自主避難いじめ、関係性を問い直して判断を | NewsCafe

自主避難いじめ、関係性を問い直して判断を

社会 コラム
東日本大震災に伴う東京電力・福島第一原発の事故によって横浜市に自主避難してきた小学生はいじめを受けていた問題が、ある意味で、“騒動”になっています。それは、ゲームセンターなどでおごり・おごられていたこと自体が、いじめとされていなかったからです。横浜市教委には抗議の電話が多くかかってきています。

 自殺や不登校など、いじめによる「重大事態」が起きた場合、いじめ防止対策推進法により、横浜市教委の第三者委員会である「いじめ問題専門委員会」が調査することになっています。この調査結果を市長に報告した後、市長が再調査を必要とした場合は、市長のもとにある「いじめ問題調査委員会」が再調査をすることになります。条例上、教育長や市教委に報告書の是非を論じる権限は明確ではありません。

 専門委は調査の結果、いじめの内容や形式は、それぞれの時期で違っているといいます。以下の5つの期間に分けています。

 1)小学2年生8月~2年生6月、一定の「いじめ」があったと認定
 2)3年生6~10月、この期間の不登校は「いじめ」との因果関係を否定できない
 3)3年生10月~4年生3月、一定の「いじめ」があったと認定
 4)5年生4~5月、非行・虞犯行為が中心で、「いじめ」とは認定できないが、被害児童のおごりの要因に「いじめ」が存在したことは認められる
 5)5年生5月~6年生3月、「いじめ」の因果関係は認めあっれないが、複合的な要因が絡み合った結果の不登校
 としています。今回の“騒動”は5)の期間です。

 被害児童がゲームセンターでおごる行為が、「非行・虞犯」として扱われています。これが「おごった」のか、「おごらされた」のか、認定が難しいとしながらも、おごるようになって、「プロレスごっこ」がなくなったとしています。

 このことについて、「採られた方法論は明らかに間違っているが、『いじめ』から逃れようとする当該児童の精一杯の防衛機制(適応機制)であったということも推察できる」としている。その上で、「おごりおごられ行為そのものについては、『いじめ』と認定することができないが、当該児童の行為(おごり)の要因に『いじめ』が存在したことは認められる」としています。

 金額が把握できないことが、「いじめ」と認定できない一因になっているようです。たしかに、百円くらいの「おごり・おごられ」だったり、一方的ではなく、双方が「おごり・おごられ」の関係であれば、いじめと認定できないと言われても納得するでしょう。しかし「おごり・おごられ」の関係は固定化していましたし、百円レベルではなく、一回に10万円程度の可能性を指摘されています。

 調査の前提には「いじめの定義」があります。1986年度に定義されたいじめは、1)自分より弱いものに対して一方的に、2)身体的・心理的な攻撃を継続的に加えて、3)相手が深刻な苦痛を感じているものーだったのですが、現在の定義では、「一方的に」「継続的に」「深刻な」が削除されています。

 調査の方法として、いじめの疑いのある事実一つひとつを判断していますが、「おごり・おごられ」の行為は、「一方的」な関係ですが、その要素は「いじめの定義」からは削除されています。また、この行為は「深刻な苦痛」から逃れるものですので、これも「いじめの定義」にはあてはまらないことになります。

 そう考えると、個別の行動を個々に判断していくという現在の調査方法や、そもそも「いじめの定義」が現実にそぐわないという問題にぶつかります。調査は現行法にのっとりするものです。法を無視して、いわゆる、社会学的に、どのように見ていくかというものとは違うのです。

 しかし、今回の場合、いじめから逃れるために、「おごり・おごられ」の固定化された関係そのものが「いじめ・いじめられ」関係と見ることができます。ですから、世論は反発するのでしょう。どのような関係性だったかを問い直し、その関係性にたって、一つひとつの行動を見ていく必要があるのではないでしょうか。
[執筆者:渋井哲也]
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