舌を噛み、火を放ち─「苦しみから逃れるには“死”しかなかった」江戸の遊女たち。彼女たちが選んだ壮絶な最期とは? | NewsCafe

舌を噛み、火を放ち─「苦しみから逃れるには“死”しかなかった」江戸の遊女たち。彼女たちが選んだ壮絶な最期とは?

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舌を噛み、火を放ち─「苦しみから逃れるには“死”しかなかった」江戸の遊女たち。彼女たちが選んだ壮絶な最期とは?

*TOP画像/誰袖(福原遥) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」28話(7月27日放送)より(C)NHK

 

「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」ファンのみなさんが本作をより深く理解し、楽しめるように、40代50代働く女性の目線で毎話、作品の背景を深掘り解説していきます。今回は江戸時代における遊女の苦しみ、それに伴う選択について見ていきましょう。

生きている限り逃れる道はほぼない遊女たち

吉原の遊女の大半が貧しい農家の娘たちです。彼女たちは親の借金返済のカタとして吉原に売られてきた身ですが、男性客の相手を吉原で生涯にわたって務める必要はありません。契約内容としては、27歳前後には年季が明け、自由の身になれます。

しかし、年季明けを無事に迎えられた遊女は極僅かでした。不特定多数の男性客の相手をしているため性病に感染するリスクは高く、かつ不衛生な環境に置かれていたため、多くの遊女が年季明けの前にこの世を去りました。

遊女が病気になった場合、売れっ子遊女であれば治療に専念でき、世話役が付くこともありました。一方、それほど売れていない遊女は布団部屋に放置され、死を待つしかありませんでした。苦しさに耐え切れず、舌を噛んで自死する者や首をくくって自死する者もいました。

また、遊女の中には生き地獄から逃れるために放火におよんだ者もいます。新吉原は全焼するほどの火事が18回も起きていますが、その半数以上は遊女による付け火が原因といわれています。放火を試みた遊女は火事で吉原を混乱させて、その隙に逃げることを試みたり、遊郭でひどい扱いを受けるよりも法の裁きを受けることを選択したのです。

遊女の待遇は妓楼の主人によっても大きく変わりますが、待遇に耐えかねて犯行に及んだ遊女もいます。例えば、蔦重の時代よりも少し後になりますが、1845年、川津屋の主人は残忍な罰を遊女に与え、食事もろくに与えていなかったよう。遊女たちは日頃の仕打ちに耐えかねて、妓楼に共謀して火を付けました。

江戸時代において放火は大罪であり、付け火をすれば獄門もしくは、火炙りといった厳罰に処されます。けれども、遊女はそれを覚悟の上で、犯行におよぶほど苦しい状況にあったのです。とはいえ、遊女の場合、過酷な境遇が情状酌量の理由と判断され、島流しの刑に処されることがほとんどでした。また、遊女が付け火をしたことで、犯行におよんだ遊女のみならず、遊女に虐待まがいの行為をした店の主人も島流しや財産没収、叱責といった処罰を受けたケースもあります。

苦界に留まり続けるくらいなら、愛する人と美しく散りたい

遊女の中には男性と共に死を選ぶ者もいました。遊女と男性客が両想いになった場合、男性が身請けをすることで、遊女は年季前に自由の身になれる制度が吉原にはありました。とはいっても、花魁クラスであれば身請けには現代の価格にして約1億円が相場であったため、誰もが支払える金額ではありません。このため、遊女と心中する道を選ぶ男性は珍しくありませんでした。

当時は心中する遊女と男性客が多かったため、自殺した場合は日本橋に晒したり、生き残った場合は人別帳から外したり、生き残った一方を処刑したりしました。さらに、遊郭によっては、遊女が自死した場合に親の借金を倍にするなど、遊女が死を安易に選べないような契約を結ぶところもありました。

切ない男女の恋 権八と小紫の純愛と死

人は恋をすると理性を失うこともあります。“会いたい、会いたい”という思いが重なり、一線を越えてしまうことも…。

渡り徒士の権八は吉原の三浦屋の小紫に恋に落ちました。小紫はお金には惹かれない芯の強い女性でしたが、権八に心を惹かれました。

とはいえ、権八が客として店に行かなければ、二人は会えません。権八は小紫に会うためのお金を稼ぐべく、辻斬り強盗を繰り返し行っていたのです。人を殺して、金を奪い、そのお金で吉原に通っていました。しかし、こうした暮らしは長く続くものではありません。絹商人を斬り殺し、お金を奪ったときにお尋ね者となりました。彼は逃亡を試みたものの自首し、鈴ヶ森で磔の刑に処され、25歳にしてこの世を去りました。

権八の死後、小紫は深い悲しみに沈み、自責の念に苛まれました。彼女には身請けの話があったものの、初七日の日、権八が眠る目黒東昌寺の墓前で、懐剣を胸に刺し、自害しました。

本編では、遊郭という“苦界”に生きた江戸の遊女たちが、自ら命を絶つしかなかった過酷な現実をお届けしました。
▶▶“死の先”に残されるものは、恋か、伝説か。「誰袖と意知」「うつせみと新之介」江戸が泣いた事件とともに生きる二組のカップルの行方は【NHK大河『べらぼう』第28回】
では、命をかけた恋に生きた男女が語り継がれる伝説となっていく過程をひも解きます。

参考資料

江戸歴史散歩愛『お江戸の名所の意外なウラ事情』 PHP研究所 2008年

永井義男『江戸の性の不祥事』学研プラス 2009年

永井義男『花魁の家計簿』宝島社 2025年

岡崎守恭『大名左遷』文藝春秋 2022年

吉田浩『決定版 蔦屋重三郎のことがマンガで3時間でマスターできる本』明日香出版社 2024年


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