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【コラム】過労自殺と遺されたもの

社会 コラム
過労自殺の報道が続いています。長時間労働に焦点があたりますが、自殺までに至る場合、単に長時間労働だけでなく、大きな心理的なストレスを抱える場合があります。一方で、遺された近親者の人たちの心理も心配になります。

関西電力の男性社員(40代)が自殺しましたが、労働基準監督署は「労災」認定しました。いわゆる過労自殺です。高浜原発(福井県)の1号機と2号機の運転延長に関する、原子力規制委員会の審査対応に当たっていたといいます。出張先の都内のホテルで、今年の4月20日、自殺していたことが見つかったものです。

高浜原発の運転開始は1号機が1974年11月、2号機が75年11月。すでに40年を超えています。40年で廃炉にするルールは、13年7月、原子炉等規制法に盛り込まれました。ただ、ルールが施行されるまで3年の猶予があったのです。延長するには7月7日までに原子力規制委員会の審査手続きを終えなければいけませんでした。自殺した男性はこの担当者ということです。

過労自殺といえば、大手広告代理店、電通の社員だった高橋まつりさん(当時24)が昨年12月25日、自殺をしたのですが、労基署は時間外労働が105時間だったのして、労災を認めました。

電通はここ二年間で、違法な長時間労働をさせたとして、大阪と東京の労基署から是正勧告を受けていました。14年6月、関西支社が、15年8月にも、都内の本社が是正勧告を受けていたのです。そんな中で、東京本社勤務の高橋さんが自殺したのです。ツイッターを読むと、セクハラやパワハラではないかと思われる内容も含まれて、自己嫌悪になり、自殺願望を持つような内容になっていきました。

私が過労自殺をはじめて取材したのは1996年ごろだったように記憶しています。そのときの自殺が労災認定された理由の一つにメモがありました。当人の出社時間や帰宅時間などが書かれていたものがありました。時間だけでなく、他のこともメモもあったために、真実性が高いと認められたのです。ただ、家族も長時間労働だということはわかっていました。しかし、景気が悪化する中で、何も言えない状況だったといいます。

過労自殺の場合、うつ病を発症しているのでは?と思わせる心理が直前にやってきます。しかし、多くの場合、一所懸命に働いているイメージを周囲は持っているために、気がつきにくいのです。ときには本人も「元気さ」をアピールします。また、頑張り屋さんだったりします。そのため、働き続けることは苦でありながらも、仕方がないと思いがち。「そんな会社を辞めてしまえばいい」という発想にもなりにくいのです。

そのため、遺された周囲のたちは、気がつかなかったことに自責の念が出たリします。私は、生前の高橋さんに一度会ったことがあります。何を話したのかは忘れてしまいましたが、大学生が総合週刊誌の編集部でアルバイトをしているのが不思議でなりませんした。東大合格のとき、たまたまテレビのインタビューで「週刊誌の記者になりたい」と答えていたため、編集部は彼女を見つけたようです。

一度しか会ってない私でさえ、彼女のツイッターやフェイスブックを見て、いろんなことを考えてしまいました。彼女の近くの人たちは「あのとき、何かができたのではないか?」「ツイッターを見て、どうして声をかけなかったのか?」などと後悔していました。遠い関係の人でさえ、彼女の記事を読んで、考え深げでした。

遺された人たちは様々なダメージを受けます。ある意味で、自然な反応です。そんなときは、共通の知人がいる場合は、いろんな思い出話しにをする場を作っておくと、気持ちが整理されることがあります。一方、よりネガティブになることもあったります。私もそんな場面に遭遇しましたが、一対一でゆっくりと話を聞くと落ち着くことがありました。

ただ、それでも落ち着かない場合は、カウンセリングなどが必要になることもあるでしょう。落ち込んでいる本人自ら病院やカウンセリングルームに行ける人はよいですが、そうした専門機関に行かない人も多くいます。そのときは一緒に行くのもよいのではないでしょうか。亡くなった人を思い、感情は揺れ動きます。癒す場が身近にあればよいですが、時には専門家を頼ってもよいでしょう。
[執筆者:渋井哲也]
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