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生徒指導にからんで子どもが自殺すること

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広島県府中町の府中緑ヶ丘中学校3年の男子生徒(当時15歳)が昨年12月自殺していたことがわかりました。学校が作成した調査報告書によると、その生徒がしていたかのような誤ったデータがサーバーに残っていました。そのデータをもとに、進路指導をしていたことがわかっています。生徒指導によって、子どもが自殺することがあることは、特に学校現場ではまだ理解が足りないようです。

「指導死」という言葉があります。生徒指導によって息子さんが自殺した大貫隆志さんが作った言葉です。2000年当時、大貫さんもこうした理由で自殺をする子どもが他にいるとは考えていませんでした。多くの遺族と出会うことで、生徒指導後に自殺をすることがあることがわかりました。大貫さんは「指導死親の会」を作りました。

現在は研究者も注目するようになり、指導死が定義づけられました。「『指導』と考えられている教員の行為により、子どもが精神的あるいは肉体的に追い詰められ、自殺すること」。体罰など暴力を伴う指導は広義の『指導死』としています。大阪市立桜宮高校でバスケットボール部員が自殺しましたが、裁判で、大阪市は元教員による体罰と自殺の因果関係を認めました。

「指導死」は、平成になってから広島の事件を含めると63件となりました。このうち、肉体的な意味での暴力はなく、指一本触れないで子どもが亡くなったのは85%というデータがあります。「親の会」の大貫さんによると、「指導死」は以下のような特徴があります。

・長時間によるもの(長いもので4時間45分)
・複数の教員による指導
・精神的な暴力を伴うことがある
・冤罪型の指導
・密告を強要する
・連帯責任をとらせられる
・目的から外れた指導となる
・不釣り合いの罰則がある
・子どもを途中で1人にする
・教育的観点のフォローがない。

府中緑ヶ丘中学の場合は複合的な要因が絡んでいます。一つは先ほども指摘した元データの入力ミスです。一度、会議では誤りであるとの共有ができましたが、元データは変更されませんでした。また、私立高校受験の推薦の判定にそのデータが使われました。亡くなった生徒には廊下で5回の指導がなされ、生徒は否定しなかったと言われています。推薦の判定基準がこれまでは1年間の素行でしたが、今年度から3年間の素行を判定基準とするように厳しくなったことも一因です。

万引きをしている前提の指導だったという意味では「冤罪型」です。また、万引きの記録は一年生のときのものです。今年度からの厳しい基準という意味では「不釣り合いの罰則」とも言えなくもありません。さらに私立の受験が厳しくなること。母親に知られてしまう直前のことと考えれば、「精神的な暴力を伴う」とも言えます。

こうした問題が起きる時、学校や教育委員会では隠そうとする力学が働くことがあります。しかし、早い段階で、内部調査が行われました。そして受験が終わった時期に公表されたのです。学校が絡んだ自殺を取材していると、「公表するとマスコミ報道がされ、事実が歪められ、公正中立は調査がしにくくなる」などと言われ、遺族は公表しないことがあります。その場合、なかなか調査がされず、遺族が苛立つ、ということも稀ではありません。

調査公表は早期にされたことは評価できると思います。しかし、まだ曖昧な点があります。そもそも、進路指導を廊下で行うのか、という点です。廊下では誰かに聞かれてしまう可能性がありますし、なかなか意見が言えない生徒にとってはよい環境とは言えません。今回の生徒も、万引きの件を否定しなかったと伝えられていることを考えると、担任との関係になんらかのプレッシャーを感じていたのかもしれません。

担任は普段どんな指導をその生徒にしていたのかも見えてきません。ただ、担任をスケープゴートにすることは簡単です。広島県教委の下崎邦明教育長は「一言で言えばバラバラ。組織としての体をなしていない」と批判しています。たしかにそうですが、県教委としても現場を批判するだけでなく、システムとしての原因を自らも検証しなければなりません。

さらに、生徒の自殺が起きたとき、学校や教委は「子どもたちの心のケア」という言葉をよく使います。たしかに必要ですが、心のケアをすることと、調査を行うことが対立しないやり方があります。さらには、「生きている子どもたち」を優先し、遺族が放置されることもよくあります。しかし、文科省もマニュアルで定めていますが、遺族のケアをすることが求められます。

広島・府中緑ヶ丘中学の事件が知られたのを機に、体罰がなくても生徒指導の後に子どもが自殺する。あるいは自殺までしないまでもそこまで追いつめられることがあることは知られるべきだと思います。

[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中
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