます。
もちろん、これだけでは宿題ができないことも多いでしょう。最初のうちは、宿題をレターボックスに入れられたらOKとします。入れておいた宿題は、保護者と一緒にやりましょう。これをしばらく続けて習慣になれば、自分一人でも宿題を徐々にできるようになっていきます。
ちなみにこの「入口支援」が、自然な形で行われているのが学童保育です。家ではなかなか取り組めない子どもでも、学童保育ではスムーズに宿題ができるという事例は多くあります。これは、「学童保育に着いたらみんなで一緒に宿題をやる」ということが入口となっているのです。
「宿題が終われば、ゲームで遊んでいいよ」と、宿題の後に報酬を与えることでうまくいくケースもあります。その子どもに合わせた支援を考えていきましょう。
「忘れ物」を減らす、ベストな方法は? そもそも「忘れ物」自体を作らない環境づくりを
〈子どもがこんなとき、どうする?〉
■ケース■ 「忘れ物がとにかく多い」
✖ダメにする大人……「忘れないように自分で用意しておこうね」と言い、放置する
〇伸ばす!大人……「一緒に明日の学校の準備をしようね」と言い、手伝う
発達障害の子どもは、「明日の学校での予定」と「そのために持っていくべき物は何か」の紐づけがなかなかできません。理由の一つは、ワーキングメモリが弱いためです。
ワーキングメモリとは、ある行動をするときに、その行動を計画的に組み立てたり、遂行するための情報の取捨選択を行ったりする機能を担っています。また、脳内の処理速度が遅いため、手順が複雑になってくると対応できない子どももいます。
明日の学校での予定と、持っていく物を紐づけし、さらに持っていく物を実際に選び出してランドセルに入れる。この手順を踏むのが難しいのです。
算数の教科書とそのノートだけなら対応できても、算数と国語と理科のそれぞれの教科書とノート、さらに音楽のリコーダー、体育の体操着……となると、扱いきれなくなってしまいます。
まずは保護者が子どもと共に学校の準備をしましょう。毎日のこととなると大変ですが、それでもぜひサポートしてあげてください。
また、忘れ物を少なくするには、準備の手順や量を減らすのも効果的です。可能ならば、教科書やノートを全部、学校に置けると最高です。持ち帰る物が少なくなれば、家から持ち出す物も少なくなり、忘れ物も減ります。
私が特別支援学級で教えていたときには、ランドセルには宿題のプリント1枚、それと保護者向けのプリント・ファイル(※)と筆箱だけを持ち帰ってもらうようにしていました。必ずとは言いませんが、保護者が相談すれば、了解してくれる学校や先生もいます。
(※)プリント・ファイル:本書で紹介する、手作りのファイル。両開きで左右それぞれにポケットをつけ、右側は「学校から保護者用」、左側は「保護者から学校用」の連絡事項を入れて、プリントの渡し忘れを防ぐ。
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■BOOK:『発達障害・グレーゾーンの子どもを伸ばす大人、ダメにする大人 学校生活編」』小嶋悠紀・著
■著者:小嶋悠紀 (こじま・ゆうき)
発達支援コンサルタント、株式会社RIDGE SPECIAL EDUCATION WORKS 代表取締役、特別支援教育総合WEB マガジン「ささエる」編集長。
1982 年、長野県生まれ。信州大学教育学部を卒業後、長野県内で小学校の教員を務めながら、特別支援教育の技術などをテーマとする講演を全国で実施。特別支援学級担任・特別支援教育コーディネーターとして、発達理論・科学的知見に基づいた発達支援を10年以上行い、2023 年4月より独立。これまで延べ3000人の子どもの支援に関わる。直接的な支援のみならず、教育技術研究所との共同による発達支援製品開発、各都道府県・市町村の教育委員会や生徒へのセミナー・研修・講演会、Web 連載、メディア出演などでも活躍。
著書に『発達障害・グレーゾーンの子どもを伸ばす大人、ダメにする大人 家庭生活編』(徳間書店)、『発達障害・グレーゾーンの子がグーンと伸びた声かけ・接し方大全』(講談社)などがある。