【モデルプレス=2025/08/22】今田美桜がヒロインを務める連続テレビ小説「あんぱん」(NHK総合・毎週月~土あさ8時~ほか)の脚本を務める中園ミホ氏に、モデルプレスらがインタビュー。Vol.1となる本記事では、脱稿時の心境や今作を通じて伝えたいこと、そして最終回について聞いた。【写真】今田美桜&北村匠海、夫婦役で密着◆連続テレビ小説「あんぱん」今作は、“アンパンマン”を生み出したやなせたかしと妻・暢の夫婦をモデルに、生きる意味も失っていた苦悩の日々と、それでも夢を忘れなかった2人が、“逆転しない正義”を体現した「アンパンマン」に辿り着くまでを描く愛と勇気の物語。主人公の柳井のぶを今田、のぶの幼なじみで、夫の柳井嵩を北村匠海が演じる。脚本は連続テレビ小説「花子とアン」(2014年度前期)、大河ドラマ「西郷どん」(2018年)などを手掛けた中園氏が務める。◆中園ミホ氏「あんぱん」脱稿時の心境― 全130回分の脚本を脱稿された今の心境をお聞かせください。中園:遅筆のため、予定通りにちゃんと全部書けるのかと不安でしたが、無事に書き終えてホッとしました。朝ドラの脚本はかなり重責で、なんとか無事に終えられたなという気持ちです。それは倉崎憲さん(制作統括)のおかげでもあって、分刻みでスケジュールを入れてくるので“刻みさん”と呼んでいるのですが、締切前に「もうデッドラインです」と言われてしまうので、そのおかげでお尻に火がついて、早く上げられたと思っています。― 以前のインタビューで「脱稿したらお酒を飲みたい」とお話されていましたが、1杯目のお酒はいかがでしたか?中園:くらばあ(朝田くら/浅田美代子)と、行きつけのバーで飲み、ちゃんと二日酔いしました(笑)。朝ドラ執筆中は二日酔いなどできないので、くらばあも私も全開で飲んで、後半はよく覚えてないですけど、大変楽しく美味しかったです(笑)。― 脱稿したときの心境は「花子とアン」のときと比較していかがですか?中園:出産した人がよく「1人目よりも2人目の方がその先の辛さが分かっているから大変」と言っているのを聞きますよね。2度目の朝ドラですから、かなり覚悟していましたが、「花子とアン」の時は週6日放送だったのですが、今は週5日に。当時は5日くらいで書くことがなくなって6日目に苦労していたので、そういう意味では恐れていたほどではなかったです。でも、やっぱり大変でした(笑)。◆「あんぱん」“軍国少女”のぶを通じ伝えたいこと— 実在の人物を半年にわたって緻密に描いていくということの難しさや意義をお聞かせください。中園: やなせさんとは幼い頃に文通をしていました。大好きなやなせさんの話を描けばいいので苦労しなかったのですが、暢さんが大変でした。暢さんに関しては、お父さんを早くに亡くされていること、“はちきんおのぶ”と呼ばれていたこと、高知新聞でやなせさんと出会ったこと、中年以降山登りがお好きだったこと、高知新聞で広告費を払わない人にハンドバッグを投げつけたことなど、5つくらいの情報しかなかったんです。それで、暢さんと同世代の大正生まれの女性たちの手記や作文をたくさん読みました。橋田壽賀子先生、桂由美さん、田辺聖子さんら著名な方から一般の方まで読み漁ったら、当時、きちんと教育を受けたほとんどの女性が軍国少女でした。純粋な子どもや女性ほど染まりやすいんだと思います。そして終戦後、考えがガラッと変わって一回自分を全部塗りつぶすような体験をするわけです。これまでの朝ドラは、ヒロインの視点から銃後の守りを描いた作品が多かったので、ヒロインは反戦のキャラクターが多いですが、当時は反戦主義を貫く蘭子(河合優実)のような人はごくわずかで、忠信愛国に走った、のぶの方が普通の女の子の姿でした。そこは正直に書かなければいけないと思いました。だけど、許嫁が戦死した蘭子に向かってのぶが言う「立派やと言うちゃりなさい」というセリフを書きながら、「美桜ちゃん大丈夫かな?」と思っていたし、観ている人も「何このヒロイン」と思うだろうなって。妹の大好きな、子供のときからずっと知っているお兄ちゃんが亡くなったときにこんなこと言うってどうなんだろうと。私自身も書いていてとても辛かったですし、「このヒロインにはついていけない」という意見もありました。でも、脚本はブレてはいけませんから…。あそこだけ見るとヒールですよね。それを着物の袂を濡らして、今田さんはとても健気に演じてくれました。でも当時はのぶのような軍国少女が大半だったのです。だからこそ戦争って恐ろしいんだということをみんなに知ってほしいなと思っています。◆“何者でもない”のぶに映したリアルな女性像— 晩年、嵩がどんどん活躍していき、のぶが「自分はなんて普通なんだろう」と悩む場面があります。もっとのぶが活躍していく可能性もあったと思いますが、なぜこのように描かれたのでしょうか?中園: のぶみたいな女性は、私の周りにもたくさんいたんです。夢を持っていた女の子たちが、結局夫のため、子供のために支える人になり、自分は何者にもなっていないと感じてしまう。実はそういう女性ってすごく多いのではと思うのです。暢さんは、夫のことも支えていたし、自分はお茶の先生になってやりたいことを叶えていったと思いますが、ドラマののぶは、幼い頃にお父さんから言われた「女子こそ大志を抱け」という言葉を叶えただろうかと立ち止まることもあったのではと思いました。そういう心の叫びはしっかり描きたいと企画の段階から思っていました。暢さんを知っている方になんとか取材をしようと探し回ったのですが、同じマンションに住んでいたノンフィクション作家の梯久美子さんも、アンパンマンの声優をしている戸田恵子さんも、編集者の方々も、ほとんどお会いしたことがないそうです。陰では一生懸命やなせさんのことをサポートしていたけれど、表には出てこなくなっていったのだと感じました。いろいろ考えていく中で、ひょっとしたら暢さんも何者にもならなかった自分を想ったり、悩んだりする日もあるんじゃないのかな、という気持ちで描きました。— 亡くなった暢さんがもし今作を観ていたらなんと言われると思いますか?中園:多分 「全然違うじゃない」と言われるかもしれません(笑)。ドラマの都合で幼馴染みにさせてもらったので。でも、やなせさんが小さいときに気が弱くて男の子とは遊ばず、気の強い女の子と遊んでいた話はご本人から伺いました。そうしたのは私の責任なので、そこは「どうなってんのよ」って叱られるかもしれないですね。◆中園ミホ氏「朝ドラ向きの脚本家ではない」— 今作は多くの視聴者に愛され、「あんぱん」とRADWIMPSのスペシャル番組の放送があったり、「MUSIC GIFT」という音楽番組で「あんぱん」スペシャルステージがあったりと大きな広がりを見せていますが、どのように受け止めていらっしゃいますか?中園: 心から良かったなと思っています。私は自分でも朝ドラ向きの脚本家ではないという自覚があるんです。個性的な尖ったキャラクターを書いてしまうし、明るくまっすぐなヒロインにはならないのです。でも、NHKが私にオファーしたのだから、そこは諦めてと(笑)、私のタッチで書かせていただきました。毎朝楽しく観てくださり、愛してくださったとしたら、本当にありがたいです。— ご自身としては、26週分で全部出し切ったという感じですか?中園: 実は、出し切ったとは思っていないんです。「このエピソードも書きたかったな」ということもあります。— 本当は1年ぐらい欲しかったり?中園: 朝ドラ執筆は時間との戦いなので、もう少しゆっくり書けたらと思う部分もありますが、そうなるとお酒を思いっきり飲めるのがもっと先延ばしになってしまいますよね。これぐらいで良かったかもしれない(笑)。◆中園ミホ氏、最終回は100通りの構想— 物語の結末について、話せる範囲でお聞かせください。中園: 脚本家というのは、書き始めたくらいの時期から最後の結末をぼんやりと考えているものなんです。書き進めるにつれて、こういう感じかな、やっぱりこうかな…って。今回も書いているうちに100通りぐらいの終わり方を考えていたと思います。その中で今回の結末を選びました。視聴者のみなさんのためにも、最後にのぶと嵩の幸せの形を描いたので、ぜひ楽しみにしていただきたいです。— 脱稿されたばかりですが、もし3作目の朝ドラの話があったら描きたい題材はありますか?中園: 朝ドラを書くと「私のことも書いてくれ」「朝ドラのヒロインにしてくれ」という方がいらっしゃるんです。だけど、先週脱稿したばかりなので「いや、さすがに今それは考えたくない」とお断りしています(笑)。朝ドラとは別で描きたいものはあって、頭はもう次の作品に向かっています。★Vol.2へ続く――(modelpress編集部)【Not Sponsored 記事】
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