夫婦問題・モラハラカウンセラーの麻野祐香です。
「もう二度と結婚はしない。2人の子どもは、自分の手で育てていこう」
そう決意していたシングルマザーのEさんでしたが、ある日出会った男性の優しさに心が揺れました。自分にも、そして子どもたちにも誠実に向き合ってくれる姿に
「この人となら温かい家庭が築けるかもしれない」と信じ、再婚を決意したのです。
ところが結婚後に待っていたのは、夫の激しい怒りとモラハラ、そして義父母の裏表ある態度でした。
今回は、そんなEさんのお話をご紹介します。
※本人が特定されないよう設定を変えてあります
※写真はイメージです
「最初は優しい人だった」モラハラの定番の手口
Eさんはシングルマザーとして、2人の子どもを育てながら仕事と家事に追われる毎日を送っていました。
朝6時に起きてお弁当を作り、洗濯を干し、子どもを送り出してからパートへ。帰宅後は買い物、夕食、お風呂、宿題の確認……自分のことなど何もできないまま、夜10時には布団に倒れこむような日々でした。
「自分ひとりで子どもを育てる」と決めていたものの、ふとした瞬間に不安がよぎることもありました。
「誰かに頼りたい」「甘えてみたい」……そんな思いが顔を出すこともあったのです。そんなとき、取引先の社員だった彼と出会いました。
彼は人との距離を縮めるのがとても上手で、気づけばEさんの話し相手になっていました。初めてふたりで行ったカフェでも、Eさんが子どもの話ばかりしてしまっても、彼は一切嫌な顔を見せず、
「子どもって本当にいいね。君の子どもなら絶対に愛せる自信があるよ」と笑ってくれたのです。
そんな言葉をかけられたら、心が揺れないはずがありません。
何より安心できたのは、実際に子どもたちと接する彼の様子でした。絵本を読んでくれたり、一緒にトランプをしてくれたり……。元夫は子どもが騒ぐとすぐに機嫌が悪くなるタイプだったので、子どもたちも、そして私自身も、彼の自然な態度がとても嬉しかったのです。
子どもが熱を出したときには、「ほら、ゼリーとジュース買ってきたよ」とさりげなく気遣ってくれたり、誕生日にはプレゼントを用意してくれたり。そんな優しさに、子どもたちも少しずつ心を開いていきました。
けれど今にして思えば、彼の“モラハラの片鱗”は、結婚前からすでに現れていたのです。
ある日、彼から「仕事の資料をまとめたいから、ちょっと手伝ってくれないか」と頼まれたことがありました。けれどその日はEさん自身も多忙で、やむを得ず断ったところ……。
彼はみるみるうちに表情を変え、こう言ったのです。
「たいした仕事してるわけでもないくせに、俺のことはどうでもいいんだな」
「お前の子どもたちにまで飯を奢ってやったのに、恩を忘れたのか」
そう言い捨てて、彼はそのまま家を出ていきました。Eさんはショックで、洗濯機の横に身を隠し、声を殺して泣きました。しばらくして彼が戻ってくると、「どこいるんだ」「ごめんね」と家の中を探し、Eさんを見つけるなり、強く抱きしめてきたのです。
「ごめん、言いすぎた」……その言葉に、Eさんは安堵し、彼を「優しい人」だと思い直してしまいました。
けれどこれは、まさにモラハラの典型的なパターン。「暴言→謝罪→抱擁」という一連の“揺さぶり”は、モラハラ加害者がよく使う手口です。相手を責め、追い詰め、混乱させたあとに優しさを見せることで、「やっぱりこの人は本当は優しい」と錯覚させるのです。
Eさんも、まさにその心理トリックの中に巻き込まれていきました。
義両親の“偽りの優しさ”に騙された
やがて妊娠がわかり、Eさんは再婚を決意。夫の両親に挨拶に行くと、義母は笑顔で迎えてくれました。
「一度にお嫁さんと孫が2人もできて、私たちは幸せ者だわ」
その言葉に、Eさんは胸をなでおろしました。
「なんて優しいお義母さんなんだろう。私の子どもまで可愛がってくれるなんて……この人たちと家族になれて幸せ」
そう感じた瞬間でした。
義母は子どもたちにとても優しく接してくれ、子どもたちもすっかり懐いていました。
けれど、結婚後しばらくすると、夫の怒りっぽさが徐々にエスカレートしていきます。ある日曜の午後、義父が庭で作業をしていたときのこと。家の中に、夫の怒鳴り声が響きました。
「チンタラしてんじゃねぇよ!」
驚いて外をのぞくと、義父はうつむいたまま、小さく頷いているだけ。義母はそれを見ても注意せず、まるで聞こえていないかのように振る舞っていました。
「この家はおかしい」
Eさんは、そこでようやく違和感を覚えたのです。
「義両親まで夫の言いなりになっている。親なのに、どうして息子を叱れないのだろう」
胸の奥に戸惑いを抱きながら、Eさんはその光景を見つめていました。
夫との間に生まれた赤ちゃんと、自分の2人の子どもを育てながら、Eさんは「もう2度と離婚はできない」と、必死に家庭を守ろうとしていました。けれど、夫の暴言は日を追うごとにひどくなっていきました。
夕食の味が少し薄いだけで「まずい」と言われ、洗濯物をたたむ順番が違うだけで「お前はバカか?」と怒鳴られる。子どもたちは、次第に夫の前で話さなくなり、笑顔も消えていきました。
そんなある日、夫が「水族館に行こう」と言い出しました。Eさんが「今日は連休初日だから道路が混むかも」と伝えると、夫は「俺の提案にケチをつけるな!」と激昂。しかし案の定、大渋滞に巻き込まれ、一番下の子が泣き出してしまいました。そんな子どもたちに向かって夫は車内で怒鳴り始めました。
「お前のかーちゃんがバカだから、こうなるんだ!」
荒々しい運転のまま家へ引き返し、到着すると「こんな家、二度と帰ってくるか!」と叫び、爆音を響かせて走り去っていきました。Eさんは、怯える子どもたちを安心させようと、自分の悲しみは押しつぶして、笑顔でこう言いました。
「さぁ、公園行こうか。すべり台しようね」
そんな日々のなか、明るく振る舞いながらも、心の中では後悔の念が渦巻いていました。
「なんで結婚なんてしてしまったのだろう。再婚しなければ、子どもたちにこんな思いをさせずに済んだのに……」
渋滞時の言動は、モラハラ加害者に見られる典型的な「支配構造」の一端です。「自分の過ちを認めることができない」未熟な自己愛の構造と、「相手を萎縮させて支配下に置く」ための意図的な攻撃が混ざり合った行動です。
▶▶「なんで再婚なんてしてしまったんだろう」夫の怒鳴り声に怯える子どもたちを見て、私が訪ねた相手は
では、この一件をきっかけに、再婚という選択そのものを深く後悔するようになったEさんが取った行動と、さらなる衝撃の展開についてお伝えします。