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「あのとき逝ってしまえば」

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「生きなきゃ、って思うんだけど、仮設住宅での生活はストレスがたまる。だから、ときどき、あのとき(2011年3月11日の津波が襲って来たとき)、逝ってしまえばよかった、って考えることがあるんです」

こう話したのは、宮城県気仙沼市の仮設住宅に住む女性(54)です。自宅は漁港近くだったために流されてしまいましたが、家族は無事でした。しかし、母親は介護を必要とし、息子は障害を持っています。避難所でも仮設住宅でも、顔見知りが多いために、家族の事情は理解されている。それでも、気を遣った生活が続いているのです。他の仮設住宅とは違って、バリアリーに配慮がされているのですが、

「避難所で過ごすときも周囲の目は気にしていました。仮設住宅でもスロープやバリアフリーにするのもなかなか許可がおりませんでした」
と女性は言います。また、その仮設住宅が建ってる場所も津波がやってきた場所でもあり、「今度、津波がきたらどうしよう」という心配もあるようです。

私がその女性を訪ねたのは今年の9月初旬。震災から一年半が経って、仮設住宅の現状を取材するためでした。気仙沼市は震災取材でよく訪れていましたが、細かく見ることはなかったのです。もっとも大きい理由としては、国道45号線の小泉大橋が津波によって崩落したたために、迂回を余儀なくされていたから。一時は、大橋をまたぐJR気仙沼線も津波でやられてしまい、一時は流された民家があがっていました。

気仙沼市は2006年3月31日、唐桑半島上にあった唐桑町と合併しました。2009年には本吉町を編入しています。そのため、面積も広大です。北は陸前高田市に、南は南三陸町と接しています。いずれも震災で市街地のほとんどが被災した地域です。その三つの市町では陸前高田市を多く取材していたために、気仙沼市を素通りをすることも多くありました。港から約1キロにあるJR鹿折唐桑駅前に打ち上げられた巨大漁船付近にはよく訪れてたものの、他の地域はほとんど見ていませんでした。そのため、改めて見逃した地域を取材したのです。

気仙沼市の医療や福祉の基幹となる気仙沼市立病院は高台にあったために浸水はしませんでした。しかし、市内では地震や津波の被害だけでなく、大規模火災が2カ所発生するなど、救急外来は多忙を極めました。3月11日夜からは、東京消防庁などが支援に入るなど、連携ができました。

気仙沼市では震災前でも、一万人あたりの医師の数が13.06人(2009年)で、全国でも815位と、決して医療が充実している地域ではありませんでした。それが震災によって、医師不足が加速している状況です。私が今回取材した本吉地区は、医療機関は唯一、本吉病院だけです。そのため、様々な医療支援が入っていますが、それでも充実したとは言い切れない状況です。

東北地方の医師不足は震災で露呈したのです。本吉病院でも半年以上、常勤医がいませんでした。気仙沼市では医師不足解消のために、医学生を対象に月額最大25万円の奨学金を創設しました。奨学生は3人を予定し、医学部入学時に500万円。医師免許を取得したあと、奨学金を受けた期間よりも長く市立病院に勤務した場合は返済を免除するというものです。栗原市、登米市、南三陸町でも同様な奨学金制度も設けています。

こうした取り組みは長期的には効果があるのかもしれません。しかし、短期的に取り組まなければならない問題も多いはずです。冒頭の女性は、心がパンク寸前です。その意味では、心のケアが十分になされる必要があります。気仙沼市では仮設住宅に入居する人へサポート事業はしています。生活相談員と看護師のチームがケアにあたっています。3人が常駐しているだけで、入居者だけでなく、地区全体をカバーする必要があります。

取材などで話をすることで気がまぎれる人も多くいます。近所の人たちと明るい笑顔で話をすることで現状を乗り越えようとする人にも出会いました。しかし、近所の会合にも出てこず、閉じこもっている人もいます。たまたま私もそうした人と話すことができましたが、会話が長く続きませんでした。孤立しそうな人たちをNPOなどが訪問し、気にかけているのがやっとです。震災後の車上生活者(避難所に入れず、そのまま仮設住宅にも入らなかった人たち)を救ったのも民間の支援があったからこそです。十分な医療体制を整備しつつ、保健、福祉、心理などの専門職やNPOなどが活躍できる体制になってほしいと思います。そのためには、適切な復興予算の配分が望まれます。

(※写真は、気仙沼市本吉地区のJRの線路。津波にのまれ、現在は運行ができなず、路線バスが代行運転している)

[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中]
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