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いじめの有無だけでなく、自殺予防の観点で調査を

社会 ニュース
3月は自殺対策強化月間です。日本では平均して、年度末になる3月が自殺が多くなります。平均して、と書いたのは、2011年の場合は例外でした。3月に東日本大震災が起きたために、社会に緊張感が生まれ、また、死やいのちを意識したことが多かったためでしょう。ただし、2ヶ月後の5月には自殺が増えたのです。その震災も5年目になろうとしています。

子どもの自殺で最近注目されたニュースとしては、大阪市立桜宮高校バスケットボールの主将だった男子生徒の自殺があります。遺族は、生徒が自殺したのは顧問=懲戒免職=による繰り返された体罰によるのが原因として、大阪市に約1億7400万円の損害賠償を求めていました。2月24日、大阪地裁(岩井伸晃裁判長)は、自殺と体罰との因果関係を認めました。市に対しては7500万円の支払いを命じました。大阪市は控訴しない方針とのこと。

判決によると、元顧問は1994年の就任当時から暴力を繰り返してきました。男子生徒が自殺する一年以上前から、暴力を告発する通報が市には寄せられていたといいます。しかし、それを市は事実上、放置したのです。元顧問の行為は「教育上の指導として法的に許容される範囲を著しく逸脱した虐待行為」と断じました。

文科省は部活動指導のガイドラインとして、特定の生徒に対して、執拗、過度に肉体的、精神的負荷を与えることを禁じています。例えば、野球部では、野手とは違って、投手は特別な練習メニューをこなさせることになります。しかしこの場合、一定の合理的な根拠があります。陸上部の長距離の練習でも同じことが言えます。問題は、そうした合理的な根拠以外の場合です。

桜宮高校バスケットボール部での体罰はそうした基準にわかりやすく違反していたことで、裁判所も遺族側の勝訴の判決を出しました。また、市側も控訴しないといいます。

しかし、自殺問題となると、生徒間のいじめなど難しい問題が生じます。そもそも、いじめは加害者側が固定メンバーとは限りませんし、発覚しないようにするものです。他の生徒との力関係によっては、口止めをするような性格のものです。

いじめによって自殺、あるいは自殺未遂、もしくは長期の不登校なるといった「重大事態」になれば、いじめ防止対策推進法によって、家族あるいは遺族(以下、遺族)は学校もしくは設置者に調査委員会の設置を要請できます。しかし、「いじめの有無」「いじめがあった場合、学校が認識できたか」「認識していた場合、自殺などを予見できたか」などが焦点になります。

もともといじめは隠蔽をしようとすればできる可能性があるものです。遺書やメモに加害者の名前がない場合もあります。ラインやツイッター、ブログ、メールを見ても、具体的な加害者、加害行為がわからない場合も多くあります。その場合、いじめそのものが認定されません。そして、まるで、いじめがなかったのだから、自殺したは家庭の問題、あるいは本人の性格の問題かのように言われてしまうのです。

万が一、家庭の問題、あるいは本人の性格の問題だったとしましょう。それで、学校は子どもの自殺に関して無関心でいてよいのでしょうか。文科省では「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」と称するマニュアルを作り、学校へ配布しています。学校は子どもの自殺予防も求められるところなのです。

それによると、自殺のサインと対応、自殺予防のための校内体制、自殺予防にための校外における連携、さらには、不幸にして自殺が起きてしまったときの対応が書かれています。このマニュアルでは、自殺の原因を「いじめ」に限定していません。 そして、自殺直前のサインや対応の原則も書かれています。

すべての教師がこうした知識を持つことが理想ですが、現実には一部の教員に偏らざるを得ません。関心の強い教員や担当教員、養護教諭、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなど、校内の他職種の人たちとの日常的に情報交換することが求められます。場合によっては児童相談所や警察とも必要になります。

またマニュアルでは、遺族のケアをすることになっていますが、私が最近、取材した複数のケースは、ケアがなされていません。もちろん、取材するケースは学校との関係ではない場合もあります。だからとって、拒否されたら仕方がありませんが、ケアをしなくてもいいということにはなりません。

さらに、調査委員会が開かれると、学校側が多くの資料を提出します。しかし、中立公平の観点から、遺族は調査中にそうした資料を見ることができません。私が取材したいくつかのケースでは、学校での資料を見るために、情報公開請求しています。遺族の知る権利が十分ではありません。

子どもが自殺した場合、現在、いじめの有無が議論されることが多いとは思います。もちろん、それも大切なことです。しかし、なぜ学校では自殺のサインや予兆を見逃したのかという観点も必要になります。遺族が知りたいのはなぜ子どもが自殺をしたのか?、自殺は止められなかったのか?ということです。いじめだけに固執しない調査が求められます。


[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中
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