関心が薄かった福島知事選挙 | NewsCafe

関心が薄かった福島知事選挙

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10月26日投開票の福島県知事選挙は、自民、公明、民主、社民などの与野党が「相乗り」をした前副知事の内堀雅雄氏が、他の5候補を引き離して、圧勝しました。
投票率は45.85%。過去最低だった前回の42.42%に次いで低い投票率でした。選挙戦の最中、何度か福島県内に取材で行きましたが、盛り上がりに欠けていたように思われます。
しかし、それは与党の三連敗を避けた結果なのです。

投票結果は次の通り。

内堀雅雄50前副知事490,384(支援)自民、公明、民主、維新、社民
熊坂義裕62元宮古市長129,455(支援)改革、共産
井戸川克隆68前双葉町長29,763
金子芳尚58建設会社社長25,516
伊関明子59コンビニ店長24,669
五十嵐義隆36牧師17,669

投票した人の65%ほどは内堀氏の名前を書いたことになります。得票率2位の熊坂氏は18%弱にとどまりました。

今回の福島県知事選挙は、7月の滋賀県知事選挙で自民、公明の候補が民主などが推した候補に敗れたために、安倍政権としては連敗ができない状況でした。
仮に負ければ、沖縄県知事選挙(10月30日告示、11月16日投開票)でも連敗が続く可能性がありました。
それを避けるため、当初、自民党福島県連が有力候補としていた日銀福島支店長の針村健氏(55)について党本部が難色を示しました。結果、出馬を断念。
与野党相乗り候補が誕生しました。

現職の佐藤雄平県知事は、除染廃棄物などを保管する中間貯蔵施設の受け入れを決めた後、不出馬を表明しました。そして、佐藤氏が後継候補となったのです。
旧自治省に入省後、大蔵省に出向。主計局の法規課課長補佐。さらに福島県生活環境部次長、企画調整部長を歴任。佐藤県政の8年間を支えてきました。

選挙戦中、何度か福島県内に行きました。いわき市内のある仮設住宅にも、知事選のポスターの掲示板がありましたが、貼ってあったのは6人の候補中3人でした。
この仮設住宅には誰ひとり、候補者は回ってきませんでした。ある有権者は「投票に行くかどうかを迷っています」と話していました。
「相乗り候補」誕生で、実質的に誰が当選するのかが暗示させているからです。
そうした違和感を示さないわけにもいきませんが、投票したところで、情勢が変わるわけではないといったところが本音だったようです。

しかも、実質的な争点がありませんでした。選挙前は中間貯蔵施設の受け入れについて、現職の佐藤雄平知事が国と交渉をしていました。
結局、受け入れることになりましたが、佐藤知事が立候補をすれば、その是非も問われたことでしょう。
しかし、佐藤知事が不出馬を表明したことで、有権者は意見表明ができなくなりました。

また、候補者すべてが県内の原発は廃炉との方針を打ち出していました。熊坂氏だけが、県外の原発についても言及したくらいで、大きな争点はありません。
福島県知事選挙であるために、それほど影響はなかったように思われます。この点についても、有権者が意見表明をする場でもなかったことになります。

とずれば、唯一の争点といってもいいのは、現職の佐藤知事の大枠での評価ということになります。
評価したというのであれば、佐藤知事の後継候補、内堀氏が有利になりますし、不評となれば、他の候補に票が流れ込みます。

東北大学大学院情報科学研究科の河村和徳樹准教授(政治意識論)の調査(被災東北三県と茨城県の各県の有権者1000人を抽出。回収率は43%)では、
東日本大震災発生後の知事の初動対応について、「かなり評価する」と「ある程度評価する」の回答は福島県は39.2%で、宮城県の78.1%や岩手県の67.6%から見ると、評価はされていないことがわかります。

一方で河北新報が選挙前の11、12日に、福島県の有権者に行った聞き取り調査(200人)では、佐藤県政について、「大いに評価する」「評価する」を合わせると59%となりました。
中間貯蔵施設受け入れ問題に道筋をつけたことが評価されたとみられています。

調査方法が違うために単純な比較はできませんが、福島県の有権者は佐藤知事に対して、「初期対応はまずかったものの、これまでの県政は評価すべき」との態度になったと思われます。

主だった争点がなかったことや現職知事への高評価が、後継候補の内堀氏に6割以上の得票率を与えた結果となりました。
その一方で、東北大学の調査では回収率が4割ほどででしたので、半数以上の「世論」が不透明です。
また、得票率も半数を超えませんでした。その意味では、福島県政への関心の度合いが大きいわけではありません。

選挙結果を受けて各党がコメントを発表しています。民主党県連の亀岡義尚幹事長が「内堀氏に県民の大きな期待が託された結果」とコメントしています。
また、公明党県本部の甚野源次郎代表が「内堀氏の政治手腕への期待が結果に表れた」と話していました。そんな悠長な結果とは思えません。
一方、新党改革の荒井広幸代表が「低い投票率となり、どの候補も県民の心をつかめていない実態を示している」とコメントしました。その内容通りだと私も感じています。

福島県の復興について、どのようなイニシアチブを取れるのでしょうか。与野党の対立点がなく、選ばれた内堀氏の手腕が試されます。
一方、熊坂氏も県政ではほぼ無名に近い候補でしたが、得票数のうち2割を占めることができました。今後、どのような県政へのスタンスを見せるのかも注目したいと思います。

また、そんな中で九州電力の川内原発が再稼働をします。薩摩川市議会の賛成採択を受けて、岩切秀雄市長が再稼働を同意。
「福島で起きた津波や地震、原発事故に対応するのは十分、100%と言っていいと私は信じている」と述べました。
万が一、事故が起きたとき、情報は行き届くのでしょうか?また避難ルートは確保できるのでしょうか。福島県が得た智慧は、他の原発立地地域をどのように立て直していくのでしょうか。

[ライター渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中]
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