街で見かける外国人観光客が撮影している物や、SNSで発信している日本を見ると、思わず「そこ!?」とツッコミたくなること、ありませんか?
どうやら日本に住み慣れた私たちにとって「普通」「日常」であることも、彼らには新鮮な驚きや感嘆にあふれているようです。
今回は、インバウンド観光客の目を通して気づく、日本の「スゴイ」ところや、それを支える日本人の精神について、増淵敏之 さんの著書からご紹介したいと思います。
※この記事は『ビジネス教養としての日本文化コンテンツ講座』(徳間書店)から一部を抜粋・編集してお届けします。
【ニッポンスゴイ!】電車が時間通りに来るなんて、信じられない!「超交通システム」
日本の交通システムは極めて評価が高い。新幹線に象徴される安全性、そして定時運転だ。緻密に、規則正しく日本の交通システムは仕上げられている。また大都市では鉄道、地下鉄、バスなどの組み合わせによって、観光地を巡る際にも比較的、利便性が高いとされる。
とくに交通網の発達した東京はその代表格だろう。確かに新宿駅など一部の駅では乗り入れが多いので、困惑するインバウンド観光客も少なくはないが、それでも行先表示、案内所などでその欠点は補完されている。
またタクシーも地方都市では流しが少ないが、駅や都心部ではタクシー乗り場もあり、そこまでの苦労はないだろうし、東京をはじめとした大都市では利便性が高い。
タクシー料金はアジア諸国の中でも高額なほうだが、公共交通機関のみでも十分に移動できる。またインバウンド観光客は安価なJRのジャパン・レール・パスも利用できる。
【ニッポンスゴイ!】まさにメダルもの!便利すぎる「コンビニエンスストア」、「自動販売機」はワンダーランド
そして、交通システムにもまして外国人から評価が高いのは、日本のコンビニエンスストアであろう。24時間営業の店舗も多く、都市部では店舗数も多い。インバウンド観光客にとってはホテルの近くにコンビニエンスストアがあることは安心感にもつながるだろう。
また日本のコンビニエンスストアでは、食品や飲み物だけでなく、日用品、雑誌、薬、宅配便、郵便、各種チケットの購入、ATMの利用、コピー機の利用など、さまざまなサービスがあり、インバウンド観光客には便利な存在になっている。
また海外のコンビニエンスストアではアルコール販売を禁じている国も多いが、日本ではアルコール販売も許可されている。
2021年の東京オリンピック時、米国の「ニューヨーク・タイムズ」紙は同年8月1日、「メダルに値する食事を見つけたとき」という記事で、日本のコンビニエンスストアの素晴らしさを、一面及びスポーツ面で絶賛した。
同紙の記者もプレスセンター、ホテル間に3軒のコンビニエンスストアがあるといい、記者だけではなく、アスリートも頻繁に立ち寄っていると記した。当時はまだ感染症対策のため飲食店に足を向けることが憚はばかられる中で、コンビニエンスストアがアスリートたちの拠りどころだったとのことだ。
またカナダの放送局CBCのスポーツ記者は、当時、コンビニおにぎりの包みをうまく開けられずに困惑する動画を投稿した。動画はそれ以来、再生回数を増やし、これに反応してセブン‐イレブン・ジャパンはおにぎりの正しい開け方についての動画をアップした。
もちろん現在でも日本を訪れる観光客は動画共有サイト、SNSなどでコンビニエンスストアを紹介し、高い評価を与えている。円安で観光客にとっては金銭的な負担が少ないにもかかわらず、毎日、食事はコンビニエンスストアで購入するという者もいる。
同時に「デパ地下」に言及する者も多い。これも利便性と品質に注目が集まっているが、中にはプラスティックの多さやビニール袋の環境への影響に言及する者もいる。
利便性でいうと、日本の至るところに設置されている自動販売機も海外から高評価を得ている。アルコールの販売は少なくなったが、それでも飲料だけではなく、食品、花などの自動販売機も散見できる。かつては硬貨で購入したものだが、現在ではカードをはじめさまざまな支払い方法に対応できるものが主流になっている。
【ニッポンスゴイ!】すみずみまで行き渡っている「他人を思いやる」「迷惑をかけない」精神
最近は東京を見ていると、観光案内所も相当数増えたようだ。これもインバウンド観光客には利便性が高い装置だ。JNTO(日本政府観光局)認定外国人観光案内所は2024年度で、東京では132カ所、全国では1514カ所なので、1割弱が東京に集まっている。日本最大の観光都市といわれる所以だ。ちなみに京都は36カ所の設置である。もちろん多言語対応がなされている。
観光案内所の場所もTokyo Tourist Information などのポータルサイトで紹介されている。またインターネットでの観光案内も適宜、整備されてきており、観光スポット、アクセス方法などの情報を提供、こちらも多言語対応が始まっている。同時に交番や交通関係の案内所も機能していることも見ていく必要があるだろう。
日本人としては当たり前のことのように捉えていることが、外国人の目からは特別に見えるのだろう。利便性は基本的には各企業の努力の結果であり、頭が下がる思いである。ただ鉄道もコンビニエンスストアも日本発ではなく、例によって日本でカスタマイズされたものである。
つまり日本の消費者に合わせて改良して現在の形になっている。それを見て外国人が感嘆の声を上げる。ここにも他人を思いやる精神が宿っている。利便性を支えているのはその部分だ。消費者に迷惑を掛けないように、また彼らの欲求に可能な限り応えられるように、企業は日々、努力を続けている。
そしてそれは日本人にばかり向けられるものではなくなってきている。2000年初頭までは考えられなかった状況だ。どこの街を歩いていても外国人旅行者に遭遇する。新型コロナによって、一時期は遠のいていたが、ピーク時を超えつつある。彼らは日本人でも気が付かないことにも感動してくれる。
さらに好感度の高い国にするための方策を国、地方自治体、企業、一般市民で考えていかなければならない。もちろんインバウンド観光客の増加によるオーバーツーリズム関連の問題も多発しつつあり、同時にこの点も考えていかなければならないだろう。
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■BOOK:『ビジネス教養としての日本文化コンテンツ講座』増淵敏之著
■著者 増淵敏之 ( ますぶち・としゆき)
1957年、北海道札幌市生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了、学術博士。法政大学大学院地域創造インスティテュート教授。専門は文化地理学。NTV映像センター、AIR-G’(FM北海道)、東芝EMI、ソニー・ミュージックエンタテインメントにおいて放送番組、音楽コンテンツの制作および新人発掘等に従事後、現職。コンテンツツーリズム学会会長、文化経済学会〈日本〉特別理事を務める。主な著書に『物語を旅するひとびと』(2010年、彩流社)、『欲望の音楽』(同、法政大学出版局)、『路地裏が文化を生む!』(2012年、青弓社)、『きょうのごはんは“マンガ飯”』(watoとの共著、2016年、旭屋出版)、『おにぎりと日本人』(2017年、洋泉社)、『ローカルコンテンツと地域再生』(2018年、水曜社)、『「湘南」の誕生』(2019年、リットーミュージック)、『伝説の「サロン」はいかにして生まれたのか』(2020年、イースト・プレス)、『白球の「物語」を巡る旅』(2021年、大月書店)、『韓国コンテンツはなぜ世界を席巻するのか ドラマから映画、K-POPまで知られざる最強戦略』(2023年、徳間書店)などがある。