『すべての幸運を⼿にした男(The Man Who Had All the Luck)』は世界を代表する劇作家アーサー・ミラーによる戯曲で、1944年ニューヨークにて世界初演、以降何度も上演されているアーサーミラー初期の名作として名⾼い戯曲。本作の主⼈公デイヴィッド・ビーブスの⼈⽣には次々と思いがけない幸運が訪れる。まるで「幸運そのもの」のような存在でどんな困難にも打ち勝ち、失敗することがないかのように思えるデイヴィッドが、その幸運が続くうちにそのことに対して不安を感じ始めていく。運命と⼈間の意志はどのように相互作⽤するのか。構成や登場⼈物の成⻑に寓話のような構造を取り⼊れながら、ミラーらしい普遍的な⼈間ドラマが描かれる。
演出は、『死と⼄⼥』(アリエル・ドーフマン)の世界初演でローレンス・オリヴィエ賞最優秀作品賞を受賞、イギリスの名だたる劇場で⻑きに渡り活躍を続けるリンゼイ・ポズナー氏。ドミニク・ウエスト主演『橋からの眺め(AView from the Bridge)』をはじめ、数々の名優たちを演出している。⽇本での演出は、『⼗⼆⼈の怒れる男』、『みんな我が⼦』に続き3作⽬。戯曲を丁寧に分析し、登場⼈物やシーンをしっかりと⽴ち上げていくポズナー氏は俳優たちからの信頼も厚く、イギリス演劇界の第⼀線で活躍する名匠だ。
東京で演出を⼿がけるのは今回で3回⽬となりますが、本当に楽しみにしています。⽇本の観客の皆さんが、アーサー・ミラーの作品に深い関⼼を持っていらっしゃると思いますので、なおさら楽しみでなりません。『すべての幸運を⼿にした男(The Man Who Had All the Luck)』はミラーの初期の作品ですが、家族関係の⼒学や登場⼈物たちが直⾯する道徳的な葛藤の描き⽅には、ミラーという劇作家の成熟した名作群の芽⽣えをすでに感じることができます。そして他のすべての作品と同様に、ミラーは個⼈的な問題だけでなく、社会全体や政治の在り⽅にも⽬を向けています。すでに素晴らしい才能の持ち主である如恵留さんともお会いして、この作品に取り組み始めることができたのも幸運でした。初対⾯からすぐに意気投合できたことからも、このコラボレーションが実り多く、楽しいものになることは間違いないと感じています。⽇本の演劇ファンの皆さんにとって、『すべての幸運を⼿にした男』が、とてもスリリングで引き込まれるような舞台体験となり、ご⾃⾝の⼈⽣とも深く重なるものを感じていただけるのではないかと期待しています。