特別支援校ではなく敢えて「私立小学校」を選んた。入学からわずか1週間で自閉スペクトラム症の息子に起きた「劇的変化」とは | NewsCafe

特別支援校ではなく敢えて「私立小学校」を選んた。入学からわずか1週間で自閉スペクトラム症の息子に起きた「劇的変化」とは

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特別支援校ではなく敢えて「私立小学校」を選んた。入学からわずか1週間で自閉スペクトラム症の息子に起きた「劇的変化」とは

首都圏で中学受験が過熱する裏で、「面倒なことは早く終わらせた方が楽」と小学校受験を検討する家庭も少なくありません。

広告代理店で働く広子さん(仮名・45歳)は、自閉スペクトラム症(ASD)と軽度知的障害を持つ息子のA君(仮名・年齢非公開)を、インクルーシブ教育を理念に掲げる私立小学校に通わせています。今回は、自閉スペクトラム症の子供を私立小学校に通わせることのメリットとデメリットについて、お話を伺いました。

前編では「育てやすい美少年」と言われていたA君が、5歳で軽度知的障害と自閉スペクトラム症と診断されるまでのエピソードを紹介しました。

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特別支援学校ではなく「私立小学校」を選んだ理由

「息子の検査は、一度目は集中力が続かず測定不能で、2回かかってしまいました。さらに、手帳の申請やカウンセラーさんとの面談をこなしているうちに、小学校入学を本格的に考えるタイミングになっていて……」。

広子さんの住む地域には、自閉スペクトラム症や情緒障害に対応する特別支援学級がなく、区の就学相談では「スクールバスで通う特別支援学校」を勧められたといいます。

「特別支援学校も見学しました。雰囲気は悪くなかったのですが、少なくとも私が見た範囲では、あまり勉強を教えていない印象でした。やる気のある子ならば、自習して質問すれば教えてもらえるのかもしれませんが、基本的には学習は家庭任せというスタンスだったと記憶しています。うちの子は文字や数字を覚えるのは早くて、特に算数が好きなので、やはり『得意な教科はのばしてあげたい』と思ってしまいました」。

そんな時、療育先で知り合った2歳年上の女の子が通っていたのが、「インクルーシブ教育」を掲げるB小学校でした。

「最初は特別支援学校と家庭教師の組み合わせで考えていました。でも夫がそのB小学校に興味を持ち、説明会に参加してみたんです。校舎もきれいで、生徒さんたちも障害の有無にかかわらず明るい雰囲気で、夫婦そろってすっかり気に入ってしまって。『とりあえず受験をしてみて、もし落ちたら、特別支援学校にしよう』と方針を決めました」。

入学1週間で劇的な成長 専門性がもたらす変化

発達障害児の指導歴がある個別指導幼児教室に3ヵ月通い、受験に挑んだA君。結果は見事、合格。

「ご縁とタイミングが良かったのだと思います。本人も『合格』は嬉しかったようで、入学前から学校の絵を独特なタッチで何枚も描いていました」。

そして入学してまず驚いたのは、「生活面での劇的な伸び」だったそうです。

「『一生できないんじゃないか』と思っていた着替え、服のボタン、靴紐結びまでできるようになって。しかも脱いだ服をちゃんと洗濯かごに入れたり。蝶結びなんて、40代の私ですら苦手なのに……入学してたった1週間でできるようになって、『魔法でもかけられた?』と空恐ろしくなるほどの成長でした」。

小学校には、障害児教育に長年携わってきた専門の先生が多数在籍しており、飽きさせず成長を促すカリキュラムも豊富。

「個人的な見解ですが、老舗の幼児教室に小学校受験ノウハウが詰まっているように、B小学校のようなインクルーシブ教育に特化した専門機関にも、特定の障害のある児童を伸ばすためのノウハウが蓄積されているんだと思います」。

特別支援学校を見学した時の対応にも、不満があったわけではないという広子さん。

「例えば、最近は厳しい教育をしすぎると虐待の疑いを持たれたりしかねないので、特別支援学校はとても優しい言葉遣いをしてくれました。でも自閉スペクトラム症児童の場合、キッパリはっきり注意しないと伝わらない場合もあります。B小学校は、そんな『特性に併せた教育のコツ』今まさに更新され続けている“研究機関”のような面もあるので。過去の卒業生と先生たちのトライ&エラーの知見を試せるだけでも、この学校に入った価値はあったと思います」。

「この学校でよかった」と心から思える理由

さらに、卒業後の進路サポートの手厚さも、保護者にとっては大きな安心材料です。

「卒業後の就職や進学って、やっぱり心配です。でもこの学校には、先輩たちが開いてくれた企業とのつながりがあり、その子の障害の程度や特性や興味に合わせた就労支援をしてくれます。調理やものづくりなど、実際の職場に結びつくような教育も充実していて……。やっと私たちも、学校に『育てる』ことをお任せして、『地域社会で暮らす』未来に目を向けられるようになりました」。

最近では、公立校でも進路指導が充実しているという話も聞くそうですが、「うちの子の場合、今の学校がベストだった」と回想します。そして今では、夫の真太さんも「あの時、検査をして早く手帳がもらえよかったね」と言っているそう。

「『人間万事塞翁が馬』って本当だね、と夫も言っていて。あの頃は落ち込んだけど、今は『結果オーライ』だねって」。

私立小学校に入ったメリットとデメリット

「今の学校に入学したメリットは、充実したカリキュラムや卒業後の就職率の高さ。デメリットがあるとすれば、我が家の場合は学校まで電車で40分と微妙に遠いので、低学年のうちは送迎が必要だったことです。夫婦ともに運転免許があり在宅勤務可な職種だから可能でしたが、そうでなければスクールバス圏内に引っ越しが必要だったと思います。また、費用の面でも公立より負担は大きいので、共働きを続けたいと思っています。学校の校風も独特なので、ご家庭によって『あう・あわない』は確実にあると思います」。

もし5歳で検査を受けていなければ、数年後にはテストの点数をあげる知恵がついてIQが上がり「グレーゾーン」とされて手帳がもらえず、今の学校の障害児枠に応募できなかったかもしれないと、広子さんは振り返ります。

「グレーゾーンといっても人ぞれぞれですが、うちの子は“凸凹”を自分でうまく隠せるタイプではなくて、隠せたとしても心身にストレスがかかると思うんです……。ストレスが強いと、不良行為など、行動に歪みも出てくるかもしれませんし。もし診断が遅れて、療育がまったく受けられなかったら、どうなっていたか想像がつきません。だからこそ、私はあの時、あのタイミングで診断名がついて、療育手帳がもらえて、本当に良かったと思っているんです」。

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※本作は取材に基づいたストーリーですが、プライバシーの観点から、個人が特定されないよう随時事実内容に脚色を加えています。


《OTONA SALONE》

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