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フリーライターであり続けるために必要なこと

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朝日新聞デジタルを読んでいて、一つ気になる記事を見つけました。写真家の小林紀晴さんの連載「写真のよろこびと哀しみ」です。小林さんは「ASIAN JAPANESE」(情報センター出版局、現在は新潮社で文庫化、1995年4月)でデビューしました。アジア、特にインドをさまよいながら、自分探しをしている若者を描いたものでした。

小林さんは双子です。兄は小林キユウさんで同じく写真家です。実は、キユウさんは、私の新聞社時代の先輩なのです。配属先では隣の席でした。支局の隣の部屋で住んでいて、時間があるとキチンカレーを振る舞ってくれました。そんなキユウさんも新聞社を辞めて、東京で暮らす地方出身者を取り上げた「Tokyo omninus 一人で来た東京」(リトル・モア、1998年4月出版)でデビューしました。

2人は一卵性のために顔はまったく同じ。感性も似ているためか、撮っている写真もどこか似ている気がします。「同日人物で、仕事によって名前を変えている」と思っている編集者もいるほどです。

さて、弟の小林紀晴さんの連載11回目(6月18日)は「カメラマンであり続けること」との表題で、こんなことを書いています。

フリーになったばかりの20数年前のことだが50歳代のカメラマンの方から、こんなことを言われた。
「カメラマンになるのは簡単なことだよ。資格も何もいらないのだからカメラマンだと宣言すれば、誰でも今日からカメラマンだ。でも難しいことがひとつだけある。なんだと思う?」
わからなかった。
「カメラマンであり続けること」

私も同じようなことを言われました。ライターになるには、ライターと書いてある名刺があればなれる。しかし、ライターであり続けることが難しい。これは、フリーの世界に飛び込む者は一度は言われるんだろうと思った。

好きなものを書きたい。それはフリーライターをするものはみんなそう思う。しかし、好きなものだけで仕事になるのならば誰も苦労しない。好きな仕事をするために、お金になる仕事をして続けているのがほとんどです。ごく少数の"売れる者"であっても、好きな仕事だけというのは成り立たない。有名作家でも、無署名の雑誌記事を書いていたりしています。

金になる仕事といっても、ライター以外の仕事もあります。しかし、フリーライターになりたての頃、ある編集者に「バイトをするのもいいが、ライターなら、ライターのバイトをしろ。そのほうが自由に動ける」と言われました。つまり、コンビニなどでバイトをすれば、シフトが組まれて自由に動けない。しかし、ライターのバイトであれば、シフトが組まれるよりも動けるという考えだったのです。

たしかにその考えは一理ある。しかし、ライターの仕事は、どこまでが自腹なのかははっきりしない。なかには経費がでないこともあります。しかも、「きょうの仕事」の報酬がいつ支払われるのかは曖昧だ。その一方で、シフトが組まれているバイトの場合は、「きょうの仕事」は、その月の給与になります。器用でないと、ライターをすればするほど貧乏になる構図なのです。

さらに言えば、小林さんの連載(13回目、7月29日)にもあるように、「人を介すれば介するほどリスクが高まる」ことがあります。つまり、報酬が支払われない、あるいは低料金であることだ。私もフリーになりたてのころ、人を介した仕事で報酬が支払われないということがありました。結局、仲介してくれた人が交渉をしてれたので、支払われましたが、こうしたトラブルがあるのがこの世界です。ただ、小林さんほどの名前がある写真家でも、同じようなことがあるとは思ってもみませんでした。

小林さんは「制作会社がどうかつぶれませんように」とも書いていたが、つぶれてしまえば仕事がお金にならなりません。私はそうした制作会社が倒産したことで、支払われない報酬があった経験があるために、他人事ではないと思いました。

最近、ライターの先輩が介護の仕事に就きました。「ライターを廃業した」といいます。しかし、先輩は「廃業」してから本を2冊上梓しています。好きなものを書くために、ライターよりも安定している仕事をしているのです。そういえば、同じ年代のライターでも、塾の講師をしたり、コンビニでバイトしたりしていたりする。「書く」という仕事を成り立たせるために、安定したお金をどうやって得るかを考えなければいけない。写真家の小林さんの連載を読んでいて、仕事を成り立たせるシビアな面を考えてしまいました。

[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中]
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