気の抜けたビール | NewsCafe

気の抜けたビール

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日ハム首脳陣は笑いをこらえるのに苦労したのではないか。米大リーグ挑戦を表明しながらプロ野球日本ハムからドラフト1位指名された岩手、花巻東高の大谷翔平投手。9日岩手県奥州市内のホテルで記者会見し、日本ハム入りを表明した。「160キロ右腕」の大谷は、ドラフト会議の3日前の10月21日に大リーグ挑戦を公言。しかしドラフト会議で日本ハムからドラフト1位指名を受ける。直後は「自分の思いは変わらない」していたが、球団と交渉を重ねる中で気持ちが変化し、プロ野球入りを決断したと言う。

日本ハム栗山英樹監督も直々に面談し、一評論家として米国でのプレーを説明。日本とメジャーでの育成方法の違いや球団の手厚い育成方法についての説明をした。「米国で長く活躍するために、早く行った方がいいという考えはあった。しかし自分の気持ちはだんだん変わっていった」と記者会見での大谷投手。球団は前回交渉で、最高契約金やレンジャーズに移籍したダルビッシュ有投手がつけていた背番号11も提示していた。最上級の待遇で大谷投手の気持ちも揺らいだのか。「大リーグは各国からすごい選手が集まっている。そういう選手に負けたくない」と言葉や生活環境の適応への心配で両親や花巻東の監督は反対していたが、それを振り切ってのメジャー挑戦に眼を輝かせていた。しかしわずか50日弱で大きな青年の大きな夢は消えたことになった。

去年のドラフトで東海大菅野を指名したが契約には至らなかった。さらにダルビッシュはポスティングでメジャーへ。エースに去られ、さらに将来のエース候補を取り逃がした日ハム。それでも今回はメジャー行きを表明している選手をドラフトで指名するとは、勇気を通り越して無謀とも言える戦略に見えた。今シーズンは吉川が彗星のように出現しダルビッシュの穴を埋め、菅野を取り逃がした分は穴埋めしてくれた。しかし2年連続でエース候補を逃すとなると優勝候補のチームとしては大きな痛手となる。となると、かなりの確立で大谷投手の気持ちが変わる見込みがあったといえるのではないか。大谷の心変わりを「やっちゃ駄目」と批判したのは楽天の星野監督。地元東北の逸材だが、メジャー志望表明を受けて指名を断念した。同一リーグの日本ハムが一本釣りする形になり「こんなことをしていたら、ドラフトの意味がなくなる」と手厳しかった。状況を考えれば、ある程度の確約がなければ指名できる話ではなかっただろう。

ドラフト会議9日前に「巨人がダメなら米国へ!」と言ったのは東海大・菅野智之投手。昨年は日本ハムの1位指名を拒否。今年は巨人の単独指名となった。日ハムはいわばその意趣返しとも言える。巨人は同じ手口で内海、長野。メジャーを匂わせ単独指名を得た澤村と主力を裏口入学させている。巨人の専売特許を他球団が行いだすと、ドラフトが有名無実になる。そもそもドラフトはチームの戦力均衡を図り、リーグを盛り上げようという趣旨だ。しかし日本の現状はかけ離れている。毎年戦力が変化し、激しいバトルが繰り広げられるから、プロ野球は面白くなる。権力と金銭に物を言わせ戦力を整え、いつも決まったチームが上位では気の抜けたビールみたいに味気ない。プロ野球再生のためにも今回の大谷指名・入団をドラフトを見直す契機として欲しい。

[ビハインド・ザ・ゲーム/スポーツライター・鳴門怜央]
《NewsCafeコラム》
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