日々が飛ぶように過ぎていくなか、自分のあり方に漠然と迷う40代50代。まるでトンネルのように横たわる五里霧中ですが、そんななか「ほんのちょっとしたトライ」で自分のあり方を捉えなおすには、「最初の一歩」に何をしてみればいいのでしょうか。
ライター野添ちかこがオトナサローネ読者にインタビューを行い、リアルな女性の人生をお届けする本シリーズ。今回は、責任ある仕事でプレッシャーを感じ始めた43歳のワカナさんが、あることを始めて生まれた、心の余裕について、ご紹介します。
◾️ワカナさん
石川県在住、43歳の会社員。41歳の夫、小学3年の息子と3人暮らし
【私を変える小さなトライ】
43歳、希望の部署に配属されたはずが…喜びは一瞬で打ち砕かれて
この春、希望していた部署への異動が決まり、ワカナさんは喜びにあふれていました。これまでの努力が実を結び、実力を評価されての抜擢。まさに新たな門出のはずでした。
しかし、待ち受けていた現実は、理想とはほど遠いものでした。
前の職場は、専門性の高いメンバーがそろい、困ったときには助け合える、風通しのよい環境でした。それに比べ、新しい職場は雰囲気も人間関係も大きく異なり、仕事への姿勢や能力にもバラつきがあって、ワカナさんはそのギャップに戸惑いました。
「どうやって、まだ関係が構築できていない同僚たちと仕事を進めていけばいいのか……」
そう考えるだけで、プレッシャーと孤独感に押しつぶされそうになり、まるで崖の下に突き落とされたような感覚に襲われたといいます。
さらに家庭では、ちょうど夫の仕事が多忙を極め、話を聞いてくれる余裕がない時期でした。子どもも手が離れつつあり、ますます孤独を感じるようになっていったのです。
25年のブランク。「私、まだピアノが弾けたんだ」
気持ちのやり場を探していたワカナさんは、ある日ふと、家でできることはないかと考えました。そこで思い出したのが、6年前、息子のために購入した電子ピアノ。結局ほとんど使われることなく、部屋の片隅に置かれたままになっていたのです。
実はワカナさん、幼稚園から高校卒業までずっとピアノを習っていました。ただ、最後に鍵盤に触れたのはもう25年も前のこと。すっかり弾き方を忘れていると思っていましたが、意外なほど楽譜は読めるし、指も自然に動いてくれました。
「若い頃はただ一生懸命に弾いていたけれど、今は曲そのものの美しさに感動しながら、純粋に楽しんで弾けるようになっていて……」
ワカナさんにとって、ピアノは緊張をほぐし、自分を取り戻せる大切な時間となりました。
「高校時代は音大も進路に考えていたほど音楽が好きで、指に血がにじむまで練習していたな……」
そんな記憶もよみがえり、心がじんわり温かくなったといいます。
「音楽ってこんなに楽しかったんだ」
最初は、昔よく歌っていた曲の楽譜を買ってきて弾いてみました。音大を卒業したシンガーソングライターの友人が演奏したピアノ曲にも挑戦しました。
「学生時代と比べたら、下手になっているかもしれない。でも、少しずつ弾ける曲が増えていって……もう楽しくて楽しくて、しょうがないんです」とワカナさんは笑います。
仕事が休みの日には、ピアノに没頭し、気づけば1時間、2時間があっという間に過ぎていたことも。一人の時間には、「この時間は私だけの、自由に使えるごほうびなんだ」と感じて、心から嬉しくなったそうです。
40代になって再び始めたピアノは、若い頃とは違い、気負わずに楽しめる趣味になっていました。
「音楽って、こんなに楽しかったっけ」
久しぶりに心が震える瞬間でした。
本編では、仕事の重責でストレスを感じていたワカナさんが、ピアノを始め、音楽に触れる楽しさを思い出したお話をお届けしました。
▶▶「さらに新しい世界へ!『40代は赤ちゃんですよ』90代も通う習い事で見つけた、“夢中になれる自分”の育て方」
では、ピアノに加えてもう一つの習い事に挑戦したことで訪れた、ワカナさんの心と人生の変化について、お届けします。