災害取材で嫌われるマスコミ | NewsCafe

災害取材で嫌われるマスコミ

社会 ニュース
熊本地震の取材中、関西テレビのクルーがガソリンスタンドの列に割り込んだことがツイッターで話題になりました。関西テレビも公式サイトで「4月17日午前7時45分ごろ、熊本県菊陽町のガソリンスタンド付近で給油待ちをしていた車の列に割り込んでスタンドに入り、給油していた」と事実を認めて、「あってはならない行為」として謝罪しました。

これはもともとはツイッターで投稿されたもの。熊本県内のツイッターユーザーが17日午前8時10分ごろ、関西テレビの中継車が給油している写真を載せた上で、こうつぶやきました。

「ガソリン入れるために朝早くからたくさんの人が並んでたのに横入りされて、母が『後ろに他の人もいるので並んでください』て言ったのにも関わらず無視して我先にとガソリンを入れてました。テレビ局だからいいんですか??もうすこし考えて欲しい」

フォロワーが700人台(19日現在)でしたが、5万1千リツイートされました。それだけ、災害取材時のマスコミ取材が批判されたことを意味するのだと思います。

これにさらに輪をかけたのが、関西テレビと同じフジテレビ系列の仙台放送の社員と思われるユーザーが、

「熊本でテレビ局の中継車がガソリン給油で横入りしたと騒ぎが出ていますが、話を調べると自分たちの燃料をドラム缶等で持ち込んで来ていて、危険物の管理をGSにお願いしているらしいです。五年前の東北の地震の時も同じような事が流れたので直接調べました」

と書き込みをしました。関西テレビが公式に謝罪をしたのはこの後です。火消しのツイートをしたユーザーは書き込みを削除。ネットユーザーが誰かを探った結果、特定したのです。そして、仙台放送も次のようにお詫びを発表することになったのです。

「弊社の関連会社の社員が、熊本地震を取材中の系列テレビ局のモラルを指摘するツイッターへの投稿に関連して、17日午後、事実とは異なる虚偽の投稿をしていたことがわかりました。報道機関に携わる者として、あまりに軽率であり、あってはならない行為でした。今回の件で、多くの皆様に不快な思いを抱かせてしまいましたことを、深くお詫び申し上げます」

そもそも報道車両は、被災者よりも優先されるのでしょうか。災害対策基本法によると、「指定公共機関」に報道では唯一、NHKが入っています。都道府県知事は、法令や地域防災計画にもとづいて、指定公共機関に通知や要請をすることになっています。「指定公共機関」の車両は緊急車両扱いです。原則的として、NHKの報道車両は緊急車両となります。

それ以外の報道機関はどうなのでしょうか。阪神大震災後に定められた日本新聞協会と警察庁の申し合わせ「災害時における報道関係車両の取り扱いについて」(96年10月22日)で、「指定公共機関」または「指定地方公共機関」に指定されていない報道関連車両でも、一定の要件を満たした場合は、「緊急通行車両」と認める、というものがあります。

東日本大震災では警察も混乱していました。私も報道で許可証を取り、取材活動をしていました。ガソリンスタンドでも一般車両と緊急車両とを区別しているところとしていないところがありました。首都圏では区別しているところを見かけましたが、東北の被災地ではほとんど区別していませんでした。

ただ、問題は報道車両が緊急車両扱いになるのかどうかではなく、被災地での振る舞いだろうと思っています。基本的に、取材活動でどうしても必要な場合以外、報道車両が被災者より優先的に扱われる所以はありません。まして、ガソリンスタンドでの割り込みは正当化されないため、なんらかの理由で緊急性が生じたときには、それなりの振る舞いが必要になります。

デイリースポーツWeb版(4月18日)によると、中継車は益城町の福祉センターで中継スタンバイし、他のスタッフの取材素材を送信する作業などがあり、時間が切迫していたのです。またガソリン残量が少なく、その日の中継作業に支障をきたす状態でした。同局は、災害取材などの際は、中継車の給油は夜間などに行う内規がありますが、前日深夜まで稼働していたため、給油機会を逃していた、といいます。

こうした事情があった場合、現場の危機管理の問題です。上記の理由であるならば、「私的」な理由のため、事情を並んでいる人たちに説明し、了承を取る必要があります。「車内から頭を下げただけ」で終わらせてしまったことが問題ではないかと思われます。

大きな事件や事故、災害があると、映像を優先するマスコミは「我先に」と思う「習性」があります。先週、新宿ゴールデン街の火災でも、消防隊員が「危ないから下がって!」と呼びかける動画があがっていましたが、動画をあげた人の説明では、注意を受けていたのはマスコミのカメラマンだったようです。もし本当であれば、マスコミが消火活動を邪魔したことになります。

私も取材する側として「我先に」と思わなくもありません。しかし、映像優先でなく、話を聞く取材をするものとして、また、震災取材の場合は、そのときだけでなく、継続取材をしたいと思っていたため、無理な取材、撮影はなるべく避けてきたつもりです。

ただ、東北の震災取材で、相手の心情を配慮できなかったと自覚したことが何度かありました。そのうちの何人かとは、その後もつながっています。ただ、1人だけ連絡先が分からない人がいます。いつか、あのときのことをきちんと説明したいと思っています。

[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中
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