『中村雅俊芸能生活50周年記念公演』が6月2日から明治座で連日開催中だ。昭和歌謡音楽劇とコンサートの二部構成で、デビュー以来俳優と歌手の両輪で活躍している中村雅俊の世界を堪能できる。
第1部の昭和歌謡音楽劇『どこへ時が流れても~俺たちのジュークボックス~』は、中村の故郷である宮城県の女川町をモデルにした同県の港町にある「スターリバー・カフェ」が舞台。東日本大震災によって流された後、中村扮する主人公・星川誠が再建したカフェという設定。登場人物たちの心情と昭和歌謡の名曲をフィットさせながら、笑って泣けるハートフルコメディだ。「どこへ時が流れても」というタイトルは、2017年に中村が発表したシングルの曲名が由来になっている。「俺たちのジュークボックス」は、かつて中村が主演した『俺たちの旅』(1975~76年)などの青春ドラマを彷彿させる。
主な共演者はコロッケ、久本雅美、林翔太、土生瑞穂、小川菜摘、松田悟志、玉野和紀、そして特別出演の田中美佐子。中村と過去に名作ドラマで共演した二人の存在も魅力的だ。小川菜摘はデビュー作が『ゆうひが丘の総理大臣』(1978~79年)で、中村扮する教師“ソーリ”の生徒役。中村とはこの時以来の共演で、第2部のライブではその主題歌「時代遅れの恋人たち」に華を添えている。田中美佐子は『結婚の理想と現実』(1991年)『しあわせの決断』(1992年)で中村と夫婦役だった。
公演期間が終盤に入った今、中村に本公演について聞いたところ、「公演が始まってから回を重ねてくると慣れてきて、ムダなアドリブを言ったりしちゃうこともあるんですけど、この音楽劇はそういう意味では慣れてないというか、役者もスタッフもより良いものを作ろうっていう意識がすごく強いんです。これは今までに無かった稀有な経験でびっくりしましたね。共演の皆さんには頭が下がりますし、このキャストでやることができて良かったって感謝してます」とのこと。
第2部は『MASATOSHI NAKAMURA LIVE -look back with smile , look ahead with pride.-』と題されたライブステージ。中村自身が構成を手がけており、ライブで披露する全ての曲は、5月にリリースされたファン投票の上位曲と自作曲からなるCD4枚組のオールタイムベスト盤『SONGS~Masatoshi Nakamura 50th Anniversary All Time Best~』にも収録されている。ステージで中村のパフォーマンスを支えるのは、約40年間にわたってライブのサポートやレコーディングのアレンジなどで中村の音楽活動と共に歩んでいる大塚修司を中心にした三人のミュージシャンたちだ。
昼夜2回公演の6月15日は、中村にも知らされていない本公演初のサプライズデーだった。昼の部はライブが佳境を迎えた頃、場内に突然「雅俊さん、雅俊さん」と何度も中村を呼ぶ声が聞こえてきた。不思議そうな表情で返事を返す中村。その声の主が小日向文世とわかった瞬間、客席からどよめきと拍手が起こった。小日向は中村が『俺たちの旅』の出演当時、一年ほど中村のコンサートスタッフとして入り、付き人もつとめた。青春を共に過ごした間柄だ。「涙が出てくるよ……誰かと思ってさぁ……」と驚きと感無量といった様子の中村。スクリーンに映る当時の写真を見ながら思い出トークの後、「一緒に歌おうよ」という中村の提案で「いつか街で会ったなら」(1975年/ドラマ『俺たちの勲章』挿入歌)を小日向と共に歌った。
夜の部ではコロッケが青春ドラマ『俺たちの旅』の中村に憧れ、ドラマの衣裳と同じ服を買ったエピソードを語った後、「『俺たちの旅』のことはこの方にききたいと思います……田中健さんです!」と紹介。拍手の中、このドラマでオメダこと中谷隆夫役を演じた田中健がステージに登場。「来るなら言ってよ~」と驚く中村。「来られて嬉しいです」と田中が言えば、「俺も嬉しいよ」と返す中村。当時は撮影が終わった後、毎晩飲んでいたことなどのエピソードを語った後、主題歌「俺たちの旅」をコロッケも交えた三人で歌唱。公演後、サプライズについて中村は「小日向も健ちゃん(田中健)もスケジュール的に観に来られないって聞いていたんで驚きましたね。小日向も旧い付き合いなんですけど、最初は誰の声なのか、どこにいるのかもわからなくて、小日向が花道を歩いてきた姿を見ただけで、ウルッときちゃいました。でもお客さんから見られているので涙をこらえました」と語った。