女性の健康をどう支援するのか | NewsCafe

女性の健康をどう支援するのか

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女性の健康を包括的に支援することが目的の法律案が国会で審議中です。自民党が策定した「女性の健康の包括的支援の実現に向けて<3つの提言>」にもあるように、男女共同参画社会との関連で位置付けられ、生涯を通じた女性の健康の支援することが目的です。しかし、2年前の通常国会に提出されたものですが、なぜ今も話し合いが続いているのでしょうか。

法律案を読むと、一見すると、良さそうな内容に思えます。ライフステージごとの課題をあげて、その段階に応じた支援をしようとしています。が、どんな「女性」をイメージするかによっても変わってきます。「女性の多様な需要」に対応するようになっていますが、人生のある段階になったら、「女性は出産するもの」という前提があるのではないでしょうか。

たしかに、出産したい女性が出産しやすい環境にしていくことは望まれます。そのために、女性の労働環境や産科情報の提供、産前・産後ケア等の充実は必要です。一方で、リプロダクティブ・ヘルツ/ライツの考えを取り入れようとするのならば、そもそも出産するかしないかは女性の権利という視点も必要になります。

法案には「国際的な動向および連携に配慮する」とあります。リプロダクティブ・ヘルツ/ライツは「性と生殖に関する健康・権利」のことで、1994年のカイロで行われた国際人口開発会議で提唱されました。翌95年の北京で開かれた世界女性会議では、「リプロダクティブ・ヘルツ/ライツがすべてのカップルと個人が有する人権の一つ」とうたわれたのです。

また、いつ結婚するのか、またはしないのかという点も同じです。いわゆる結婚適齢期というのは、出産前提の考えでしょう。妊娠・出産が難しい人のための不妊治療への支援は法律には明記されていません。「安心して子どもを生み、育てることができるよう当該医療(助産を含む)を提供する施設の確保」とありますが、わざわざ「助産」とあるのに、「不妊」がはいっていません。

さらには、身体的には「女性」だが、自認する性が違っている場合への支援も含まれていません。女性の身体をもちながら、女性ではない性を自認する場合(トランスジェンダー<生まれながらの性別と、自認する性別が異なる人>またはXジェンダー<女性や男性という性自認はない>、パンセクシャル<そもそも性別を意識しない人>など)、どのような支援をするかは記されていません。自民党内には「性的指向・性自認に関する特命委員会」があるにもかかわらず...です。

ところで、自民党の提言には性教育の現状が描かれています。以下が抜粋です。

中学校では、思春期には、内分泌の働きによって生殖に関わる機能が成熟すること、成熟に伴う変化に対応した適切な行動が必要になること(第1学年)、性感染症を含めた感染症について、その疾病概念、感染経路及び予防方法等(第3学年)、高等学校では、受精、妊娠、出産に伴う健康課題や家族計画の意義、人工妊娠中絶の心身への影響、などについて理解できるようにしている。また、就労等の生涯設計などについても教育がなされており、こうした学校での活動を通じて、異性を含む基礎的な対人スキルを習得できるような指導がなされている。

一般社団法人家族計画協会の「男女の生活と意識に関する調査」によると、男女とも18歳で性体験をする人たちが30%に達します。つまり、高校卒業段階ではほぼ3人に1人は性体験をしています。ちなみに50%に達するのは男性は20歳、女性は19歳です。70%になるのは男性が24歳、女性が22歳です。しかし、「性交」について学ぶ機会はありません。

また、リプロダクティブ・ヘルツ/ライツを意識するのなら、そもそも性の自己決定や避妊にもついても取り上げられなければなりません。また、非婚や不妊、出産する/しない選択についても同じことが言えます。生涯を通じての性交は、出産をしない前提のものが多いはず。そのことが書かれていないのは不自然に思えます。

このように学校教育で性交についてはタブー視されているのが現状です。妊娠や出産につながる性交も大切です。ただ、圧倒的に多くなるはずの妊娠や出産をともなわない性交についてはパブリックには学ぶ機会がない現状はそのままでよいのでしょうか。

野党は修正案を出しています。しかし、中途半端に議論され、修正されるよりも、法案をゼロから作り直すべきではないかと思えます。リプロダクティブ・ヘルツ/ライツと「性的指向・性自認」を両立させ、かつ結婚するかしないか、子どもが欲しいか否かを踏まえて、より「包括的な健康支援」が必要ではないでしょうか。


[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中
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