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写真は嘘をつくのか

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フォトジャーナリズムを志向する月刊誌「DAYSJAPAN」(発行人・広河隆一)12月号に掲載された写真がネットで話題になっています。掲げられたタイトルが「『どこが収束か事故後5年目を迎える福島原発事故が奪った村」でした。話題になったといっても、「捏造ではないか」と騒がれたのです。

掲載された写真は草が茂っている中で、放置されている車が写っています。写真説明は、いかにも原子力災害のため、人々が乗り捨てた車を印象付けています。しかし、震災前からの配車置き場だというのです。同誌は2日、Facebookで訂正文を発表しました。

撮影したのはポーランドの写真家、ポドニエシンスキー氏。自身のホームページで写真を公開しています。日本語版もあります。原発災害の写真をまとめたものの一枚が、問題の写真です。

この写真を最初に知ったのはハフィントンポスト日本語版(2015年10月11日)だったと思います。震災後3月26日から、のちに警戒区域となる東京電力・福島第一原発(大熊町、双葉町)から20キロ圏内の取材を私もしています。そのため、この車の列が並んでいる場所以外は、だいたいの場所がわかりました。この場所だけわからなかったため、見た当初は「警戒区域を細かく取材している人がいるものだ」とだけ思っていました。

ただ、ハフィントンポストの写真説明が「子供たちは後ろの丘に避難した」とあり、海の近くなのか?しかも学校や保育園が近いのか?と思っていたのですが、その時は調べることもなく時間が過ぎていました。

再び私の周囲で話題になったのは数日前です。無料通信アプリLINEで、この写真の撮影場所はどこなのか?と知人が聞いてきたのです。それで一緒に特定していたのですが、グーグルマップで場所がわかりました。しかも、海沿いではないために、ハフィントンポストの写真説明はおかしいとは思いました。

さらに、同じ頃、ツイッターでも話題になっていて、2009年にも車が置かれていたことがわかったのです。ということは、震災前から廃車置き場だった可能性があります。

「DAYSJAPAN」の写真説明でも、「人々が乗り捨てて逃げた車」とあったのですが、乗り捨てたわりには車間距離が狭すぎますし、周囲の風景からして、道路ではありません。訂正の説明では、写真家のホームページに、「恐らく、車が放射能に汚染されたため、避難住民たちがやむなく捨てていったのだと思った。車に近づいていった次の瞬間、放射能測定器が鳴り始め、その推測が正しいことを証明した」と書いていることから、編集部がそれを前提に写真説明をアレンジした、というのです。

そもそも、放射能に汚染されたから、車を乗り捨てたかどうかを住民が認識できたのかどうかは、当時を取材していればわかると思います。富岡町の住民は発災翌日の3月12日に避難をしています。大型バスに乗ったり、自家用車で避難をした人が多かったとは思います。自家用車を置いていった人がいるとしたら、バスに乗った人か、津波にのまれたか、ガソリンが不足していたためか、故障していたためではないかと思われます。

私も被災地では地理が詳しくないために、スマートフォンのGPSで地名をチェックしています。また、それだけで心配な場合は、GPS機能を連動させてスマートフォンで写真を撮っておきます。また震災前に何があった場所なのかを調べることができます。ズレることもありますが、大きな場違いはありません。震災当初、沿岸部は携帯の電波が入りにくかった場所が多かったのですが、GPSは機能していました。

ツイッターのまとめである「トゥギャッター」では、話題になったツイートを編集した上で、「『原発事故で人が住めなくなった村』という印象操作の手口」とタイトル付けされてしまっています。フォトジャーナリズムを志向する雑誌の編集者なら、そもそもネットで見つけた写真を精査する時間もなく掲載するのは問題があるのではないでしょうか。

また、原発災害を取材する人たち、あるいは当事者である避難者たちと雑誌の編集者とネットワークが希薄ということが明るみになってしまったと言えるでしょう。自戒を込めていいますが、きちんしたつながりがあれば、今回のようなミスはなかったのではないでしょうか。

「写真は嘘をつく」というつぶやきも見ましたが、今回は、写真そのものは嘘をついていません。写真説明が間違っており、その結果、原発災害のイメージをわい曲させたということでしょう。

[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中
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