【第十一回:編集後記~Newsスナック】終電間際のラブストーリー | NewsCafe

【第十一回:編集後記~Newsスナック】終電間際のラブストーリー

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「東京では誰もがラブストーリーの主人公になる」

これは、大人気ドラマ『東京ラブストーリー』のキャッチコピーであるが、東京でなくても自分の恋愛についていえば、誰もが主人公になれるだろう。

図らずも赤の他人の恋愛ドラマの観客となることがある。
その機会が多い場所の一つが終電間際の改札周辺だ。

終電間際、お互いの路線の違うカップルが、ギリギリまで共に時間を過ごそうと、人目も憚らず、愛を囁き、抱き合ったり、またキスをしたりしている。電車通勤の方なら一度はこの現場を目撃したことがあるのではないだろうか。
極力、見ないようにはしているのだが、思わずチラっと目をやってしまうと、カップルと目があってしまったりして大変に気まずい思いをする。

先日の終電間際、ICカードにチャージしていると、券売機の真後ろの柱で、男女が抱き合っており、彼らの会話が聞こえてきた。

「俺、もう嫌だよ…我慢できないよ…」「私だってつらいけど、帰らなくちゃ。実家なんだから仕方ないじゃない。ね、我慢して」

振り返って、カップルを見てみると、男性の方が私から見て背を向けており、女性の方と目があってしまった。その瞬間、女性は私に微笑んだのである。
まるでベテランの舞台女優が観客に微笑むような余裕に満ちた微笑みであった。

終電間際の改札は彼女にとって自分の恋愛ドラマの舞台なのだろう。そして、私はその舞台の観客となってしまったようだ。
彼女の微笑みは堂々とした、本当に舞台度胸のある一流の女優のようだった。

改札周辺の恋愛ドラマにおいて、男性の多くが女性を抱きしめながらも周囲をキョロキョロとしている。

新人役者のように観客を必要以上に意識し、演技に集中できていない。ましてや観客に微笑みかけるような余裕はない。逆に睨みつけてしまうことがほとんどだ。とんだ大根役者である。

こんな大根役者ぶりだから男性は自分の恋愛ですら主人公にはなれない。
恋愛の主人公はいつだって女性なのだ。

恋愛ドラマを演じていた先ほどの女性が、その直後のホームで何事もなかったように携帯電話をいじっていた。女優から素の女性に戻っている。

楽屋を見るような気まずさから、違う車両に乗るべく私はホームを歩いた。

[編集後記~Newsスナック/NewsCafe編集長 長江勝尚]
《NewsCafeコラム》
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