施設内虐待から児童福祉のあり方を考える | NewsCafe

施設内虐待から児童福祉のあり方を考える

社会 ニュース
厚生労働省の社会保障審議会児童部会社会的養護専門委員会で、虐待や両親の死別などを理由に児童養護施設や里親のもとで暮らしている子どもたちが、保護する立場の職員らから虐待された事例が報告されました。これまでも、施設内虐待はたびたび報告さえ、刑事事件になったケースもありました。親元で暮らす子どももそうですが、施設内や里親のもとでの虐待は、子どもがなかなか言えないのが現状です。

同委員会で公表されたのは2011年度は46件。被害者は85人になっています。暴力を伴う身体的虐待は37件で最多。暴言を繰り返す心理的虐待は6件、養育を放棄するネグレクトは2件、性的虐待が1件でした。性別では男子が59人、女子が26人。10~14歳が最も多い。15歳以上は20人、5~9歳が19人。4歳以下が6人でした。

施設内虐待では、例えば千葉県船橋市の児童養護施設では園児にけがをさせたとして、元園長が傷害罪に問われ、有罪が確定しています。この施設では児童相談所への匿名の電話から始まりました。殴られたり、刃物で脅されるというものでした。管理というよりは監視に近く、子ども達が怯えてくらしていた実態が明らかになりました。その後、入所している子どもたちが逃走するといった事態にまで発展したことで、大きな注目を浴びたのです。

しかし、社会問題になるケースはまれと言っていいでしょう。というのも、入所している子どもがもし告発すれば、他にいき場所がないのではないかと考えたり、もし虐待が証明されなければ、虐待がさらに強まるのではないかと思ったりします。また、取材などをしていてよく聞くのは、虐待する職員は、発覚前は周囲に信頼されており、「そんな人が虐待するはずがない」といったイメージでいることも多いというのです。そのため、一般家庭よりも発見が難しいのが現状です。

私が運営する虐待関連の電子掲示板にも時々、具体的な施設名をあげて、職員が虐待する実態が書き込まれています。一般家庭の場合は、虐待をする親以外に救いがある場合があります。しかし、施設内虐待の場合は、そうした救いがなく、行き場のない辛さ、悲しさ、怒りが伝わってきます。

厚生労働省は、これまでにも児童福祉施設内の虐待防止に関する通知を何度も出しています。同委員会の報告書「社会的養護体制の充実を図るための方策について」では、児童福祉施設の質と量をともに充実させることがうたわれています。その中で、「施設内虐待等に対する対応」が設けられています。

そこでは、「施設内虐待等を受けた子ども」が、都道府県や、都道府県の児童福祉審議会に届けることができるようにすること、施設内虐待等を発見した場合、職員等に都道府県への通告義務を課すこと、通告した職員などの秘密を保持すること、通告した職員らに対し、不利益取り扱いを禁止すること、施設への立入調査、質問、勧告、指導、業務停止などの処分を講ずること、などを提案しています。児童福祉法では、きちんと通告義務が課せられているのですが、あらためて施設内虐待に言及しているのです。

厚生労働省の「社会福祉施設等調査報告」によると、2002年以降、児童福祉施設に入所する児童の数が3万人を超えています。2010年10月現在で3万4215人が入所しています。過去5年間でも増減は繰り返しているものの、最多の人数になっています。しかし、小規模グループ形態がよいとされながらも、施設の数は伸び悩んでいるのが現状です。

私たちは福祉の充実を言う時、高齢者福祉に重点が置かれがちです。もちろん、高齢者福祉も、社会の持続可能性を考えれば重要です。だからといって、児童福祉が注目されなくてよいはずがありません。子どもたちを社会で見守る社会的養護の観点から、より充実した体制が望まれます。


[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材
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