退院後のフォローアップを【相模原福祉施設殺傷事件】 | NewsCafe

退院後のフォローアップを【相模原福祉施設殺傷事件】

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都心から電車で約一時間のところにJR相模湖駅があります。夏の時期は花火大会もあり、観光スポットですが、最近では、1日平均の乗車人数は3000人を割っている静かな場所です。この駅から車で10分ほどの距離に、知的障害者施設、神奈川県立「津久井やまゆり園」があります。7月26日午前2時半すぎ、刃物を持った植松聖容疑者(26)が施設に乱入し、19人を殺害、26人が重軽傷を負わせたのです。

 翌27日、現場となった「津久井やまゆり園」を訪れました。施設は県道515線沿線にあります。福祉施設の中には、駅や幹線道路から遠い場所、あるいは、周辺に民家がなないといった場合があります。しかし、「津久井やまゆり園」は駅から遠くなく、民家にも隣接しています。地域住民から身近な場所に施設があります。植松容疑者の自宅からも徒歩10分ほどです。そんな生活圏内で、戦後、最大の犠牲者を出した殺人事件を起こしたことになります。

 自宅は施設から見て、駅とは反対方向で、風景としては寂しくなる場所です。田園風景の中で、行き止まりの道のやや手前にあります。他の民家とも接しています。近所の人の話では、両親と生活をしていましたが、最近では一人で生活していたとのことです。挨拶する程度でしたが、好青年というイメージだったようです。時折、友人が訪ねてきていましたが、周囲に迷惑をかけるということはなかった、といいます。そのため、ニュースで事件を知ったときには「ギャップがあった」と話ていました。

 この事件では論点がたくさんありますが、処置入院について考えてみたいと思います。措置入院というのは、精神保健福祉法によるもので、自傷他害の恐れがある場合は、都道府県知事(政令市の場合は市長)の権限で入院させることができます。行政命令で本人の同意なしで入院させるのです。相模原市は政令市なので、市長の権限になります。

 この日、塩崎恭久厚労大臣や加山俊夫相模原市長らが「津久井やまゆり園」を視察し、献花をしました。塩崎大臣は施設の正門前で報道陣に対して「今回は大麻の使用についてのフォローアップができていなかったとの指摘もあります」などと言い、措置入院の経緯について適切だったのかどうか検証するとした。

 加山市長も報道陣に対応。「関係機関がそれぞれきちん対応していました。しかし手続き通りにしていれば、今回のような事件が起きない、というものではありません。措置入院のあり方について、今後、どうあるべきか、もう少し掘り下げて、どこに欠陥があったのか、厳密に検証していきたい。現行法では欠けている部分がある。国とも協議していきたい」と話していた。

 今回の場合、植松容疑者は、衆議院議長に、犯行予告とも受け取れる手紙を出しています。その後、2月19日、強制入院となりました。3月2日には措置入院を解除し、植松容疑者は退院します。指定された医師による判断を市長が追認し、解除の印をを押すのです。現行のシステムでは手続き通りに行われました。手続き上の瑕疵はありません。

 しかし、手続き通りに行ったとしても、今回のような事件は想定されている現行制度ではありません。植松容疑者は「医者を騙してでてきた」と周囲に漏らしているようです。その場合、自傷他害の恐れ(今回の場合、障害者を殺害恐れ)を隠して、退院をしたことになります。

 今回は「他害」でしたが、自傷または自殺企図の恐れがある場合、自治体によっては、一定の期間、退院患者を保健所や警察がフォローアップするという仕組みを作っています。退院後半年間は、再企図の可能性が高いと言われているためです。こうした仕組みを作った自治体では、再企図が減ったという話があります。自殺対策の一つ、自殺未遂者対策として行っているのです。

 自傷と他害は、似たような衝動性があることが指摘されています。過去の最高裁の調査では、重大な事件を起こした少年を対象にしたもので、事件を起こす前に自殺未遂をしていることが多いと指摘されています。大人でも同じことが指摘されています。秋葉原殺傷事件の加藤智大死刑囚も、事件を起こす前に、自殺をしようとしていました。植松容疑者は、自殺未遂の情報はありません。ただ、他害も自傷あるいは自殺企図と似たような衝動性と捉えると、自殺未遂者対策と同じように、退院後のフォローアップをしていく必要性があるのではないでしょうか。

[執筆者:渋井哲也]
《NewsCafeコラム》
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