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大学の自治

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大学の自治について、考えるべき出来事がありました。京都大学吉田南キャンパスに、京都府警警備2課の公安警察官が無断で入り込みました。その警察官を近くにいた人たちが取り囲みました。
公安警察官は構内の建物に連れて行かれましたが、午後4時ごろ、解放されたといいます。けがはないようです。いったい何があったのでしょうか。

この様子はツイッターで実況中継されていました。私服警官が学生と思われる人たちから取り押さえられていたのです。そして財布などを取り上げたあとで、"監禁"されたとの話もありました。

報道によると、2日前の11月2日、東京都中央区銀座の路上で行われていた「戦争反対・安倍打倒デモ」のとき、規制中の機動隊員に暴行を加えたとして、
警視庁は男3人を公務執行妨害の疑いで現行犯逮捕しています。このうち2人が京大生ということで、キャンパス内では抗議活動が行われていました。

警視庁公安部は、2日のデモを組織したのは中核派系の組織が主催し、逮捕された3人も活動家だとみているようです。
デモに参加した人なら経験があるかもしれませんが、警備にあたっている警察官は、わざと進路を狭めたり、挑発行為をしかけてくることがあります。
公安部と中核派との対立の過去をみれば、不当な逮捕という可能性は否定できません。そのためもあり、公安警察官は、京都大学内の抗議活動を監視していたのでしょうか。

京都大学の杉万俊夫副学長は「本日、警察官が無断で大学構内に立ち入ったことが分かりました。事前通告なしに警察官が構内に立ち入ることは誠に遺憾です」とコメントを発表しました。
学問の自由が保障されている大学内に許可なく警察官が立ち入ったことは、その自由を侵しかねません。

一方、京都府警では逮捕・監禁事件として捜査することにしているといいます。

ツイッター上では「京大版ポポロ事件か?」と騒がれるほどでした。

ちなみに、「ポポロ事件」とは、1952年2月に起きました。
東京大学本郷キャンパスの公認学生団体「ポポロ劇団」が演劇発表会を行ったときに、会場にいた私服警官を学生が警察手帳を取り上げました。
このときの演劇は、松川事件(東北本線で起きた列車往来妨害事件で、被告人は全員無罪。未解決となっている)をテーマとした「何時(いつ)の日にか」でした。
学生は「暴力行為等処罰二関スル法律」に違反したとして起訴されました。一審と二審では学問の自由を守るために正当として無罪。最高裁大法廷は差し戻し。結果、有罪となった事件です。

大学構内に警察が入ることの是非は学生運動が激しい時代にはよく言われていました。
私が学生の頃は学生運動は静まり返っていたため、大学内に警察が入ることは表立ってはありませんでした。
ただし、学生運動のメンバーがいたり、学外からも活動家が立ち入っていたことから、私服の公安警察官が出入りしていた可能性はゼロではありません。

公安警察にとってみれば、政治活動をしているメンバーは監視対象となりえますから、必要な捜査と主張することでしょう。
しかし、ことは大学です。学問の自由を侵しかねない捜査もありえます。

一方、北星学園大学に脅迫状が届きました。この大学では、朝日新聞の従軍慰安婦報道に関わっていた元朝日新聞の記者が非常勤講師を務めています。
5月29日と7月28日に脅迫状が届いています。「非常勤講師を辞めさせなければ、天誅として学生を痛めつける」といった内容でした。虫ピン数十本も同封されていたといいます。

その結果、大学側はその元記者を次年度以降は雇用しない考えを示しています。しかし、大学内では約20人の教授らが集会を開きました。「時期尚早。学内の意見を聞くべき」としていました。

さらには全国の弁護士たちが「北星学園大学への脅迫行為を告発する全国弁護士有志」として、容疑者不詳で札幌地検に威力業務妨害罪の疑いで刑事告発することになりました。
と同時に、言論と学問の自由に対する危機感を訴えています。

学問の自由は、憲法第23条で定められています。高校までは文部科学省の「学習指導要領」がありますが、大学はそれに類するものはありません。
どんな学問でも、政治的、あるいは宗教的な立場によって「真理」が変わる場合がありますが、国は学問上、何が「真理」なのかを押し付けることはないのです。

あらゆる権力から中立であるべき。それが学問の自由ですが、今回の京都大学は、公安警察の不当な捜査を批判しました。大学の自治を守ったことになります。
一方、北星学園大学は、何者かの脅迫に屈し、非常勤講師の立場を守ろうとしていません。脅迫の件とは無関係に契約すべきかどうかを判断すべきです。

大学当局は「学生に何をされるかわからない」という恐怖心を抱くことがあるでしょうが、むしろ、そうした問題にこそ、警察に依頼して捜査や警備を強化させることが求められるのではないでしょうか。
脅迫によって教える人が変わることこそ、学生にとって不幸です。また、前例となってしまえば、気に入らない内容を研究しているも者を「クビ」にさせる手段となってしまいます。

かつて、中華人民共和国の江沢民・前国家主席が早稲田大学で講演した際、大学側が出席者名簿を警察に提供していました。これに対して学生が提訴。勝訴しています。
大学側が学生のプライバシーを侵害した例としては前代未聞でした。

大学側は経営に必死なのはわかります。最近では、神戸夙川学院大学が2015年度から新入生の募集を停止。聖トマス大学は15年3月末で廃止となります。
静岡大学や東洋大学では16年度以降、法科大学院の募集を停止します。いずれも定員割れが続いていたことが影響しています。

安定な経営も、学生の安全確保も大切なことです。しかし、大学の生命線は学問の自由であり、自治なのです。

[ライター渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中]
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