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世界自殺予防デー

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9月10日は「世界自殺予防デー」です。WHOのレポート「自殺を予防する 世界の優先課題」が発行されました。世界の自殺に関する現状や対策などに関してまとめています。
WHOが「自殺は主要な公衆衛生上の問題」と位置づけていましたが、世界レポートの発行は初めてです。科学的根拠にもとづいた自殺対策を推進させるものになると思われます。
WHOのレポートは日本語版もあります。WHOのサイトや日本語版を作成した「自殺予防総合対策センター」のサイトからダウンロードすることができます。
世界で自殺が注目され始めたのは「いのちの大切さ」もさることながら、数的な問題が大きいのではないかと思われます。
レポートの「ごあいさつ」で、WHOの事務局長、マーガレット・チャン博士の言葉が掲載されています。「すべての自殺は悲劇です。自殺による死亡は80万人を越え、それぞれに死には多くの自殺企図が存在します。
親しい人の自殺は、長い時間が経っても、家族、友人、地域に打撃を与え、そのインパクトは計り知れません」と冒頭で述べています。
たしかに真実かもしれませんが、なぜ、残された者の立場を最初に言わなければならないのでしょうか。

私は自殺未遂者や自殺願望者を1998年以来、取材してきました。たまたまこの年から、日本では年間自殺者3万人になりましたが、現在は3万人を割り込んで、2万7千人台(警察庁調べ)になっています。
取材していた人が、その後、自殺やそれに限りなく近い事故で亡くなった人もいます。そうした人たちの声を聞いている私からすると、なぜ、当事者本人の立場を冒頭で代弁しないか?と思ってしまいます。

また「自殺は予防できます」とも述べています。これも多くの自殺を取材してきて思うのは、「予防できる自殺もある」というくらいのニュアンスではないかと思ってしまいます。
しかも科学的根拠に基づいた、という前提条件があります。取材する中で、自殺をしないで生きている人の中には、科学的根拠による対策があったから、というよりは、
周囲の主観的な努力があったから、ということも少なくはありません。

もちろん、各国の公衆衛生の担当者に向けて書かれたものでしょうから、「自殺は予防できます」という前提がなければ、自殺に関する取り組みをするモチベーションが高まらないでしょうし、
このレポートを作成するのは、各国の政治家を説得し、予算獲得をするための手段でもあるでしょう。その意味では、そうした表現はしかたがないのかもしれません。

さて、レポートでは、世界では80万人以上が自殺で亡くなっているという。国連加盟国でも自殺統計がない国が多くありますので、実際には100万人近いのかもしれません。
また自殺をどの機関が判定するのかも違います。日本でも厚生労働省の人口動態統計と警察庁の自殺統計が存在します。また、日本では、死因究明制度がまだまだ不十分です。
そのため、当初は自殺を判断されたものの、遺族の希望で解剖をした結果、殺されたことがわかったりします。あるいは、不審死として片付けられている中には自殺もあったりします。
日本だけでも統計上のブレがあります。

また、このレポートの前提には、自殺企図の定義がされています。この言葉には、主観的に自殺の意図がなく、非致死的な自傷行為をも含めるということです。
2000年頃から、若者の間では「生きるための自傷」と「自殺未遂としての自傷」をわけている人たちがいました。
今でも「自傷は死ぬためではなく、生きるためです」と話すのは、中高生や大学生ばかりではなく、社会人にもいたりします。WHOは「生きるための自傷」も「自殺企図」としています。

それには理由があります。「自殺の意図のない自傷行為の結果として死に至る事例や、当初は自殺の意図にもとづく自殺企図であったが、
もはや死を望んでいないまま死に至る事例」も自殺死亡に含まれるからとしています。私が取材して、のちに死亡した人の中には、自傷行為をしようとして、結果として亡くなったという人が複数いました。
この定義はそれらを反映していることになります。

取材した中には「俺は生きづらいし、自傷的な行動はするが、自殺はしない」と言っていた人も、「いつか自殺をしたい」と言っていた人も、自殺で亡くなっています。
ただ、なかには周囲の人からすると「サインを気がつかなかった」と話していたりします。婚約者が自殺した理由がわからないと一年ほど、婚約者の友人や会社の人たちに話を聞き、
何があったのか?サインがあったのか?と聞いていた人がいましたが、周囲はまったく気がつかなかったし、そうした気配さえ感じられなかったのです。

このレポートの「自殺に関する俗説」の中に、「ほとんどの自殺は予告なく突然起こる」というものがあり、「多くの自殺には言葉か行動による事前の警告サインが先行する。
もちろん、そのようなサインがないままに起こる自殺もある。しかし警告サインが何であるかを理解し、用心することは重要である」と俗説を修正しています。
婚約者の自殺は「サインのないまま」起きたのです。もちろん、こうした例は、私の取材した範囲では稀です。取材して、のちに自殺をした人たちの8割は、亡くなる数日前の範囲で予告しています。

日本では2006年に自殺対策基本法が成立しました。その後、一旦、自殺は増えましたが、4年連続で減少しています。
特に中高年の男性の自殺が減っています。これは、グレーゾーン金利や借金総額の規制をしたことが大きい。
また、法律ができたことで各地の対策に法的および予算的な裏付けができたためでもあるでしょう。景気回復も後押ししたのかもしれません。

また、大きな震災が起きると自殺者が経るとも言われていますが、東日本大震災以後も減り続けてします。
しかし、震災後5年経つと、もとに戻るとも言われています。若者の自殺の増加傾向です。その意味では、自殺のリスクは高まっている時期ではあるかもしれません。


[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中]
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