「共謀罪」の趣旨を明確に答弁せよ | NewsCafe

「共謀罪」の趣旨を明確に答弁せよ

社会 コラム
テロ等準備罪、いわゆる共謀罪を新設する法案が衆議院本会議で、自民、公明、維新の賛成多数で可決しました。社民、自由は欠席。民進、共産は反対票を投じました。これで法案は参議院に送られます。

同種の法案を巡っては、過去に3回廃案になっています。安保法ほどは国民の関心は高くありませんが、内心の自由が保障されるのかどうか、また、一般国民の権利を制限するのではないかと疑問の声も出ています。

政府はもともと「共謀罪」と名づけていましたが、「テロ等準備罪」と名前を変えて、法案を提出しました。懲役4年以上の重大犯罪を対象に、計画・準備段階から処罰が可能になります。二人以上の「組織的犯罪集団」が犯罪に同意し、そのうち一人でも下見などの準備行為があれば、計画した全員が処罰されます。

もともと対象犯罪は676でしたが、修正したものは277に絞ったのです。ただし、05年の法案基準では316になります。そうした中、メディアの伝え方も変わって来ています。NHKや毎日新聞、日経新聞は<「共謀罪」の構成要件を改めて「テロ等準備罪」を新設する法案>として、TBSは、<共謀罪の構成要件を厳しくしたテロ等準備罪を新設する組織犯罪処罰法改正案>、読売新聞は<テロ等準備罪の創設を柱とする組織犯罪処罰法改正案>と伝えています。

一方、朝日新聞や東京新聞は<「共謀罪」の趣旨を含む組織的犯罪処罰法改正案>と報道しています。 メディアの伝え方はいくつかのパターンがあります。

一つは、テロ等準備罪になったことを主に伝えている例です。NHKが代表的ですが、読売は共謀罪という名前そのものを使っていません。また、TBSのように、共謀罪よりも「テロ等準備罪」は構成要件が厳しいというものです。たしかに対象犯罪が絞られました。

そして、実際には共謀罪だ、ということを強調しているパターンがあります。朝日や東京です。対象犯罪は絞られましたが、本質的には変わっていないことを強調しています。

この法案審議では様々な論点がありました。「通常の社会生活を送っている方々は捜査の対象にならない」と、盛山正仁法務副大臣が衆院法務委員会で答弁しました。たしかに、犯罪関連の法律ですので、「通常の社会生活を送っている」のなら、対象になりえません。

しかし、テロリストも「通常の社会生活を送っている」場合があります。また、テロリストが必ずしもテロ集団に入っているわけではないでしょう。イギリスのコンサート会場で爆発がありました。容疑者は単独犯と思われますが、IS(イスラム国)は犯行声明を出しています。

犯罪計画の同意があれば、今回の法案による取締りの対象です。しかし、ISが流したビデオメッセージに呼応しただけであれば、そこに指揮命令系統も役割分担も、具体的な計画も指示もありません。この形のテロであれば、この法案では防げません。

共謀を取り締まるためには、共謀を行なったメンバーの中からの密告がわかりやすいでしょう。また、何らかの計画が周辺に漏れてしまう場合もありますが、それはメールやラインの会話が漏れる、ということも一つです。しかし、通信傍受でもしなければ、なかなか漏れるものではありませんん。

通信傍受の対象はもともと薬物、重機、集団密航、組織的殺人でした。しかし、16年6月に公布された改正では、組織的な関与が疑われる爆発物使用、殺人、傷害、放火、誘拐、逮捕監禁、詐欺、窃盗、児童ポルノーの9類型が追加されました。これらの組織的犯罪であれば、通信傍受の対象です。

これ以外の場合は、どのように、計画の同意についての証拠を集めるのか。曖昧なままです。だからこそ、国連の特別報告者からプライバシーに関する懸念が出ています。

また、対象から外れた犯罪の中には、公務員によるものも少なくありません。看守者等による逃走援助(刑法101条)、税関職員によるあへん煙輸入等(同138条)、虚偽鑑定等(同171条)、虚偽告訴等(同172条)、特別公務員職権濫用(同194条)、特別公務員暴行陵虐(同195条)、受託収賄(同197条第1項)、紅葉文書毀損(同258条)。また政治家の行為に関しては、届出前の寄付等(政治資金規正法第23条)、偽りその他不正な行為による政党交付金受交付(同43条)。公職選挙法違反なども含みます。これらの権力犯罪はなぜ対象外になったのかは説明がありません。

国連人権理事会から任命された、プライバシー権に関する特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏は22日までに、プライバシーに関する権利と表現の自由への過度な制限につながるおそれがあるなどとして、安倍晋三首相あてに書簡を送っていました。理由としては、「組織的犯罪集団」や「計画」、「準備行為」の定義が曖昧で、対象犯罪が277と広く、テロや組織犯罪とは無関係なものが含まれます。さらに、法が恣意的に適用される危険があるとしています

この特別報告の制度については、私はやや疑念があります。まず、政府へのヒアリングが不足しているのではないかという点。批判的な内容を出すのであれば、当事者へのヒアリングは必須です。やりとりを見ていると、特別報告の意味を理解できず、特別報告での質問は、あらかじめヒアリングすべきことです。以前、JKビジネスを批判する特別報告がありました。このときもJKビジネスを批判する団体の意見は聞いていたものの、当事者にヒアリングしているようには見えませんでした。その意味では、特別報告のシステムは客観性に欠けるのではないかと思っています。

ただ、今回の指摘は、すでに国会でも質問されている内容が含まれています。政府側が曖昧な答弁に終始していたことをあらためて聞いているにすぎません。国際人権規約(自由権規定)を批准しているからといって、国連からの指摘は、場合によっては内政干渉です。ただし、条約を批准しているのなら、解釈宣言や留保をしていない限りでは、国連からの干渉を受けても仕方がない部分があります。ただ、反論をするのなら、子どもの喧嘩にならない反論をしてほしいものです。

いずれにせよ、法案の審議の場は、参議院に移ります。政府側にはきちんとした答弁を求めるとともに、法案は、国民の安心安全と国民の権利を勘案したときに、国民の権利を制限してまで、安心安全を守る価値がある、と趣旨をはっきりとしてほしいものです。はっきり趣旨を述べないまま、なんとなく、監視社会に突入してしまうことこそ、もっとも怖い展開になっていくのではないでしょうか。
[執筆者:渋井哲也]
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