【モデルプレス=2025/08/22】今田美桜がヒロインを務める連続テレビ小説「あんぱん」(NHK総合・毎週月~土あさ8時~ほか)の脚本を務める中園ミホ氏に、モデルプレスらがインタビュー。Vol.2となる本記事では、戦争を描く覚悟や思いを語ってもらった。【写真】今田美桜&北村匠海、夫婦役で密着◆連続テレビ小説「あんぱん」今作は、“アンパンマン”を生み出したやなせたかしと妻・暢の夫婦をモデルに、生きる意味も失っていた苦悩の日々と、それでも夢を忘れなかった2人が、“逆転しない正義”を体現した「アンパンマン」に辿り着くまでを描く愛と勇気の物語。主人公の柳井のぶを今田、のぶの幼なじみで、夫の柳井嵩を北村匠海が演じる。脚本は連続テレビ小説「花子とアン」(2014年度前期)、大河ドラマ「西郷どん」(2018年)などを手掛けた中園氏が務める。◆中園ミホ氏、戦争を描く覚悟・北村匠海への思い— 「花子とアン」で戦争を描いた上で、今回の「あんぱん」に活かされた部分などがあれば教えてください。中園: 「花子のアン」のときにいろいろな史料を読み、戦争は国が勝手に起こしてみんなが巻き込まれたという認識は違うと切実に思ったんです。それだけではないと。ただ、全国津々浦々に放送され、1日の始まりの空気を決めていくような朝ドラで戦争を描くことには賛否ありましたし、毎朝みなさん観てくださるのかしら、という恐れもありました。私にとってやなせたかしを描くことは戦争を描くということです。やなせさんはとても思想の強い方だったし、「チリンのすず」や「アンパンマン」などあらゆる作品にも反戦の思いが散りばめられています。“正義なんか簡単に信じちゃいけない”、“復讐をしても必ずそれは連鎖して続いていくもの”ということを、やなせさんは一生をかけて絵本やアニメ、漫画の中で描いていらした。今回、全130話の脚本を書き終えて改めて思いました。スタッフの中には戦争パートをしっかり描くことに反対の意見もありましたが、「そういう意見があるのは覚悟の上。私はやるぞ」と企画の段階から思っていました。— 今作では戦争シーンが丁寧に描かれていますが、特に、嵩たちが泣きながらゆで卵を殻ごと食べるシーンが印象的でした。あのような細かい描写はどのように考えられたのでしょうか?また、北村匠海さんの印象をお聞かせください。中園: 北村さんは本当に素晴らしくて、全身全霊で嵩を演じてくださいました。ゆで卵のシーンは、実は戦地で起きたことではなく、私が子どもの頃にラジオのニュースで聞いた話なんです。あるおばあちゃんの家にお腹を空かせた泥棒が入り、おばあちゃんが「お腹がすいてんだろう。うちには卵しか今ないけど」と、卵をゆでて出して差し出すと、最初は包丁を突きつけていた泥棒が泣きながら自首したと。きっと空腹ってそういうことなのだと思うのです。強く印象に残っていたので、倉崎(制作統括・倉崎憲氏)さんには最初の打ち合わせのときからお話していました。ただ、ゆで卵に殻ごとかぶりつく、あのシーンを見たときは、びっくりしました。俳優さんたちが自分の肉体ギリギリで演じてくださり、本当に頭が下がりました。彼らは絶食して臨んでくれ、演出はじめスタッフも頑張ってくれました。コンビニに行けば何でも買えてしまう時代に、みなさんどんどん痩せていくんです。だからこそ観ている方々にも伝わったんだと思います。放送前に「そんなに長く戦争を描いたら絶対視聴率下がるぞ」との声もありましたが、脚本家の責任の重さに内心ビビりながら、「でもやるんだ」と。その思いに役者やスタッフのみなさんが真摯に取り組んでくださったので、視聴者の方にも伝わったと思います。◆中園ミホ氏、蘭子(河合優実)&八木(妻夫木聡)には「脚本家の親心」— 今作は嵩とのぶの愛の物語ですが、付かず離れずの描写がすごく丁寧にされていました。慎重に2人の愛を紡いでいくことの難しさを感じた場所や、告白のシーンやプロポーズのシーンを書かれたときの心境をお聞かせください。中園: 私はどうしても2人の子ども時代から、戦争という大きなものを乗り越え、そこで一回価値観がガラッとひっくり返るような経験をすることを描きたかったんです。史実とは異なりドラマでは2人は早くから出会ってますから、結ばれないようにするのにはものすごい苦労しました。仲良しで、くらばあ役の浅田美代子さんに「何やってんの嵩は!」と言われましたが(笑)、「まだくっつけちゃいけないの」と言いながら書いていました。私が一番印象に残っているのは、のぶが「嵩の二倍、嵩のこと好き!」と言って自分から抱きつくシーンです。あれを観たときに訳が分からないくらい号泣してしまって。お二人の演技が素晴らしいのもそうですが、これまでのぶに辛い役を負わせていたので、やっと解放されて子どもの頃のような自由で天真爛漫なのぶに戻れたんだと感じ、映像で観て「良かったね、おめでとう」という思いになりました。—蘭子(河合優実)や八木(妻夫木聡)も今後が気になる存在ですが、後半戦はどのようなお気持ちで書かれたのでしょうか。中園: 蘭子と豪ちゃん(細田佳央太)を悲恋にしてしまったら、「なんで戦死させるんだ!」「まだ生きていて帰ってきてくれても良いから!」とすごく怒られたんです(笑)。それも2人の俳優さんの素晴らしい演技のおかげですが、なんとか蘭子を幸せにしてあげたいですね。八木さんは孤児たちを抱きしめたりして心優しい人ですが、孤独で。この人にも幸せになってほしいという脚本家の親心みたいなものがあります。◆中園ミホ氏、やなせたかしへの思い— やなせさんに対して特別な思いがある中園さんですが、脚本を書き終わって改めてやなせさんに対して思ったことや、印象が変わったことがあればお聞かせください。中園: 私の知っているやなせさんはもっと明るくて、声も大きい方でした。でも、北村さんがご自身の肉体を通して演じてくださったのを見て、「ひょっとしたらああいう人なんじゃないのかな?」と思えてきたんです。私の知っているやなせさんは、よそ行きの顔であって、子どもの前で明るく楽しそうな顔をなさっていたけど、本当のやなせさんって北村さんが演じてくださっているようなナイーブな方だったのではないかと今は思っています。また、「正義は逆転する」ということを描こうと思って書き始めたのですが、全130話を書いて、役者さんたちが魂を込めて演じてくださるのを見るとより一層その気持ちが強くなりました。あと、やっぱり他人事として考えちゃいけない。戦争や世の中のことに対して自分事として考えなければいけないと感じるようになりました。— やなせさんが今作をご覧になったら、どのような言葉をかけられると思いますか。中園: 恐れていた質問ですが、やなせさんのことを私以上によく知っている戸田恵子さんと梯久美子さんが「(やなせさんは)すごく喜んでいらっしゃると思う」とそれぞれ言ってくださったので、救われました。それを信じようと思っています。— 書き終えた今の気持ちをやなせさんに伝えられるとしたら、どういうことを伝えたいですか?中園: 「書かせていただいてありがとうございます」という気持ちが一番強いです。戦争のことはやなせさんの史実がなければこれだけ話数を割いて書くことができなかったので、その部分はやなせさんが書かせてくださったのだと思っています。◆「あんぱん」戦争の記憶を伝えるきっかけに—戦争そのものではなく、戦後“戦争が人に残したもの”を描いたのはどのような意図でしょうか?中園: 私たちは、親から戦争の話を聞ける最後の世代だと思うんです。同級生たちとやりとりをしていると、今まで親から戦争の話を聞いたことがなかった人たちが「あんぱん」をきっかけに、戦争について話を聞くようになったと。いかに親たちが口を閉ざしてきたか、どれだけ深く心に刺さっていたかを実感しました。メッセージ自体はずっと作品に込められていましたけれど、やなせさん自身も戦争について語り始めたのは晩年になってからです。みなさん話していないし、伝えていない。それほど深いトラウマが心に刺さっているということなのではないでしょうか。だったら、ぜひ今のうちに聞いてほしいのです。おじいちゃんに「戦争に行ったの?」って、おばあちゃんに「戦争のときどうだったの?」って。このドラマがきっかけになってくれたら、本当にありがたいです。★Vol.3に続く――(modelpress編集部)【Not Sponsored 記事】
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