ヘイトスピーチ議論 | NewsCafe

ヘイトスピーチ議論

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民族や国籍などを理由に憎悪や差別の感情表現を示す「ヘイトスピーチ」を巡って、20日、大阪市の橋下徹市長と、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の桜井誠会長が面会し、意見交換を行いました。
議論という議論にならず、怒号も飛び交う中で、30分の予定でしたが、10分弱で終わりました。
動画サイトで見ることもできますが、これでは議論というよりも口喧嘩という印象でした。

橋下市長はヘイトスピートを批判し、人権問題に関する審議会に市内で制限するための具体策を諮問しています。
また、在特会に対して「やめてもらえるなら対応してもいい」と述べてきました。これに対して在特会が9月に面会の申し入れし、実現しました。

面会は以下のように冒頭から議論にならない喧嘩腰でした。

桜井代表「いろいろと言いたいこともあるんですけれども、ヘイトスピーチについてお伺いできます?」
橋下市長「僕の意見を聞くんじゃなくて」
桜井代表「あんたが言い出したことだろ!」
橋下市長「『あんた』じゃねぇだろ」
桜井代表「『お前』でいいのか?じゃあ、あのね、まず、あなたがヘイトスピーチうんぬんと言い出したから…」

最初から桜井代表が橋下市長を「あんた」呼ばわりしたことで、橋下市長が議論をする気分が下がったのではないかと思わせました。
結局、橋下市長も「お前なあ」や「うるせえ、お前」と、「お前」という言葉を連呼します。これでは、相手の感情を逆なでするだけです。
この段階で、議論が成立せず、パフォーマンスが注目を浴びることになります。

もちろん、桜井代表がどこまで真面目に議論しようとしていたかも疑問です。橋下市長はもっと冷静に淡々と批判すべきだったのではないでしょうか。
翌21日、橋下市長は「彼らの宣伝に使われず、一方的に主張だけを述べさせないよう、応対の仕方や打ち切り方を考えて行ったつもりだ」
「あのような場で論理的に意見交換して解決するなんてありえない」と述べ、議論をするつもりはなかったことを明かしました。

お互いの主張がぶつかり合い、歩み寄りを見せることができない場合、見ている側としれば、どちらの主張がわかりやすいか、
どちらの言っていることが冷静なものかで考えたりするのではないでしょうか。あるいはどちらが誠実かも判断基準になります。
そうしたことを前提にすれば、桜井代表が「お前」と言ったり、乱暴な言葉遣いをしても、橋下市長は淡々と話をすべきだったのではないでしょうか。

乱暴な言い合いであれば、より乱暴な側が印象に残ります。橋下市長は日頃からそこまで丁寧に発言しているという印象ではありません。
パフォーマンスとして、あるいは一つの「ネタ」としてみると、面白い面会ではありました。
立場もありますし、プロレス的な議論になった場面では、乱暴になりきれない橋下市長のほうが、やや不利に見えました。

やはり、この面会で得をしたのは桜井代表だったのではないでしょうか。これまで認知度が高まりつつあったものの、首長と面会できるほどの力があったとは言えません。
しかし、今回の面会で十分に存在をアピールすることができました。
さらに、橋下市長が、なぜヘイトスピートがいけないのか?という十分で冷静な反論ができず、お互いが感情をむき出しにして終えたことで、この問題に「正しい結論」がないと一部に思わせました。

会場には桜井代表の近著が置かれていました。同作品は22日14時現在、オンライン書店大手のアマゾンでは、ベストセラーランキング1位となっていました。
近年では中国や韓国に対する批判本が売れるようになっていましたが、その代表格たる在特会のヘイトスピーチも社会問題化し、そして20日の橋下市長との面会による宣伝効果は絶大なものだったことでしょう。

ヘイトスピートを批判するために、より乱暴な表現をしてしまう。これでは橋下市長の主張を一般市民の理解は得られないではないでしょうか。
「どっちもどっちだ」と思う人が多いような気がします。
しかも、このタイミングで、在日韓国・朝鮮人らを対象にした特別永住者制度と、他の外国人と同じ制度に一本化する必要があるとの発言は、
まるで桜井代表が主張する「在日特権」を認めるかのようなものです。こうした認識にさせたという意味でも、桜井代表の存在感を見せつける面会となりました。

もちろん、私自身、在特会が主張する「在日特権」という考えには否定的です。
また、在日韓国・朝鮮人に対するヘイトスピーチにも賛同できません。しかし、ヘイトスピートを規制するために、新しい法規制を導入することには反対の立場です。
名誉毀損や脅迫罪など、現行法で対処可能だと思うことと、ヘイトスピートを広義に解釈ができれば、他国への批判(特に反戦運動や反基地運動など)も規制対象にもなりえます。
かといって、罰則なしの理念法では意味がありません。

行政がヘイトスピーチをどのように規制していくのか。
その意味では、今回の面会は一つのヒントを得られるのではないかと期待はありましたが、このような終わりかたでは今後、桜井代表と面会する首長は現れないでしょう。
その機会を失わせたという意味で、とても残念な結果となりました。

[ライター渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中]

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