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介護施設で虐待を生まないために

社会 ニュース

2014年に川崎市幸区の介護有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」の入所者が相次いで転落死した事件で、元職員の男が殺人容疑で逮捕されました。介護施設の職員が入所者を投げ落とした可能性が出てきたのです。家族の介護だけでは困難だからこそ預けた施設での殺人は衝撃的です。

2011年11月、介護サービス会社「メッセージ」の子会社「積和サポートシステム」が川崎市内に同施設を開業しました。2014年11月には、87歳の男性が4階から転落して亡くなりました。また、12月9日には86歳の女性が同じく4階から転落死。12月31日には、96歳の女性が6階から転落死ししています。逮捕された介護職員の男は、3人が転落死したときの夜の当直だったといいます。警察の調べに、男は、ベランダから投げ落としたことを認めているといいます。

この施設では、15年6月、入所者の家族が暴行などの様子を隠しカメラで撮影をしています。その映像に基づいて、市の職員が調査したところ、虐待に4人の職員が関与していることが明らかになりました。つまり、殺人に関与した男だけでなく、職員が虐待してしまうリスクを抱えていた職場環境であり、そして、虐待が起きてしまったときのチェック機能がなかったことを意味します。

殺人は、施設内虐待でも最悪のケースです。労働環境や職員自身のメンタルなど虐待が起きない環境づくりが望まれますが、過度な職員相互監視となってしまってはかえって息苦しくなります。しかし、疑いのある場合は、入所者の家族がしたように監視カメラでチェックが必要になってきます。ただし、虐待した職員個人を叱責したり、処分をするだけにせず、虐待を生み出した職場の分析と改善が必要になります。

「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(いわゆる、高齢者虐待防止法)が成立して10年が経ちました。この法律での「高齢者虐待」は、「児童虐待」とほぼ同じ定義で、「身体的虐待」「精神的虐待」「ネグレクト」「性的虐待」があります。加えて「経済的虐待」もあります。さらに、児童虐待防止法では、学校の教員は含まれない一方で、高齢者虐待防止では、「要介護施設従事者等による高齢者虐待」が対象に含まれています。

厚生労働省の調査(対象は全国1741市町村と47都道府県が受けた通報や相談件数)では、施設での高齢者虐待は、前年比で35.7%増えて、300件となっています。被害者の総数は691人でした。このうち、77.3%は、被害を受けた高齢者が認知症を患っていました。

逮捕された男は「(転落死した入所者は)手がかかる人だった」と供述しています。認知症をはじめとして、介護者にとってストレスを抱えるような状況もあるでしょう。家族のストレスや疲労を軽減させるために施設がある側面もありますが、その施設で職員自身が介護ストレスを感じてしまう。それでは「介護ストレス」を抱える人が変わっただけです。ストレスを抱えやすいからこそ、専門性とストレスコントロールが必要になります。

法律では第三者によるチェックとして、行政には立ち入り調査権が付与されています。しかし、「養護者による高齢者虐待により高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認めるとき」に限られています。ただ、施設内の虐待は、家族も、他の職員も、施設管理者も知られないところで行われます。そのため、「生命又は身体に重大な危険」が生じているまで放置することにもなりかねません。抜き打ち調査も必要になるのではないでしょうか。

逮捕された男も、虐待をしたくてしたわけではないと思います。夜勤が多かったことで「嫌気が差した」と話しているといいます。労働条件や人員配置などもきちんと見直さなければ、虐待してしまう環境は改善されません。これだけ高齢者施設が増え、そこで働く担い手が増えれば、労働者の質も低下してしまってもおかしくはありません。そのため、監視や調査の前提として、研修の充実と同時に、働く人たちからの相談やメンタルチェック体制が求められるのではないでしょうか。

[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中
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