増加する貸切バス。不足する運転手 | NewsCafe

増加する貸切バス。不足する運転手

社会 ニュース
1月15日午前1時55分ごろ、長野県北佐久郡軽井沢町の国道18号碓氷バイパスの入山峠付近で、大型観光バスが道路脇に転落しました。20日のテレビ朝日「ワイド!スクランブル」では事故直前、交通カメラに映ったバスの映像を流しました。すでに蛇行運転をしている様子がわかります。この後に事故が起きます。定員45人のうち乗客は39人が乗っていましたが、運転手2人を含む15人(20日現在)が亡くなりました。ほかの乗客も全員がけがを負っています。面会謝絶の人もいるようです。

事故にあったバスは。格安ツアーを売りにしている旅行会社「キースツアー」(渋谷区)が企画し、「イーエスビー」(東京都羽村市)がバスの運行していた斑尾高原スキー場(長野県飯山市)へのツアーでした。

格安バスは1990年代からも多くありました。私自身も学生時代、長野県内のスキー場へ行くのに、格安バスツアーを使いました。今ではスキー場へ行くことはほとんどありませんが、格安バス自体は使っています。

先日も名古屋に行くために、出張費を浮かそうと、東京から名古屋間で2000円台、名古屋ー東京間で3000円台のものを利用しました。学生だけでなく、フリーランスで働いている人にも格安バスを利用している人は多くいます。ほかにも、頻繁にアーティストのライブに出かけている人もいるでしょう。

国土交通省の資料によると、貸切バスの事業者数が1000社を超えたのが1987年(昭和62年)で、1032社。私が初めてスキーツアーでバスを利用したのは1989年(平成元年)で1137社でした。それが1998年(平成10年)で2122社、9年で1000社増え、2000社を初めて超えました。さらに1000社増えて、3000社となるのは2001年(平成13年)。4000社を超えるのは5年後の06年(平成18年)です。

これに対して、輸送人員はそれほど増えません。1000社を超えた87年では約2億2500万人でした。3億人を超えるのは05年(平成17年)です。その後は事業者の増加に比べて、輸送人員が比例するようには伸びません。となれば、価格競争にならざるを得ません。そのため、営業収入も伸び悩みます。ピークだった92年(平成4年)には約7665億5千万円でしたが、05年は3898億9600万円で、半分に減少した時期もあります。

その後、やや持ち直していますが、市場規模は減少傾向です。にもかかわらず、事業者が増えているのです。となれば、格安、激安競争をせざるを得ない面が出てきます。2000年2月から、貸切バスは「免許制」から「許可制」になりました。この規制緩和が3000社を超える事業者となった背景にあります。ただし、貸切バスの事故率の変化はあまりありません。

かつて、1985年1月に起きたバス事故では、北志賀高原(長野県山ノ内町)に向かいっていバスが犀川に転落。乗員と乗客46人のうち25人が死亡しました。これは規制緩和の前の事故です。その意味では、規制とは関係ない出来事です。一方、規制緩和後の事故としては、12年4月、関越自動車道の藤岡ジャンクション付近で起きた事故があります。乗客7人が死亡しました。この事故で、高速バスツアーの安全対策強化が打ち出されていました。

今回の事故でゼミ生を亡くした法政大学の尾木直樹教授は19日、参議院議院会館での講演で「12年の関越自動車道のバス事故できめ細かいルールの変更があって、現場は良くなっていると信じていました。むしろ悪くなっている」と発言するほど、悲しみと怒りを抱えています。

もちろん、安いツアーを利用したい層は必ずいます。そのため、格安や激安の競争が行われるのは歓迎すべき点です。私もその恩恵に預かっています。一方で、バスの運転手は人手不足です。関越道のバス事故の運転手は、短期雇用で、日本国籍を取得したばかりの、日本語があまりできない中国残留孤児の子弟でした。しかも運行していた「陸援隊」は震災によって外国人観光客が激減したために、夜行バスに本格参入していました。経営もずっさんだったことも明るみになったのです。

今回のバス事業者の経営もずさんで、人出不足を理由に、大型バスの運転が苦手な高齢ドライバーを雇っていました。若者の労働環境の劣悪さはクローズアップされますが、高齢者の労働環境も注目すべき事態がこの事故には見られると思います。過労状態だったことも指摘されています。そして、このドライバーは一義的には事故の当事者としては加害者の面がありますが、一方で、労働環境だけでなく、遺体の引き取り手がいないことを考えれば、社会的に孤立していた人という意味で、悲劇的な結末ではないでしょうか。

激安競争の中で、こうしたずさんなツアー会社と運行会社の組み合わせで事故が生じしてしまったことになります。国交相のホームページには、過去3年間の行政処分の対象になったバス会社を検索できるコーナーがあります。しかし、直近もデータは反映されていません。また、申し込みはツアー会社のため、どんなバス会社なのか?またどんな運転手なのかはなど、すべての情報をチェックできるわけではありません。そんなところに、悪徳業者が入り込む隙があるということなのでしょうか。

[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中
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