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性犯罪者の再発防止の充実を

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大阪・寝屋川市の中学生の男女2人の遺体が見つかった事件で逮捕された山田浩二容疑者(45)は、昨年の秋に出所したばかりで、同様の事件での再犯だったことがわかってきています。毎日新聞によりますと、02年~03年の男子中高生への逮捕監禁、強制わいせつ、強盗、銃刀法違反などの事件で、03年5月に懲役12年の判決を受けていました。昨年10月に刑務所を出たばかりでした。

繰り返された犯罪。今回の事件では死体遺棄容疑というより重大な事件にまで発展しました。もちろん、今後は、殺害との関連を視野にいれての捜査になります。それにしても、山田容疑者の再犯を防ぐことができなかったのでしょうか。

もちろん、性犯罪者に関する再犯防止の取り組みがないわけではありません。全国19の刑事施設と拠点として、認知行動療法を中心とした再犯防止のプログラムがなされています。また、民間でも、司法段階から認知行動療法のプログラムを実施しています。こうした取り組みについての詳細は、今週の週刊朝日に書きました。

しかし、この処遇プログラムが始まったのは06年からです。04年11月に奈良市で女児が誘拐され、殺害された事件がきっかけに、再犯防止の機運が高まったのです。逮捕された小林薫元死刑囚(執行済み)は、幼女へのわいせつ事件の前科があったのです。

また、このプログラムは刑務所から出たあと、または仮出所で保護観察処分が終わったあとには、強制的なプログラム参加の仕組みがありません。民間での取り組みはありますが、いずれも実費負担が伴います。なによりも、そうした機関があることを自力で入手しなければなりません。これまでの報道や山田容疑者のフェイスブックをみる限りでは、そうした医療機関に通っていたかのような形跡は見当たりません。

こんなタイミングの中で、法務省は性犯罪の厳罰化の是非などを議論する検討会が報告書を出しました。その中で、強姦罪及び強姦致傷罪について、法定刑の下限を引き上げるべきかについては、「(強姦罪は)『魂の殺人』と言われるように被害が非常に長期間続く」などとして、引き上げるべきとの意見が多数を占めた。一方年少者が被害者の場合は法定刑を加重すべきか、については、日本の刑法が被害者の特性によって加重されることはないが、現状でも個別事情を考慮しているとして、法定刑を加重する必要性はない、とされました。

性犯罪が起きないように、抑止としての厳罰化は一定程度必要だと思われますが、性犯罪は、他の犯罪よりも繰り返される可能性があると言われています。そのため、厳罰化だけではなく、再犯防止はセットでなければなりません。そのための、処遇プログラムですが、その中では、認知行動療法が基本になっています。もちろん、諸外国でもそうしたプログラムがありますが、加えて、自制がどうしてもできないのなら、ホルモン治療が必要になります。韓国では常習犯には薬物治療が義務付けられましたが、日本では、民間の病院で、しかも実費でしなければなりません。

またGPSの装着を義務付けるかどうかについても、効果については議論があります。GPSは装着した者がどこにいるのかはわかりますが、何をしているのかはわかりません。再犯時の捜査については参考になりますが、再犯防止になるとは限りません。こうした意味もあり、日本では、GPS装着の議論はあるものの、実施にはいたっていません。

刑務所内でプログラムを受けているときは、性的な衝動を発露する場面はほとんどありません。その意味では、プログラムの効果は測りにくいのです。性犯罪者の再犯防止に取り組む多くの人が言うように、社会に出た後に、性的な衝動が出てしまう可能性がある場面で、いかに抑制できるかが問われることになります。その社会に出た後のフォローアップが公的には何もないと言っても過言ではありません。

ある服役囚が言いましたが、刑務所は「タイムカプセル」のようなものです。仮に10年の懲役だとすれば、出所後は、性的な欲望を満たす環境は大きく様変わりしていることでしょう。10年間も外界とのコミュニケーションが絶たれるということは、それだけ、コミュニケーション不全を起こしてしまう可能性があります。社会との接点があったとしても、急激な変化には適応できない可能性があります。

もちろん、被害者対策を充実させることは必要です。その一方で、加害者の再犯防止に関しても、もっと目を向けなければならないのではないでしょうか。新たな被害者を生み出さないためにも、出所後にどのようにフォローするのかを考えないといけないと思うのです。

[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中
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