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やっぱりカッコイイ

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3月27日。12年ぶりの日本のグランド。今年は心機一転3番にすわり、新しいシーシーズンを迎えたイチロー。結果は5打席4安打、打点1。延長11回3点目をたたき出し、勝利にも貢献。新3番打者として十分すぎる役割を果たした。
「アメリカの試合とは違う。恐ろしい緊張感だった」と、里帰り試合を振り返った。それでも結果を残すところがイチローだ。「その瞬間を刻みたいという思いからだった。足を運んでくれた人と共有したかった」と試合の終了後ライトスタンドに手を振って応えた。なかなか見慣れないポーズだった。よほど嬉しく、達成感があったのだろう。149日前のことだった。

「20代前半の選手が多いこのチーム未来に、来年以降僕がいるべきでない、そして僕自身環境を変えて刺激を求めたい、という強い思いが芽生えた」と23日ヤンキースへのトレードが決まり、心情を吐露した。今年年俸1800万ドルの5年契約が切れるイチロー。昨年10年連続200本安打が途絶え、3割も割った。今年も0.261と満足な結果は残せてない。契約更新をめぐってチーム1の高額年俸者への風当たりは強い。イチローも交渉を保留していたようだ。この5年契約を結ぶ07年のときも、イチローの心は揺れていた。「自分も他人も納得できるのはヤンキースしかないのかな、と考えたりもしました」と契約後に打ち明けている。それでもマリナーズに残留したのは、球団筆頭オーナー山内溥任天堂元会長と親密な関係があったからと言われる。

10年連続200本安打の記録は、前人未到だしこれからも破られない大記録だろう。しかし野球はチームの勝利が第一で、個人の記録は2の次になる。この11年間、1年目は別としてリーグ2位が2回。リーグ優勝、ワールドシリーズにチームは絡むことは無かった。シアトルの片田舎に、ヒットを上手く打つ選手がいるぐらいの評価しかないのが現実。このことはイチロー自身がいちばん痛切に感じていたはずだ。メジャーは日本と違いチーム力の均衡化に力を注ぐ。ドラフト会議では最下位球団から指名できる完全ウエーバー制で、弱小球団は有望な若手を優先的に獲得する。2~3年もすると強くなる。万年最下位球団のレイズがこのところリーグ優勝などの実績を上げたのもそのドラフトのおかげと言われる。マリナーズも同じ条件だが、チームを仕切るGMの手腕が酷く、中途半端な補強、若手の放出等で弱体化させ、栄光に遠くなるばかり。今年も脱落。一人の天才が頑張ってもどうにもならない状況だった。

普段はクールに装うイチローだが、for the teamの気持ちは強い。

過去のWBC。06年は先頭に立ちチームを鼓舞し優勝につなげた。09年は絶不調の中で、最後に決勝の2点打を打ち優勝を手にした。そのときのイチローの喜びぶりから、チーム愛への熱い血が流れているのを感じた。常に勝利を追及する集団で自分を追い込むことで、勝利のために完全燃焼したいと言うのが本音だろう。現状では最高の環境の選択と言える。ヤンキースも今季1.6億円、来季以降の契約も白紙とお買い物。双方の利害が合致した。目指すはチャンピオンズリング。

それにしても移籍初打席初安打とは、やはりカッコイイ男だ。

[ビハインド・ザ・ゲーム/スポーツライター・鳴門怜央]
《NewsCafeコラム》
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