この「不登校の答え合わせ」は、登校に困難を抱えた経験がある方に、今だから語れる思いをお聞きするインタビューシリーズ。いまや40万人にものぼるともいわれる不登校児童生徒当事者や、それを見守る大人たちにとってのヒントを探ります。
「番外編」として、入学・進級を迎えた4月~GW明けにかけて急増する「登校渋り」や「不登校」への対応法を専門家にお聞きしています。解説は、不登校・発達障害の児童生徒を中心とした個別学習指導に20年以上携わる、公認心理師の植木希恵さんです。
一生懸命で頑張り屋な親ほど陥りやすい「初期対応の誤解」とは?――今回は、「1日休ませると、休み癖がつくのでは?」という誤解についてアドバイスをいただきました。
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【不登校の答え合わせ|家にいる子どもの受け止めかた編】
休ませるのは「明日行けるように」ではなく、「明日行けるかどうか」を検証するため

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子どもから「学校を休みたい」と言われた時、「1日休ませると、このまま休み続けてしまうのではないか」と迷う親御さんは非常に多いです。でも、もし結果として休み続ける事態となるなら、それは「あの日休ませてしまったから」ではありません。「そもそも長期的に休みが必要な状態だった」のであり、遅かれ早かれやって来るものが“その時”始まった、と捉えるのがリーズナブルでしょう。
では、そもそも私たちは何のために休むのでしょう?
まずは、体を休めるためですね。身体的に軽く疲れているだけなら、激しい運動を避けたり、しっかり眠ったりするうちに、間もなく元気を取り戻す。心に起因している場合も、その傷が浅ければ短い期間で回復するかもしれません。これらの場合は、1日(あるいは数日)休めば学校に行けるわけです。多くの親御さんは、この展開を期待します。
ところが、数日経っても回復しないなら、単なる「疲れ」ではなく、別の可能性が出てきます。つまり「医学的な問題が生じている」「メンタル面で疲弊している」などの可能性を考える必要があるかもしれません。

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1日学校を休ませるのは、「翌日確実に登校させる」ためではなく、「この1日で回復するのかどうか」を検証するため。「今日休むのは、明日学校に行くためだからね!」という約束を果たさせるのが目的なのではなく、子どもに何が起こっているかを把握するための観察だと捉えてください。
「家でこんなに元気なら学校に行け!」ではなく、「家だから元気に過ごせている」と考えるべき

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ところが、「休みたい」という訴えを受け入れた途端、家ではものすごく元気!「せっかく仕事や予定を調整したのに……だったら学校に行ってよ!」と、きっとモヤモヤしますよね。
親御さんの気持ちはとてもよくわかりますが、もし私がそのような子の状態を目にしたら、「エネルギー配分がうまくいっていないのだろうな」と考えます。
▼エネルギー配分がうまくいっていない例
- 学校にいるだけで、莫大なエネルギーを費やしている
- 外での人間関係が多すぎて、処理しきれない
- 情報量が多すぎて、処理しきれない
- 先生に怒られないように、ずっと緊張している
- おちゃらけてばかりのクラスメイトに、ずっとハラハラしている
- リーダー的立場で、過剰に張り切っていたり、ちゃんとやらねばと気を張っている
つまり、「元気なくせに休んだ」のではなく、「学校に行かないからエネルギーを消耗する必要がなくなり、家で元気に過ごせている」と考えるのです。
ちなみに、上記に挙げた「人間関係が多すぎ」て疲れている子の場合、休んだ日は一人で静かに過ごすかもしれません。それはそれで「元気がない……?」と心配になるかもしれませんが、人との関係を断ってパワーをチャージしている可能性があります。

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――こんな視点をもつと、「休んでいるのに元気」「いつもより静か」な子の姿に、また違った側面を見出せるのではないでしょうか。いずれにしても、家でリラックスして過ごしているのは、本来は喜ばしいはず。日頃、親御さんが我が子にとっての「安全基地」を作り上げられている証明でもあります。そんな環境を実現できているご自身を、まずは誇ってくださいね。
《解説》
植木希恵(うえき・きえ)
不登校・発達障害専門個別学習指導 きらぼし学舎代表・公認心理師。カウンセリングルーム勤務や中学校の非常勤講師を経て、「不登校・発達障害傾向の子ども専門家庭教師」として独立。2014年、広島市で「きらぼし学舎」を開業。「心理カウンセリング✕学習」というスタイルで多くの生徒、保護者とセッションを20年以上続けている。2018年からは、母親に子育ての視点を提供する「お母さんのための心理学Web講座」を開講。「子どもの見方が変わった」「子どもへの接し方、言葉のかけ方が変わってきた」と評判を呼び、現在は毎期100人以上の受講生を誇る。2023年、自著「おうち学習サポート大全」(主婦の友社)を上梓。