震災から二度目の春 | NewsCafe

震災から二度目の春

社会 ニュース
東日本大震災から一年が過ぎ、2度目の春がやってきました。被災地では桜の季節となり、もうすぐ満開となります。
各学校でも入学式が開かれ、新生活を送る子ども達の姿を見ることができます。そして、月命日となる「11日」。今回もこの日を被災地で迎えることになりました。一年を過ぎ、取材のペースを以前よりも落とそうとは思っていたのですが、まだ、ペースが落ち着かない日々が続きます。

今回は、私も関わりがある、一般社団法人「Live on」の代表、尾角光美さん(28)とともに訪れました。Live onが作成した冊子「大切な人をなくしたあなたへ」(A5判、全64ページ)を石巻市の保健師さんに届けたのです。内容は、大切な人を失った人のほか、行方不明の人がいる場合や、周囲の人が苦しんでいる場合のことも記されています。それを被災者に配ることになったのです。

この中には、「大切なひとをなくした人のための権利条約」(2011年、Live on 暫定版)が掲載されています。

第1条 悲しんでいい 落ち込んでいい
第2条 自分を許していい
第3条 考えない、思い出さないときもいい
第4条 自分を大切に
第5条 助けてもらうこと
第6条 みんなちがって、それぞれにいい
第7条 自分の人生を歩んでいい

「震災直後から頑張れ、頑張ろうが繰り返されていました。頑張れないときや向き合えないときをも許せるように、認められるようにと思って、この条約を作りました。人は悲しみを比較をすることがあります。遺族は、どっちが辛いとか、誰を亡くしたとか、亡くした理由など比較され、傷つくことがあります。条約の中にある、みんなそれぞれちがうということを知ることで理解の助けになります。自分のことを強く責める人がいます。それはいいことでも悪いことでもありません。亡くなった人が、その人にとって大切だったということです。自責の念も、亡くなった人との絆を感じるプロセスでもあるのです」(尾角さん)

保健師さんがこの冊子を入手したには、お寺が主催する講演会に参加した時でした。ある檀家さんから冊子をもらったといいます。Live onは宗派を問わずお寺と協力し、この冊子を配っていました。その結果、間接的に保健師さんに届いたのです。市の保健師さんも何かしら被災している方ばかりです。家族を亡くした人はいないですが、家族同然の人が亡くなった人もいます。そのため、保健師さん自身が、この冊子を丁寧に読み、元気づけられたということです。

ある保健師さんはこう話しました。

「私自身、大切な人を亡くしましたし、大事な場所や時間をなくしました。もちろん、冊子を読みたくないときもあります。文字だけでなく、挿絵だけを見ることもあります。どこを読むかは、そのときのタイミング次第です。でも、最初は、冊子を被災者の人たちに届けることは考えませんでした。同じ職場の人に言われて、届けよう!と思ったのです」

保健師さんたちは通常業務のほかに震災業務を行なっています。新生児訪問や健診で母親に会う機会があります。震災でお子さんを亡くした人もいます。行方不明の場合には、まだ死亡届を出していない人もいるといいます。その事情を知っている保健師さんは、健診の案内を送付しないようにしていますが、ときどき、間違って送ってしまうこともあるそうです。そんなときは「傷つけてしまった」と思い、後悔してしまう日常的に繰り返されています。

東京のメディアを見ていると、被災地の復興の足音を感じさせるニュースが多くなっています。それはそれで正しい情報です。しかし、地元紙の社会面では、復興のレールに乗れない人たち、まだ死を乗り越えられない人たちの話題が多く載っています。それだけ温度差を感じることがあります。

今回の取材でも児童70人が死亡、4人行方不明となっている大川小の遺族の方々の話を聞きました。継続取材しているのですが、まだまだ子どもの死を受け入れられない人もいます。「子どもが亡くなったのは夢のようだ」と話す人もいました。死を受け入れるのは、それぞれのペースがあります。

なお、Live onは「母の日プロジェクト」( http://live-on.me/mother/index.html )として、母親を病気や事故、自殺、災害でなくした人を対象に、手紙や手記、詩、絵などを募集しています。締め切りは4月20日。

[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中]
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