著作権「非親告罪」で二次創作は? | NewsCafe

著作権「非親告罪」で二次創作は?

社会 ニュース
TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の合意内容が「内閣官房TPP政府対策本部」の11月5日付の資料で明らかなりました。貿易全般に渡るために、多くの内容が盛り込まれています。今後は、これらの合意事項を国内法の整備に落とし込む国会での作業が待ち構えています。

TPPは、日本、アメリア、カナダ、メキシコ、ペルー、チリ、ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール、マレーシア、ベトナム、ブルネイといった「アジア太平洋地域」で、モノの関税だけでなく、サービス、投資、知的財産、金融サービス、電子取引、などの分野でのルールを定めた経済連携協定です。10月に、閣僚会合で大筋合意となりました。

フリーライターという私の仕事や、ネットユーザーなどに関係しているものとしては「知的財産」が挙げられます。とくに、著作権またはその周辺の権利についてが最も関心がある事項ではないでしょうか。大きく変わる点としては保護期間と非親告罪化です。とくに、非親告罪化は、日本の漫画・アニメ文化のベースとなってきた同人誌業界にとって大きな影響が出かねません。

日本の現行の著作権法は、著作者の生存期間および死後50年までを保護期間の原則としています。無名または、知られていないペンネームなどでの著作物は、公表後50年まで保護されています。また、映画の著作物の著作権は70年間、保護されることになっています。

これまで日本でも文化審議会で保護期間の延長に関して話し合いが持たれてきましたが、実現はしていませんでした。今回のTPPでの合意では、

(a)自然人の生存期間に基づいて計算される場合には、保護期間は、著作者の生存期間及び著作者の死の後少なくとも70年
(b)自然人の生存期間に基づいて計算されない場合には、保護期間は次のいずれかの期間
(ア)当該著作物、実演またはレコードの権利者の許諾を得た最初の公表の終わりから少なくとも70年
(イ)当該著作物、実演またはレコードの創作から25年以内に権利者の許諾を得た公表が行われない場合には、当該著作物、実演又はレコードの創作の年の終わりから少なくとも70年

ということになりました。つまり、これまで日本でも著作者の死後「50年から70年に」という議論がなされてきましたが、その主張がTPPによって実現する方向になっています。また、法人その他の団体が著作権を持っている場合は、公表後50年となっていましたが、70年に延長される見込みです。

今回の合意で最も話題になったものは、著作権侵害による刑事罰を「非親告罪」とする、というものです。日本の著作権侵害の刑事罰はほぼ「親告罪」です。つまり、著作者が告訴しない限り、公訴提起できません。つまり、警察は捜査できますが、検察は起訴できないのです。「非親告罪」にすることは、告訴がなくても、起訴できるようにしようとするものです。

合意内容にはこのようにあります。

1、商業上の利益・金銭上の利益のため行われる、又は著作権者等の市場における利益に実質的かつ有害な影響を有する重大な行為につき刑事罰を規定する。
2、登録商標の許諾を得ることなく商標を付したラベル又は包装の故意による輸入及び国内使用に対する刑事罰規定
3、映画盗撮についての刑事罰規定
4、故意による商業的規模の著作権又は関連する権利を侵害する複製及び商標の不正使用を非親告罪とすること(ただし、著作権等の侵害については、その適用を著作物等を市場において利用する権利者の能力に影響を与える場合に限定することができる)

内容を読む限り、思っていたほど厳しい内容ではないと思われますが、「商業的規模」というのはどの範囲をいうのかが、これからどのように法改正議論がなされるのかがわからないため、なんとも言えません。

例えば、同人誌即売会などでも売買はなされているわけですが、ただ、同人誌即売会等で売買されているものが「市場において利用する権利者の能力に影響を与える」とは、到底思えません。同人誌でよく見られるいわゆるエロパロ(パロディーのひとつで、キャラクターを性的な表現するもの)は、オリジナルの市場を邪魔するとは考え難いからです。

こうした意味で「二次創作はOK」という話もネット上ではなされていますが、ただ、なにが許容される「二次創作」なのかはこれまで裁判の判例ではありません。そもそも、裁判では、オリジナルか海賊版か?が争われたことはありますが、二次創作かどうかで争うことはないからです。

もちろん、親告罪である現行法のもとでの著作権侵害でも、警察が捜査することができます。オリジナルへの許可なしでの二次創作の場合、オリジナルへの権利侵害になります。また、商店などでBGMや映像を無許可で流している場合、実演権を侵害したことになります。ただ、現在、警察が捜査をしないのは、起訴できないことや、コスト面の問題、また、一定の世論の動向から判断していると思われます。

今回の合意内容は、「二次創作がOK」というものではなく、オリジナルの市場を邪魔しないならば、「二次創作は非親告罪にしない」という話です。そのため、二次創作であっても、著作権者からクレームがあった場合は、それなりに対応しなければなりません。

具体的に、どのようなものが想定されるのかは、今後の国会審議に委ねられることになります。4日に開催された文化庁の文化審議会著作権分科会の法制・基本問題小委員会第6回会合では、これらの問題が検討されました。「コミケ文化は守ることが概ね合意された」とも伝えられていますが、改正法案がまだ出ていません。二次創作と海賊版の区別はどう規定するのでしょうか。

[ライター 渋井哲也/生きづらさを抱える若者、ネットコミュニケーション、自殺問題などを取材 有料メルマガ「悩み、もがき。それでも...」(http://magazine.livedoor.com/magazine/21)を配信中
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