現在放送中のNHK連続テレビ小説『あんぱん』にて、ヒロイン・のぶ(今田美桜)の夫となった柳井嵩役を演じている北村匠海。嵩はどこか自信なさげで不器用なところがあり、だからこそ視聴者が感情移入して応援したくなるようなキャラクターになっているが、北村はそんな嵩をどのように表現しているのか。本記事では、彼のこれまでのキャリアを振り返りながら、今作で見せている繊細な芝居を掘り下げてみたい。
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北村の出演作は実に多岐に渡るが、その中でも代表作の1つだと言えるのが、大ヒットを記録した実写映画『東京リベンジャーズ』シリーズだろう。同作では、大切な存在を救うため高校時代に何度もタイムリープを繰り返し、ケンカは弱いが、ド根性で相手に立ち向かっていく主人公・タケミチを熱演。身体的な強さに頼らず心で動く主人公像を印象づけた。また、今年公開の映画『悪い夏』では、公務員として真面目に生きていたが、気弱な性格ゆえに犯罪に巻き込まれていく男の姿を渾身の力で体現している。北村はその卓越した演技力で、“弱さ”を前提としたキャラクターを説得力のある人間として成立させることに長けている印象だ。
そんな北村が現在出演する『あんぱん』は、やなせたかしと暢の夫婦をモデルに、何者でもなかった2人があらゆる荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した『アンパンマン』にたどり着くまでを描いた愛と勇気の物語。北村演じる嵩は、明るく行動的なのぶとは対照的な性格で、自分に自信がなく、どこか影のある存在として描かれている。しかし、傷ついた経験があるからこそ、人の痛みに寄り添える心の優しさも持ち合わせている複雑な役どころだ。北村はそんな嵩の繊細な胸の内を、絶妙なバランスの演技で表現している。
作中でもとりわけ印象的だったのが、弟・千尋(中沢元紀)との衝突のシーン。劣等感を抱えていた嵩が感情を爆発させる姿には、抑えきれない心の痛みがにじんでいた。一方、のぶとの関係性を描いたシーンでは、結婚のお祝い会の場面が特に心に残る。2人で宴席を抜け出し、星空を見上げながら、のぶは、「うち、嵩と会えて、ほんまによかった」と思いを告げる。嵩はそんなのぶを優しく抱きしめ、口づけを交わすのだった。2人の愛が成就するロマンチックなシーンに、SNSでは、「あんぱん史上最高に幸せ回」「北村匠海さんの演技力に脱帽」「にやけっぱなし」などの声があがっており、ごく自然なやりとりの中で、嵩ののぶに対する思いがまっすぐ伝わってくるような演技が視聴者の心をぐっと掴んだのだろう。
今作での北村の芝居は、これまで演じてきた“脆さを抱えるキャラクター”たちの延長線上にありながらも、より成熟した表現として昇華されている印象だ。『あんぱん』の物語が進むにつれ、嵩がどのように自分を受け入れていくのか。その過程を見守ると共に、北村の演技にも引き続き注目したい。